たいやきを見た小径(その1)
注:これはone、茜happy後のパロディです。(一応)
あと、あゆの方はhappyendから1年後です。
「なあ、茜」
「……何ですか?」
「前回の汚名挽回のためにも、今日の放課後たいやき食いに行かないか?」
「行きます」
またしても即断だった。かくして放課後....
「しかし、茜。たいやきとなると目の色変わるな、お前」
「そんなことないです....」
「しかし、2人で食いに行くというのも最近では珍しいな」
これというのも、毎度毎度どこからともなく柚木が出てきて一緒についてくるから....
「呼んだ?」
出た....
「安心しろ、お前の事なんてただの一人も呼んでないぞ」
「茜、うれしそうだね。これからおでかけ?」
「はい....」
「たまには脈絡のある登場の仕方をしろっ!」
「で、どこ行くの?」
相変わらずマイペースな奴め....
「茜と一緒に甘いものでも食いに行こうと思ってな」
「詩子も来る?」
「来るなっていっても来るだろこいつは」
「うん、もちろん。で?何食べに行くの」
「たいやきだよ」
「えっ....」
その瞬間、柚木の顔に恐怖が走った、ような気がした。
たいやきを見た小径(その2)
「え、えっとごめんね、茜、浩平君。私ちょっと休養が....」
「休養じゃなくて急用だろ」
「詩子、来ないの?」
「う、うん。それにせっかくの2人のデートを邪魔するのもね、あはは....」
「....」
「....」
2人して顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。その隙に....
「じゃあ、また明日ねー」
といって走っていってしまった。
「なあ、茜。今の、逃げたように見えないか」
「……見えました」
「でも、柚木が気を利かせるなんて始めてみたな」
「私もです....」
というか、どうみても柚木は何か隠してた様に見えたが....
「行こ」
「あ、ああ」
心中に、なにやら得体の知れない不安がよぎったものの、俺はそれを無視した。
かくして、店に行ってみたものの....
「閉まってます」
「みたいだな....」
考えて見ればもう5月だから当然だ。
「どうする、茜。このまま帰るか?」
「嫌です」
「山葉堂でお茶を濁すのはどうだ?」
「嫌です」
「はあ、わかったよ。一応年中無休のたいやき屋があるにはあるんだが....」
「行きましょう」
(茜にしては珍しく)話を最後まで聞かずに茜は即答した。
たいやきを見た小径(その3)
「でも、この間迷った道の先にあるんだが....」
「.....」
「.....」
「.....不安です」
「だよなあ」
「でも....浩平と一緒なら、どこに行くのでもかまいません」
顔を赤らめながら、そう言う。
「茜....いってて恥ずかしくないか?」
「聞かないで下さい」
「じゃあ、行くか」
「はい」
この時が、引き返す最後のチャンスだったのかもしれない....しかし、茜の
台詞に喜んでいた俺には、引き返すなどという選択肢はすでになかった。
かくして、俺達は再び細い路地を進んでいったのだが....
12回目のあと少しを言った頃
「分かれ道だ....」
「はい....」
そこは確かに分かれ道だった。しかし....
「右の道と左の道はまだいいとしてだ....」
「浩平....このトンネルなんですか?」
「さあ....
なんだろうなあって言ったら怒るよなあ、やっぱり」
「はい」
「しかし、ここでこうしていてもしょうがないしな、行くか?」
「....はい」
一抹の不安を感じたことは確かであるが....
「茜っ、あと少しだ....」
「31回目です...」
たいやきを見た小径(その4)
................
「40回目聞きたいか?」
「聞きたくないです」
................いい加減、歩くのが嫌になってきたとき、
「出口だ!」
「はい」
心なしか、茜の声も喜んでいるように見える。そして、トンネルを抜けると....
そこは雪国だった....
ヒルルルルルルルルー
風が吹き込んでいるような気がした。ただ、作者のおちが寒かっただけだろうか。
「何なんだここは〜〜っ!!」
「雪国に見えます」
「ま、待て茜。ちょっと現実を把握しよう」
「はい」
「今日は何日だ?」
「5月1日です」
「こんな時期に雪なんか降るか?」
「降りません」
「で、茜。地面にあるものは何に見える?」
「どこから見ても雪に見えます」
「......」
「......」
「それに、寒いです」
「た、確かに……」
「なあ、茜....あのトンネルが異世界に通じていたとしたらどうする?」
「嫌です」
「いや、嫌ですといっても仕方ないと思うぞ」
「帰りましょう」
たいやきを見た小径(その5)
そう言って、俺達はくるっと回れ右をしたのだが....
