SS統合スレ♯8

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192空 (15/20)
私達は街角の喫茶店の一席にいた
二人の前にはイチゴサンデーが一つ
あまりに大きすぎて名雪には食べられそうもなかった

名雪は背を伸ばして頂上のイチゴをスプーンにすくうと、そのまま口に運んだ
あなたがいた頃にはうまく使えなかったスプーンも、上手に使えるようになっていた。

「おいしい?名雪……」
「うん!」

それにしても、名雪のイチゴ好きは大したもんだな。

「えぇ、そうね……」

将来、イチゴ星人の嫁にでもなるつもりじゃないのか?

「そんなこと言わないで……」

何言ってるんだ、名雪は俺の子供じゃないだろ?

「えぇ、違うわ……」


俺とお前の子だ、名雪は


「そう、あなたと私の……子」
193空 (16/20):02/01/17 21:09 ID:eNBAs9Tn
目の前にいるはずの名雪の姿がだんだん霞んでくる

「それなのに……それなのに……」

情けなかった

「あなたとの……大切な……この子と……」

身勝手な考えしかできなかった自分を

「私は……私は……」

そして

「どうして……どうして……」

あなたとの約束を忘れていた自分を

「……あなたぁ〜!」

あなたとの別れのときでも出なかった涙が、そのとき初めて溢れだした
しばらくして、名雪の泣き声が聞こえてきた
194空 (17/20):02/01/17 21:10 ID:eNBAs9Tn
それから私は決めた

この子の前では笑顔でいようと
あなたがいなくても寂しがらないように
あなたがいなくても良く育ってくれるように
それがあなたと交わした最後の約束だから


『秋子、名雪をしっかり頼むぞ』
195空 (18/20):02/01/17 21:10 ID:eNBAs9Tn
トン、トン、トン、トン

階段を降りてくる足音がする。
片手にカゴをさげた家主だ。そのカゴの中には洗濯物がぎっしりと詰まっている。
家主はそのままリビングに入ると同時に、玄関から元気な声が聞こえて来た。

「ただいまぁ〜」
「あら、おかえり名雪」
「ふ〜、今日はずいぶん暖かかったから、いっぱい汗をかいちゃった」
「そう、それじゃシャワーを早く浴びてすっきりしてきなさい」
「うん、そうするよ」

バタバタバタッと浴室に向かう少女。
家主はそんな彼女を眺めていると、何かを思い出したらしく、浴室のドアを開けようとする少女に尋ねた。
196空 (19/20):02/01/17 21:11 ID:eNBAs9Tn
「ねぇ、名雪。シャワー浴びた後に時間空いている?」
「うん、空いているけど」
「じゃあ、お父さんのお墓参りにつき合ってもらおうかな」
「えっ……」
「ダメ?」
「うぅん、そうじゃないけど……何だか急だなって」
「今日はお天気がとってもいいから、お父さんも喜んでくれると思って。
……そうだっ、祐一さんもご一緒にいかがですか?」
「えっ、俺なんかついていっても……」
「いいんです。祐一さんはもうこの水瀬家の一員なんですから。
……それに、お父さんに名雪には素敵な彼氏ができたって報告したいし……」
「!?」
「わっ、お母さん、恥ずかしいこと言ってるよっ!」
「そ、そ、そうですよ、お、俺と名雪はそんな……」
「あら、誰も名雪が祐一さんと……だなんて言ってませんけど?」

あっけにとられる約二名。

「そ、そ、そうですよね。俺が名雪とだなんて……
ははははははははっ……はぁ……」
「……うー、お母さんの意地悪ぅ〜」

少女の小さな非難に、悪戯っぽく舌を出して応える家主だった。
197空 (20/20):02/01/17 21:11 ID:eNBAs9Tn
ねぇ、あなた

「祐一、ちゃんと持ってくれた?」

私があなたのそばへゆくのは

「持ったぞ。マッチと新聞紙と般若心経だな」

ずっと、ずっと、先のことになるでしょうけど

「般若心経、って祐一読めるの?」

きっと、あなたなら

「あれ、お母さん。何を見ているの?」

返事一つで済ませてしまうでしょうね

「うん……空をね、眺めていたの。本当に気持ちがいい青空だから……」

了承……って

「ねぇ、お母さん」
「なぁに?名雪」
「帰りにね、三人でイチゴサンデーを食べない?」
「了承」

広がるのは空、雲一つない澄みきった青空。