暗いへやだった
とびらからさしこむ光が、かすかにへやを照らしていた
まん中にベッドがあった
そこにあなたはいた
白いぬのをかぶせられて
誰かがぬのをとってくれた
わらっていた
たぶん、そうおもった
うでに抱いた名雪があなたをつかみたそうに手をのばしていた
でも、あなたはその手をとってくれない
あっけなかった
けむりとともに空にきえていった
たくさんの人がいた
あなたが愛されていることがわかった
でも、あなたは私のそばにいてくれない
たくさんの人がきてくれた
たのしかった
そのうち、ひとりひとりと帰っていき
ここには
私と名雪だけがのこされた
一生懸命、そうじをした
一生懸命、すいじをした
一生懸命、せんたくをした
一生懸命、名雪のめんどうをみた
いつでも、あなたが帰ってきてもいいように
チャイムが鳴るのがたのしみだった
きっとあなたが帰ってきたんだと
いそいでげんかんのとびらを開ける
でも
あなたは、いつもそこにいなかった
まどの外をながめていた
とてもきれいな空だった
もっとちかくでみたいとおもった
名雪をつれてそとにでた
この子を残してはかわいそうだから
かぜがふいていた
とてもたかいところだった
あぁ、ここなら空がちかくにみえる
でも
もっとちかくでみたい
いっぽづつ、すすんでいく
……マ
空にちかづいていく
……マ
さくがあった
……マ
なんでこんなものがあるんだろう
……マ
空はこんなにちかいのに
のりこえる
……マ
その先にみちはなかった
……マ
空はつづいていた
……マ
もっと空にちかづきたいんだ
……マ
だから、このあしをひとつ先にだせば……
「ママァ〜!」
鳥が羽ばたく音がした
遥か下に車のクラクションの音がした
歩道の闊歩する人々の足音さえも聞こえるようだった
何ヶ月も止めていた時間が動き始めた瞬間だった
「ママッ」
腕に重みを感じる
とくん、とくん、と生きる鼓動を感じる
あたたかな体温を感じる
ちいさな口から吐き出す息を感じる
「な……ゆ……き……」
その子の名を呼ぶ
「な……ゆき……」
もう一度
「なゆき……」
もう一度
「名雪……」
もう一度
「……名雪っ!名雪、名雪、名雪……名雪」
何度も
その名前を自分の中で確かめるように何度も言い続けた
「……ママァ」
名雪が腕の中でぐずっていた
「……いちごぉ」
「えっ……」
ん、イチゴか?よし、了承だ!
「そうか……」
第一、俺がお前たちの約束を破ったってことないだろ?
「そうよね……」
あなたは私達の約束を破るような人ではなかった
でも、もうあなたはいない
このままだと、あなたは名雪との約束を破ってしまう
だから
「えぇ、イチゴね……」
私が守ってあげないと