「なあ、茜....」
「はい....」
「......目の前に何が見える?」
「......雪山が見えます」
「......そうか、実は俺にも雪山に見える」
「......少なくとも、トンネルには見えません」
「茜、可能性は3つある。1、二人して夢を見ている 2、二人して幻覚を見ている
そして....」
「3、現実に異世界にきてしまった....ですか?」
「その通り....っていっててむなしくなってきたな」
「はい....」
「とりあえず、街の人間にここがどこなのか聞こう」
「たい焼き....」
「この期に及んでまだたい焼きか?」
「たい焼き....」
「……わかった、売ってたらな」
「はい....」
そんなものを買ってる場合ではないような気がするのだが....しかし....
世の中探してるときには見つからなくて、探すのをやめた後には見つかるものである。
「茜、あれって....」
「たい焼き屋さんです」
あっさり見つかった。しかし、
「うぐぅ〜!! どいて〜〜!!」
前方から、羽の生えた女の子が突進してきた。
って、羽?
ドンッ!!
見事なまでに、俺と茜に激突していた。
たいやきを見た小径(その6)
「うぐぅ〜、ごめんなさい」
その時、後ろから「待て〜」と声がした。
「わっ!!」
いきなり、その女の子はがばっと起きあがった。年の頃は....13〜14くらい
だろうか?
「うぐぅ....とりあえず、2人とも逃げようっ!」
「あの....」
「ちょ、ちょっと待てって....」
「待てないよ〜っ」
かくして、俺達は3人で商店街の中を全力疾走する羽目になってしまった。
大分走った頃、
「な、なあ茜」
「はい....」
「お前結構長い間走れるんだな....」
「そんな事ないです」
「って、あれ?」
気がつくと、例の女の子の姿がなかった。いや、遠く後ろの方に小さく見える。
「何で俺達の方が早く走ってるんだ?」
それから、少し遅れて、あの女の子がやってきた。
「はあ、速いよ〜」
「お前が遅すぎるんだ」
「ボクは遅くないよっ、キミ達が速すぎるんだよっ」
「あの....」
「どうした、茜」
「とりあえず、自己紹介しませんか?」
「うんっ、いいアイデアだねっ」
はあ....ま、いいか
たいやきを見た小径(その7)
「俺は折原浩平だ。浩平でいいぞ」
「私は里村茜です」
その女の子は茜の方をじっと見ていた。
「わあ....きれいな人....」
「....」
照れたらしい。
「それに長いなあ....」
そういや澪も初めて茜にあったとき、同じ事を言ってたな。
「あっ、えっと、ボクの名前は月宮あゆだよっ。あっ、ボクって言ってる
けど、女の子だからね」
そう言った後も、しきりに茜の髪をじっと見ていた。
「髪長いの、珍しい?」
「うんっ」
なんか、澪がしゃべったらこんな感じなんだろうな....
「それはそうとして、何でこんな所まで逃げてきたんだ?」
「えっと....すごく複雑な話なんだけど....」
「大丈夫だ」
「話せば長くなるんだけど....」
「どうせ時間はあるから気にするな」
「はい....」
「うぐぅ....。えっと、大好きなたい焼き屋さんがあって....たくさん注文
した所までは良かったんだけど....」
何となく話の雲行きが怪しくなってきたような気が....
「お金を払おうと思ったら財布がなくて、そして走って逃げちゃったんだよ....」
「......」(俺)
「......」(茜)
「......」(あゆ)
たいやきを見た小径(その8)
「ひょっとして、それは食い逃げというやつじゃないのか?」
「うぐぅ〜、しかたなかったんだよ〜」
ひょっとして、何かとてつもない理由があるのだろうか?
