葉鍵板最萌トーナメント2回戦Round91!!

このエントリーをはてなブックマークに追加
169琉一
「緑色の凶星」

 12月31日、深夜。年明けまであと30分。
 俺は美咲さんと一緒に、初詣に来ていた。
 大学の近くにある、そんなに大きくもない神社だが、
さすがにこの時期、この時間は、結構混んでいる。
 ちょっと油断したら、すぐに人の流れに飲み込まれそうなほど。
 人を押しのけるなんて事のできない美咲さんには、真っ直ぐ歩くのも大変そうだ。
「美咲さん、大丈夫?」
「だいじょう……あっ」
 押されてよろけた美咲さんの手を、とっさに掴み、引き寄せる。
 が、ちょっと勢いが強すぎて、俺の胸に抱き寄せるような形になった。
「あ……」
「あ、いや。美咲さん……平気?」
「う、うん……」
 冷たい空気の中で触れる、美咲さんの体温。
 握ったままの手から伝わる、強く握ったら壊れそうに柔らかい感触。
 零れる吐息が白い結晶となって、大気に散ってゆく。
「……」
「……」
 美咲さんは目を伏せたまま、何も言わない。
 離れるわけでも振り解くわけでもなく、ただ、今の時間を留めておきたい。
 そんな風に思える。
 俺はそんな美咲さんを間近にして……妙な居心地の悪さを感じていた。
 ん……? 居心地?
 なぜか俺は振り返ってしまった。そこには一人の巫女さんがいた。
 いや、神社なんだから、巫女さんの一人や二人、いても不思議じゃない。
 ただ……妙にはまっていない。一人だけ周囲の空間から切り離されたような。
 しかも、じっと俺を見ている。
 俺の視線を追った美咲さんが、俺よりも早くその正体に気づいた。
170琉一:02/01/09 02:29 ID:O4fmYVHb
「あ……はるかちゃん!?」
 慌てて美咲さんが俺から離れた。
「ん、今年もよろしく」
 まだ明けてない……って、
「は、はるか!?」
「冬弥もよろしく」
 言われてみれば、確かにはるかだ。しかし……巫女服とは。
 あまりにも違和感がありすぎて気づかなかった。
「なにやってんだお前、こんなところで……」
「ん、バイト」
 ……だろうけど。しかし、似合わない。
 巫女服の着こなしには一分のスキもない。
 白い単衣に朱の袴。手には榊を持ち、視線は宙をさまよっている。
 これほど御利益なさそうな巫女さんも見たことがない。
 きっとなにか頼んでも、
「ん、なんとかなる」
 とか言っておしまいになるに違いない。
 ある意味、悟っていると言えなくもないが。
「わぁ……すごいね。はるかちゃん、かわいい」
「そう?」
「ね、藤井くん。かわいいよね?」
「え……」
 急に俺に振らないでください、美咲さん。
 うろたえて、返答に困っていると、
「似合わないって言ってる」
 はるかが勝手に心を読んだ。
「俺はなにも言って……」
「視線が」
 ……やっぱり分かるか。さすが幼なじみ。
171琉一:02/01/09 02:30 ID:O4fmYVHb
「いや、似合わないと言うより、ほら、見慣れないから……」
「美咲さんの方が似合う」
「えぇ!? そんなことないと思うけど……」
 俺の言い訳は無視ですか。
「着てみる? ほら、リーフファイトTCGでは着ていたし」
「え、えっと……」
「こらこら」
 あの、見た瞬間、誰だか迷ってしまうようなあれを引き合いに出すか。
「あ……」
 不意にはるかが視線を上げた。
「どうした?」
 はるかがすっと指をあげる。
 指した方向では、今、まさに神主さんが、鐘を突こうと振りかぶっているところだった。
 ゴ〜〜ン。
 あ……。
 かなり不意打ち気味に、2002年は明けた。
「今年もよろしく」
「お前な……」
「あっ、あけましておめでとう、二人とも」
「……あけましておめでとう」
 こうして美咲さんとの二人の年越しは、乱入してきた暴漢巫女の手によって、
感動が薄まりきってしまった。
「あ……呼んでる」
 そうだ。巫女のバイトなのに、いつまでもここで話し込んでいていいはずがない。
「じゃあ、また後で」
「うん。またね、はるかちゃん」
「しっかり働けよ」
「ん、では、ごゆっくり」
 はるかはぱたぱたと手を振って去っていった。
172名無しさんだよもん:02/01/09 02:31 ID:/M3jiXBX
>>168
いやいや、気になさらずに
漏れは美咲さんに投票したけど
それだけ押しが弱くて負けが似合いそうな美咲さんだということで(w
173名無しさんだよもん:02/01/09 02:31 ID:sZmlp7yM
<<綾香>>が恥ずかしそうに、自らのスカートをめくってパンツを見せている画像ないですか?
