SS統合スレ♯8

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138不定期連載
祐一美汐夫妻シリーズ
第一話「月曜の朝」

「今日も雨……か」
朝食を片付けていた美汐はテレビの天気予報を見ると、形の良い眉をひそめて小さくため息をついた。
「ん?美汐、今日何か用事でもあるのか?」
広げていた新聞を下ろして祐一が尋ねた。
「あ、いえ、ただここの所ずっと雨が続いているでしょう?」
確かに、と祐一もうなづく。
断続的にではあるが、もう一週間ぐらいは降り続いていた。
おかげでこの週末はどこにも行けなかったし、これから仕事に出かけることを思うと少し憂鬱になる。
「あ、ごめんなさい、朝からこんな話で」
こういうときこそ元気をつけるのが妻の役目だ、と美汐はすぐに思い直し、ニコッと微笑んで、
「でも、ほら、『明日からは天気も回復に向かうでしょう』ですって」
とテレビを指さした。
笑顔に照らされ、パッと部屋が明るくなる。
「ん、そうだな……」
祐一もすぐにいつもの笑顔に戻った。
晴れることも嬉しいが、それ以上に美汐の気持ちがありがたかった。
彼女のために働くなら雨でも槍でも苦にならない、そう思えてくるのだ。
ひそかに幸せを噛みしめながら、美汐の淹れたコーヒーをゆっくり口に運んだ。
139不定期連載:02/01/15 00:18 ID:4vkkjpON
テレビは天気予報も終わり、今日の運勢を三択式で占うコーナーが始まっている。
他愛ない企画だな、と思いながらもどれにしようか悩んでしまう祐一だったが、ふと、そんな自分に違和感を覚えた。
こんなに今日の運勢が気になるのは初めてだ。
いつもは気にならない……のではない、こんなコーナーは見てもいない。
天気予報の頃にはもう家を出る時間のはずなのだから!
画面の時刻表示に今更ながら祐一は気がついた。
慌ててコーヒーの残りを飲み干し、美汐に呆れられながらドタバタと騒々しく支度を整えるが早いか、
「じゃ、行ってくる」
と言い残して祐一は玄関を飛び出した。
「あ、行ってらっ……」
美汐が慌てて祐一を見送ろうと台所から出てきたときにはすでに、
バタンッ
とドアが閉められた後だった。
と思いきや、そのままの勢いで、
ガチャッ
とドアが開いて、祐一がひょっこり顔を出した。
どうやら外の曇り空を見て思い出したらしく、玄関脇でまだ湿り気の取れない傘に手を伸ばす。
と、廊下の向こうで呆気に取られている美汐に気づいた。
「お、美汐、ただいま」
そして間髪を入れず、
「行ってきます」
と顔を引っ込めた。
「あ、行ってらっ……もうっ」
またしても言いそびれてしまった美汐はすっかりむくれて、ぶつくさ文句を言いながら玄関の鍵を掛けに行く。
140不定期連載:02/01/15 00:21 ID:4vkkjpON
ふうっとため息が出る。
美汐にとっても月曜の朝は憂鬱だった。
学校に通っていた頃の感じとはまた違う。
平日の朝はいつも忙しくて、ろくに会話もできなくて、夜も遅いときがあって、夫を会社に取られるようで嫌なのだ。

「まったく、だから祐一さんは……」
となぜか祐一に責任転嫁したところで、
ガチャッ
とまたまたドアが開き、祐一が顔を出した。
「……今度はなんですか?」
むくれ顔を見せつけて美汐は皮肉を込めてみた。
「ああ、ちょっと忘れ物」
祐一はまるで意に介してないふうにそう言うと、美汐の尖らせた唇に、

「!」

キスをした。

「これを忘れてたよ」
目が点になっている美汐の髪をクシャッとなでて、祐一は笑った。
「もうっ、遅刻するんじゃなかったんですか?」
やっと我に返った美汐が嬉しそうに悪態をつく。
「おっといかん、そうだった」
祐一もわざとらしく慌ててみせる。
美汐はただ無邪気に嬉しかった。
この人を好きになってよかった、と思った。
そして、深い感謝を込めて今度こそ、
「行ってらっしゃい、祐一さん」
と微笑むのだった……