「一体、どうしたんですか?」
「うぐぅ....」
あゆはおずおずと口を開いた。
「実は....すごくおなかが空いてたんだよ〜」
「それで?」
「それだけ」
「......」(俺)
「......」(茜)
全然長くもないし、複雑でもなかった。
「やっぱりお前が悪いんじゃないかっ!!」
「うぐぅ〜!」
「浩平」
茜が俺の方を見ていた。
「あゆちゃん...でいいですか?」
「うん....」
「たい焼きが大好物なんですか?」
「うん....」
「そう....。大丈夫です。私も似たようなことがありましたから....」
「そうなのか?」
「はい....」
なんとなく柚木が逃げた理由がわかった気がする。
「だから、そんな気にしないで。後で、お金もって謝りに行こう」
「うぐぅ....うん」
「茜、なんだか母親みたいだな」
「そんなこと....ないです」
たいやきを見た小径(その9)
「それに、こっちは子供そのものだし」
「うぐぅ、ボク子供じゃないもんっ」
「そうか? まだ小学校じゃないのか?」
「違うよっ!」
「……あゆちゃん、中学生ですよね」
「うぐぅ〜違うよ〜!! ボク17だよ〜!!」
「......」
「......」
俺達と同い年だった。
「本当か?」
「うぐぅ〜本当だよ〜」
「本当に本当か?」
「本当に本当だよ〜」
「本当に本当に本当か?」
「本当に本当に本当だよ〜」
「本当に本当に本当に本当に....」
「……きりがありません」
確かに....
「うぐぅ、浩平君いじわる〜。……って、あれ?茜さんも浩平君も
そんな格好で寒くないの?」
「おう、今にも凍死しそうなほど寒いぞ」
「すごく寒いです....」
そこで、俺は思った。あゆに聞けば何かわかるかもしれない。
「なあ、あゆ...」
「うん?」
「この街ってtacticsの街だよな?」
「ううん、ここはkeyの街だよ」
たいやきを見た小径(その10)
げ!
「ええと、あゆちゃん....今は5月1日ですか?」
「ええっ、何で?今は1月5日だよっ」
げげっ!
「なあ、茜」
「....はい」
「1・2・3のうち、答えはどれだと思う」
「3番だと思います....」
はああ....
「え、えっと。二人ともどうしたの?」
「......」
「......」
「えっと、もしかして2人とも迷子になっちゃったの?」
「迷子ならまだ救いもあるだろう....」
「......」
さっきから茜は黙り込んだままだ。
「う〜ん、そうだ!とりあえず、困ったときにはたい焼きだよ!」
「なぜそうなる」
「いいからいいから。ほら、茜さんもたい焼き食べよっ」
「たい焼き....」
かくして3人でたい焼き(あゆが食い逃げしてきたやつ)をほおばる
事となった。
「やっぱりたい焼きは焼きたてに限るよねっ」
「それはちゃんと金を払ったやつが言うセリフだぞ」
「うぐぅ〜」
そして、念願かなった茜の方を見てみると....
「おいしい....」
涙目でたい焼きに感動していた。
たいやきを見た小径(その11)
かくして、たい焼きを食べ終わった後....