スカートをめくったらブルマだったというのもありです。
スカートをめくったらマンモロだったというのもありです。
174琉一:02/01/09 02:31 ID:O4fmYVHb
 ――早く出よう。
 俺はそう固く決意をしたのだが。
 まぁ、とりあえずお賽銭を入れ、色々と頼み事をする。
 だが、なにを願おうとしても、脳裏に浮かぶのは、はるか大明神ばかりだった。
「ん、なんとかなる」
 やっぱりそれか! ……なんだか流れ星を見逃した気分だ。
「なにお願いしたの?」
「あ、いや……こういうのは、話すと適わないって言うから」
「そうなんだ。じゃあ、私のも秘密だね」
 と、笑う美咲さんは、なんだか無邪気で、とても可愛らしいのだが、
「それじゃあお守り買って。あと、おみくじも引こうか?」
 と、提案してくる笑顔は罪だと思う。
「いらっしゃいませ」
 やはりいたか。
 予想に違わず、売店でははるかが待っていた。
 まぁ巫女のバイトのやることなんて、こういう売店が主なんだろうけど。
「冬弥はこれ」
「安産祈願がいるかっ!」
「じゃあ美咲さんに」
「え……? あ…やだ、はるかちゃん……」
「こらこらこらこらこらこら」
 真っ赤になってしまった美咲さんに代わって、はるかにでこピンの報復を加えた。
「新年早々痛い……」
「新年早々変なことを言うからだ」
 無難に家内安全のお守りを一つずつ買う。
175琉一:02/01/09 02:31 ID:O4fmYVHb
「おみくじもお願いできる?」
「ん、了解。それ引いて」
 まずは美咲さんから。出てきたのは12番。
「12? ん……15の方がおすすめ」
「こらこらこらこらこらこら」
 運命改変を試みるな。
「え、えっと……12でいいから」
「ん、どうぞ」
 美咲さんのは吉。
 まぁ、悪くないし、『努力すれば願い適う』っていうのは、美咲さん向きかもしれない。
「じゃあ、藤井くんもどうぞ」
「あ、うん……」
 からから、と出てきた棒には、27番と書いてあった。
「ん……惜しい。28だと結構レアな……」
「いらんいらん」
 レア、というからには大凶に違いない。
 ある意味珍しいのでラッキーという変な慰め方もあるが、やっぱり引きたくはない。  で、結果。
「末吉……」
「冬弥っぽい」
「悪かったな!」
「ほ、ほら、こういうのって、縁起物だし……」
 美咲さんが妙なフォローをしてくれるが、なんだか半端で悔しい。
「やっぱり28の方が……」
「いらないって」
 28のくじを取り出そうとしたはるかを、慌てて制する。
「あー、わり。買い終わったんなら、どいてくれるか?」
「あ、すいません」
 見れば後ろには、おみくじ目当ての四人組が待っていた。
176琉一:02/01/09 02:31 ID:O4fmYVHb
「じゃあ、はるかちゃん。また」
 慌ててどいた俺たちに、はるかが手の代わりに榊を振った。
「来年も来てね」
「来年もやるのかっ!」
 来年は、別の神社にしよう。絶対。
 だけど、他の神社に行っても
「ん……待ってた」
 とか言って待ちかまえていそうだ。
「なんだか、とんでもない初詣になっちゃったなぁ」
「うん……でも、ちょっとおもしろかったね」
 美咲さんはそう言うけれど、なんだか初っぱなからつまずいた気分だ。
 ――そういえば、まだおみくじの細かいところを読んでいなかった。えっと……。
『違えた待ち人来る』。『凶色は緑』。
 ……これってやっぱり。