430 :
1の場合:
(裸……っつーか下着姿でエプロン……いいな、それ)
ニヤリと俺は笑って、ゆっくりとベッドの中に潜り込み、足元に置いて
あった、美咲さんの服を、こっそりと足でベッドの中に引っ張り込んだ。
「……あれ? あれ? あれ? おかしいな、どこいったんだろ……」
美咲さんがおろおろしながら自分の服を探すのが、
目を瞑っていても手に取るように解る。
ちらりと薄目を開けると、下着姿の美咲さんがおろおろしながら
ベッドの周りをうろうろしているまことに刺激的な光景が広がっていた。
びば! ふぁんたすてぃっく! ごーとぅーへぶん! へぶんずどあー!
で、駄目押しに寝ぼけた振りをしてこんなことを言ってみる。
「美咲さ〜ん、ご飯まだ?」
「えっ、あっ、ごめんね、えっと……すぐに作るから!」
慌てた美咲さん――それは多分、俺が起きてしまうのではないか
という恐れもあったと思うが――はかなり逡巡した後、
「とりあえず、ご飯を作りながら探す」という結論に達したらしい。
なぜか俺の家に置いてある「朴念仁」エプロンを手に取って、
ちょっとためらう美咲さん。
(――朝ごはん、パンとマーガリン、それにコーヒーとスクランブルエッグ
くらいだったら、冬弥くんが起きる前になんとかなるよね……)
そんなことを考えているに違いない。
実は俺は既に起きているわ、臨戦態勢が整っているわなのだが。
美咲さんは下着の上から、エプロンを羽織ると、俺の部屋の粗末な
キッチンを使って、スクランブルエッグを作り始めた。
「〜♪」
下着姿というのをすっかり忘れてしまったのか、鼻歌混じりだ。
俺は音を立てないように(音を立てると美咲さんの頭の上に
「!」マークが発動、悲鳴をあげてスクランブルエッグの銃弾を
食らうことになる)美咲さんの後ろへ忍び寄り――。
<つづく>