「あゆ、実を言うと俺達....」
かくして、茜が無類のたい焼き好きでたい焼き屋を求めるあまり
トンネルを抜けてきたらここに来てしまった....という経緯を説明した。
「わあ..茜さんもたい焼き大好きなの?」
「はい...」
「毎日でも平気?」
「毎日でも、ご飯代わりでも平気です」
「すごいっ、ボクと同じだねっ。という事は、ボクも大きくなったら茜さん
みたいになるかな?」
「ならないな」
「うぐぅ、即答〜」
「こうして目を閉じてみると結果が浮かんでくるんだ」
「うぐぅ〜、祐一君とおんなじ様なこと言わないで〜」
「祐一君?」
「うん....やさしくて、意地悪で、ボクを困らせる人だよ....」
顔を赤らめながらあゆが言う。
「あゆちゃん、その人のことが大好きなんですね」
「え、ええええっ。ぜぜぜ、全然そんなことないよっ....あっ、いや、
でも嫌いって言う訳じゃもちろん無いんだけど....」
ばればれだった。
「うふふ、あゆちゃん。私も、そういう人を好きになったんですよ...」
そういって、おれの方を見る。
「茜、いってて恥ずかしくないか....?」
「聞かないで下さい」
そんな俺達を見て、あゆは何かに気付いたようだった。って普通気付くか。
「で、ででで、でも、ふ、2人とも大変だよねっ」
俺は思わず苦笑する。どうやらとことん分かりやすい奴らしい。
たいやきを見た小径(その12)
「そうだっ、2人とも帰る方法が見つかるまで、秋子さんの所に来ればいいんだよ」
「秋子さんって誰だ?」
「ボクが居候している人のやぬしさんだよっ」
「でもなあ....」
ちらりと茜の方を見る。
「そちらの方のご迷惑になります....」
「迷惑な事なんて何もないよっ。みんな大歓迎だよっ」
「うーん、でもなあ」
「......」
しかし、いくら迷ったとこで帰る方法が見当もつかない以上、まさかこの寒空の
中、茜に野宿をさせるわけにもいくまい。
「わかった。でも本当にいいのか?」
「うんっ、大歓迎だよっ」
「お世話になります....」
というわけで、あゆが居候している、秋子さんという人の家に行くことになった。
「しかし、どうしてこんな事になったんだろう」
「茜さんのたい焼きを求める気持ちがこの世界に道を作った、ってのはどうかな?」
「そんな非現実的な....」
「だよね」
「....その可能性は、あるかもしれません....」
しかし、意外なところからその意見を肯定する声が出た。当の本人、茜である。
「小学校の頃、詩子とたい焼き屋さんを探しに行ったとき、そういえばこんな事
があったような気がします....」
柚木め....逃げたな。
「えっ、それだったら茜さん、その時はどうやって帰ったの?」
「思い出せません」
「思い出せ、思い出すんだ茜!」
「....やっぱり思い出せません」
たいやきを見た小径(その13)
なにぶん昔のことですから....と付け加える。
「うーん、まあその時も戻れたんだから多分今回も大丈夫だろ」
「はい....」
「うんっ、物事は前向きに考えなきゃねっ! それじゃあ行こうっ」
かくしておれたちは、あゆの居候先である秋子さんの家に向かうことになった。
「ここがそうだよっ!」
あゆが元気そうに振り返る。結構大きな家だった。
「お邪魔します....」(茜、浩平)
あゆに進められるままに俺達は玄関に入った。
「えっと、浩平君、茜さん。絶対に大丈夫だと思うけど一応秋子さんに話をしてくるねっ」
「了承」(1秒)
話をしてくるまでもなかった。
「えっ?わっ!!」
靴をぬいで秋子さんの所に行こうとしたときにいきなり言われたからだろう。
あゆは見事にあわてて玄関でつまづいた。
べチッ!
「うぐぅ、痛いよ〜」
「あらあら、大丈夫あゆちゃん。ほら、カステラがあるから手を洗ってらっしゃい」
「うぐぅ....うん」
まんまこどもだな、ありゃ。
「あ、はじめまして。折原と言います」
「はじめまして....里村です」
「ゆっくりしていってね。家族が増えて楽しいわ」
そういって、頬に手を当てる仕草がすごく似合っていた。
「本当は娘の名雪とあと祐一さんがいるんですけど....2人とも修学旅行に行ってるんですよ」
「はあ....」
「でも、そんな格好でどうしたの?まだ冬なのに....」
たいやきを見た小径(その14)
仕方がないので、理由を1から説明した。最も普通の人ならとうてい信じられない
内容だと思うのだが....。と、説明の最中、茜が口を開いた。
「あの....私、秋子さんに以前お会いしたような気がします....」
「え?」
茜の意外な台詞が飛び出す。さらに....
「そうですね....私もそんな気が...」
と、秋子さんまでがそんなことを言い出す。
「あら?里村さん、あなたもしかして茜ちゃんていう名前じゃないかしら?」
ずげげげげげっ!!
「!! どうしてご存じなんですか?」
茜もびっくりしたらしい。
「とりあえず、そろそろ夕食の準備をしますので、良かったらその後に話しましょうか」
「あ....あの....」
「そういえば、茜ちゃんてあゆちゃんと同じくらいたいやきが好きだったわね、
今日のご飯はたいやきにしましょうか」
「え....えと....」
茜がこれだけあわてる姿を俺は初めて目の当たりにした。
「はーい、ボクも手伝うよっ!」
いつのまにやらあゆが戻ってきていた。
「そうね、でもあゆちゃんには作り方から教えなきゃならないし....」
「うぐぅ....」
「……わたしが教えましょうか?」
そういったのは茜である。
「わあっ、本当? じゃあボクにも教えてっ!」
「はい....」
「茜、普段とは違ってずいぶん積極的だな」
「そんなことないです....」
「よし、だったらおれも手伝おうか?」
たいやきを見た小径(その15)
「嫌です」
「独創性あふれる、他に類を見ないたいやきが出来上がると思うんだが」
「絶対に嫌です」
「2人とも仲がいいのね」
秋子さんが頬に手を当てて、平和に言う。
「......」
茜が真っ赤になってしまった。その様子を見ていたあゆもなぜか顔を赤らめる。
「どう、似てた?」
「何がだ?」
「茜さんみたいに顔を赤くしてみたら、少しは似てくるかと思ったんだよ」
「安心しろ、全然似て無いぞ」
「うぐぅ....そんなことないもんっ」
「第一、茜とおれはあゆと同い年だぞ」
「えっ....?」
「そういや言ってなかったな。でも事実だ」
「うぐぅ〜」
かくして、たいやきづくりが始まった....しかし。
「あれ?いくら練っても生地ができないよ〜」
「あゆちゃん、それ強力粉です....」(←たいやきの生地は薄力粉で作ります)
「なんだかしょっぱいよ〜」
「それは塩です....」
「今度は甘すぎるよ〜」
「小さじ3杯いれましたか?」
「えっ?小さじってこれだよね」
「それはスプーンです....」
「わあっ、焦げてるよ〜、うぐぅ〜」
あゆは俺の知っている誰よりも(澪よりも)不器用だった。
そして、あゆのたいやき第1号は....
たいやきを見た小径(その16)
「これ、何だ?」
「うぐぅ、たいやきだもん....」
「黒いぞ....」
「焦げちゃったけど、でもたいやきだもん....」
「あゆちゃん、まだまだ頑張ろうっ」
「頑張りましょう....」
秋子さんも茜もやる気まんまんだ。しかし、秋子さんって何歳なんだろう....
と、その時....
「ピンポーン」
とチャイムの鳴る音が聞こえた。と同時にあゆが「あっ」と言って玄関へ走り出す。
ついでに、暇な俺もついていく。
「祐一君っ!お帰りなさいっ!!」
そういってドアを開けると....
「あの〜、新聞の集金なんですが....」
「うぐぅ〜」
全然関係なかった。
「うぐぅ、恥ずかしかったよ〜」
新聞屋が帰った後、あゆは恥ずかしさで顔を真っ赤にしていた。
「まったく、ドジだな」
「うぐぅ、そんなことないもんっ!」
「拗ねるなって、子供じゃあるまいし」
「うぐぅ」
と、落ち込んでいたのもつかの間、すぐに又、台所に向かう。
「なあ、茜?」
「はい?」
「何であいつはあんなに必死なんだ?」
「好きな人に、大好きなたいやきを作ってあげたいんだと思いますよ....」
「そうなのか?」
たいやきを見た小径(その17)
「はい....」
なるほど....。そう感心したところで、俺も台所に向かった。
「うぐぅ? どうしたの、浩平君?」
「まったく....子供だな。お前は」
「うぐぅ〜そんなことないもんっ」
「拗ねてる暇があったら続きをやるぞ」
「うんっ....って浩平君?」
「どうしたんだ、変な顔して?」
「うぐぅ、変じゃないもん」
「危なっかしくて見てられないからな、おれも真面目に手伝ってやるよ」
「うぐぅ....ありがとう...」
「しかし、嬉しくても悲しくてもうぐぅだな」
「うぐぅ〜、ほっといて〜」
「というわけでおれも手伝わしてもらいます」
「はい....」
「いいのか?茜」
「今の浩平なら大丈夫です....」
「やっぱり料理はみんなでやった方が楽しいですよ」
秋子さんである。
かくして、再びたいやきづくりが始まった。それから1時間後....
「できたっ!」
形は崩れたものの、あゆの作ったたいやきも、食べておいしいと感じるレベル
まで到達することが出来た。と、その時、再びチャイムが鳴った。
またしてもあゆが走る!
ベチッ。
しかし、廊下で滑って転けた。
「うぐぅ〜」
しかし、鼻の頭をさすりながらあゆは玄関まで走っていく。
たいやきを見た小径(その18)
「どちら様ですか?」
さすがに同じミスはやらないようだ。先に相手の名前を聞いている。
「新聞の集金です」
「……ついさっききたよっ!」
「だったらガスの集金です」
「それは明日だよっ!」
「うーん、じゃあ何にしようか」
「うぐぅ、祐一君の意地悪〜」
たまらずあゆがドアを開ける。
「ただいま、あゆ」
「うんっ、お帰りなさいっ!」
そういって、あゆは目の前の男に抱きついた。
「祐一さん、お帰りなさい。どうでした、修学旅行は?」
「あ、秋子さん、ただいま。いや〜、名雪が起きなくて大変で大変で、
これ、香里に渡しておいて良かったです」
「うふふ、あの子にはこれが一番目が覚めるのよ」
そういってオレンジ色のジャムを受け取る。
「あら、名雪はどうしたの?」
「それが、ちょっと油断した隙に猫の方に行っちゃって、病院に行って
から帰ってくるそうです」
「え?どこか悪いのか?」
そう俺が聞いたところ、
「ああ、名雪は重度の猫アレルギーだからな....って、秋子さん、誰です?
この2人は?」
そう言って、俺と茜の方を見る。
かくかくしかじか....とあゆと、秋子さんから説明が入る。
「はあ....もう何も言うまい」
呆れているようだった。
たいやきを見た小径(その19)
「まあ、とりあえず....俺は相沢祐一だ。一応、秋子さんの親戚に当たる。
よろしくな」
簡単な自己紹介が入る。
「おれは折原浩平だ」
そういって、ちょっとだけ遠くに離れて相沢と2人で話しをする。
「どうしたんだ?」
「いや....さっき秋子さんやあゆから聞いた話は普通の感覚でいったら信じ
られないと思うんだが....正直おれ自身半信半疑だし....」
そんな俺の疑問に相沢はあっさりと答える。
「まあ、あゆはああいうヤツだし、秋子さんの考えは何も考えてないようで
実は海よりも深い考えがあると、俺は思っているからな」
う〜む、秋子さん....謎だ。
「ところで....お前の側にいたあの女の子は誰だ?」
と、逆に聞いてくる。
「ああ、あいつは里村茜。俺と一緒にたいやきを食いに来たんだが....」
と、そこで俺は重大な事を思い出した。
「ああっ!そういや、あゆが食い逃げして走ってきたんだった!!相沢、
大丈夫なのか、あゆは!?」
俺がそう言ったとたん、大きなため息をついた。
「まったく、あいつはまた....。
まあ、ちゃんと後でいつも金を払ってるらしいから、大目に見てやってくれ」
「そっか。あ、そういや最初あゆと会ったとき、おれはあゆの事を中学生だと
ばっかり思ってたんだが....」
「いやいや、おれなんか去年あゆと再会したときは小学生だと....」
と、話しが脱線して、2人であゆの話しで盛り上がっていると....
「うぐぅ〜〜!!祐一君も浩平君もいじわる〜〜〜!!」
後ろのあゆに丸聞こえだった。
たいやきを見た小径(その20)
「おっ、あゆ。いつからいたんだ?」
「うぐぅ〜、ついさっき会ったばかりだよ〜」
「悪い悪い、全然まったくさっぱり気づかなかった」
「うぐぅ....」
どこから見ても、名コンビだった。
「ひょっとして、2人は恋人どうしか?」
試しに聞いてみる。
「全っ然そんな事は無いぞ」
「うぐぅ〜〜、祐一君のいじわる〜」
かくして、その後4人で出来たばかりのたいやきをほおばった。秋子さんや
茜のたいやきはもちろん、あゆのたいやきも結構おいしかった。
「はあ....しかしこれからどうしよう」
1日なら由起子さんも茜の両親も、いきなり捜索願を出したりはしないだろうが
何日も経ってしまうと、一体どうなる事やら....
「浩平....」
「どうした、茜?」
「秋子さん、知りませんか?」
「あれ、ついさっきまでそこに....っていないな」
「はい....」
「相沢〜、秋子さん知らないか?」
「ああ、名雪を迎えに行くって言ってたからな。たぶん病院だろ」
「そんな事ありませんよ」
「のわっ!」(祐一、浩平)
後ろを見てみると、そこに秋子さんが立っていた。その側には年頃の可愛い女の子
が眠そうな顔で立っている。
「ちょうど今、名雪を迎えに行って帰ってきたんですよ」
「でも、秋子さん。ここから中央病院まで30分はかかると思うんですけど....」
たいやきを見た小径(その21)
あまりの帰りの早さに相沢が秋子さんに尋ねる。
「それは、企業秘密です」
謎だ....。
「うにゅ、ただいま〜。あれ、お客さん?」
後ろの女の子が俺と茜のほうを見る。
「はじめまして、俺は折原浩平だ」
「....里村茜です」
すると、その女の子はふらふら〜としながら柱に頭を向けて、
「はじめまして〜、私は水瀬名雪だよ〜。なゆちゃんって呼んでね〜」
と、柱に向かって自己紹介をする。
そして、ゴンッ!と柱に頭をぶつける。
「く〜」
そして、ものの見事に眠っていた。
「......」
茜はその様子を呆然と見ている。
「まったく、また名雪のやつあんなところで寝てる。あ〜、相沢、ちょっと
手伝ってくれないか?」
「何をだ?」
というか、『また』というあたりに凄まじいものを感じるのは俺だけなのだろうか?
「最近は、俺一人でチョップ入れても起きなくてな....というわけで、名雪にチョップ
をいれるのを手伝って欲しいんだが」
「名雪って低血圧なのか?」
「見るからにそんな感じだろ」
かくして、2人で名雪を部屋までつれてった。けろぴ〜、とか言ってたが、つくづく
わけわかんない女の子である。
そして、一階に戻った後....
「あら、もうこんな時間ね。お布団敷かないと」
たいやきを見た小径(その22)
そんな風に秋子さんが言う。時間を見てみるともう11時だった。
「そうですね。確かにもう結構な時間です。しかし、あゆは元気だな」
「ボク、朝や夜は強いよっ!」
「結構意外だろ?」
確かに....かくして思わずおもいっきりうなづいてしまう。
「うぐぅ....2人とも意地悪〜。なんか祐一君が2人いるみたいだよ〜」
とりあえず、あゆの言う事はほっとくとして....
「えっと....2人は同じ部屋でいいわよね」
ぶっ!!
「な、ななな、秋子さん。そ、それは」
「......」
茜は顔を赤らめてうつむいてしまう。
「ほ、ほら。茜、頼むから否定してくれ」
「......」
またしても顔を赤くしている。
「あの....浩平さん?何か勘違いしてませんか?」
へ?
「私は祐一さんと同じ部屋で寝て欲しいという意味でいったんですけど...」
「あ、ああ。そうですか。ええ、もちろん大丈夫ですよ」
我ながら取り乱してしまった。
「それとも茜ちゃんと一緒のほうがよかったかしら?」
ほおに手をあてて秋子さんがのほほんという。
「えっ!!あ、あのっ....」
「嫌です....恥ずかしいですから嫌です」
「茜、顔真っ赤だぞ」
「....言わないでください」
結局2人とも慌てているうちに、秋子さんが俺達のどんな事を知っているのか
を聞くのはすっかり忘れてしまった。
たいやきを見た小径(その23)
かくて、翌日....。
「おはようございます」
食卓に行くとあゆと祐一が既に食卓についていた。
「うぐぅ、おはよ〜」
あゆが食卓で手を振っていた。
「しかし、挨拶までうぐぅだな」
「うぐぅ〜」
あれ、そういや茜がいないな。それと、昨日の女の子も...確か名雪とか言っていたような..
「あれ、あとの2人はまだ寝てるのか?」
「みたいですね」
フライパン片手に秋子さんが言う。
「起こしてきましょうか?」
「そうですね、茜ちゃんの方は起こしてきてください」
「あれ?えっと、名雪の方は?」
「折原....やめとけ。お前には無理だ」
相沢がポツリとつぶやく。
「うぐぅ....ボクも多分無理だと思う」
しかし!!自他ともに認められている寝起きの悪いこの俺以上に寝起きの悪いヤツ
などいるわけがない!!
かくて、2階に行ってみたが....
ドンドンドンッ!!
「名雪っ!起きろっ!」
反応無し。
「名雪っ、朝だぞっ!」
やっぱり反応無し。仕方がない。かくて中へ進入する。そこで中で見たものは。
「く〜」
寝ていた。しかし!これくらいは俺の予想の範疇!おもいっきり揺らせば普通は起きる!
「名雪っ、おきろっ!」
たいやきを見た小径(その24)
ユサユサ....
「う〜、地震...だお〜」
くっ、なかなかやるな!しかし、これならどうだ!
バフッ
上から布団をかぶせてやる。しかし....
「うにゅ....けろぴ〜......」
くっ!こ、こいつ手強い!ならば最終手段!
「足の裏をくすぐってやる!!」
かくて、布団を足のほうからめくりあげようとしたその時....
「....だめです」
茜だった。
「おっ、茜いつからいたんだ?」
「ずっと最初から横にいました....」
そして、茜の髪を見てみると....
「茜、前髪はねてるぞ」
「....じっと見ないでください」
そういって横を向いてしまう。しかし、回り込んで茜の顔をもう一度のぞきこむ。
「......」
また、茜が横を向いてしまう。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐる....
「....目が回りました」
確かに....
「く〜」
横で名雪はまだ眠っていた。
「ほっとくか....」
「はい....」
かくしてほっといて2人で下に行く事にした。
たいやきを見た小径(その25)
「おっ、どうだった?名雪はおきたか?」
「いや、世の中にはできる事とできない事があると初めて知ったよ」
「いや、まったく」
そうして、朝食が出来あがる。
「うぐぅ、このコーヒー熱い....」
「牛乳足すわね」
「うぐぅ....うん」
やっぱり子供だった。
「あの....秋子さん」
「はい?」
「....どうして私のことをご存知だったんですか?」
あ、そういえば。
「昔、茜ちゃんは知り合いの女の子....確か詩子ちゃんていったかしら。
その子と一緒に私の家に来た事があったんですよ。たしか5年くらい前
だったかしら」
わーん、なんなんだよ一体!!
「でも....確かそのときの秋子さんの顔、うっすらと覚えてますけど....
あまりそのときと顔が変わってないような気が....」
「えっと、それでね....」
質問に答えてないぞ、秋子さん....
「そのときに、ある物を使って2人を帰したんですよ」
そういって、俺達のまえにオレンジ色のジャムをだした。
と、同時に!!周りの空気が張り詰めた、ような気がした。
「え、えっと秋子さん俺そう言えば、北川と約束が....」
そういって相沢が席を立つ。
「うぐぅ、ボクたいやき屋のおじさんにあやまりに行ってくるね」
同じく席を立つ。
そして茜の方を見てみると....
たいやきを見た小径(その26)
「おいしそう....」
茜さんがきらめいていた。
「浩平」
「どうした」
「おいしいですから、食べましょう」
茜がこれだけ熱心に食い物を勧めるなんて初めてじゃなかろうか....
そうして、ジャムをたっぷりつけたトーストを俺のほうにずずいと
近づけてくる。
ぱくっ
そして、おれはいつもの癖でいっきにパンを1枚口の中に放り込んだ。
そして....
次に目がさめた時には由紀子さんの家だった。
「ここ、どこだ?」
とりあえず意識を失ったような気がする。そして日付を見てみると5月3日
だった。なんとなくみさおが手を振っていたような気がする。
ピンポーン
「ん?」
だれか来たようだ。長森のヤツだろうか。
下に降りて、ドアをあけると茜が目の前に立っていた。
たいやきを見た小径(その27)
「....こんにちは」
「よう、なんだか俺おまえとたいやきを食いに行った夢を見てたんだ」
「....夢?」
「ああ、そしてたいやきの食い逃げをする女の子なんかにも出会ったりして....
って、妙に生々しい夢だったなあ」
「......」
「そして、最後に何か食べたところで夢が終わってるんだが....変な夢だったなあ」
「浩平....それってこれですか?」
そして、茜が俺に差し出したのは....あのジャムだった!!!
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
完