SS統合スレ♯8

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111700/1300@長森後援会員 ◆PXmizukA
  俺が敷布団、長森は掛け布団を持ち、我が家の階段を登る。
 俺の部屋に入り、布団ベッドの骨格の上に戻した。
「ふぅ、一世一代の大仕事だったな」
 完成したベッドに座り人心地付く。
「でも、このベッドはお布団を載せるだけだからお布団干し楽な方だよ?」
 ふむ、確かにそうなのかもしれん。
 アルミ骨格の上に布団をどかっと乗っけるだけ、布団を干すのも戻すのも簡単だ。
「然し疲れたもんは疲れた」
 そう言って布団に突っ伏し、掛け布団に包まる。
 ………ぬぅっ、掛け布団も敷布団も、前より三倍以上(当社比)はふかふかだ。
 やるな長森、俺の反対を押し切って干しただけの事はあるって訳か。
 “俺があっちに行ってる間”は干してなかっただろうし、まぁいい機会だったのかもしれない。
「あ、いいなぁ。私もふかふかしたい」
 長森も俺の隣に入り込む。
 ふっくらと仕上った布団に満足そうなあいつの顔。
 俺の顔とその顔まで、三十センチと少し有るか無いか。
 なるほど、確かに住井の言ってた通りこいつは可愛い方に属するんだろう。
 俺も惚れた何とかではなく、可愛いと思う。
 が一方で、矢張り変哲ない無難な顔だと言う感想も変わらなかった。
 それも単に俺が見慣れてるだけなんだろうか。
112700/1300@長森後援会員 ◆PXmizukA :02/01/12 13:32 ID:usrSP3ES
「どうしたの?難しい顔して?」
 最悪のタイミングで目が合ってしまった。
 幾ら俺でも『まじまじと惚れた女の顔を観察してました』などとは言えない。
 まして二人で一つの布団の中のこの状況。
「いや、労力の割にはふかふかになってないと思ってただけだ」
「そんなことないよー、こんなにふかふかだもん」
 顔を布団に埋めて主張する。
 拗ねるように言っているが、内心は
『浩平ったら、またあんな事言ってるよ』
 と微笑んでたりするんだろう。
 衆人環視の教室で告れても、こういうシチュエーションは駄目とは………俺も意外と初心なのか?
「もう疲れたから寝る」
「未だ夕方だよ」
 確かに時計の短針は未だ下り道。
 然し、この気恥ずかしさから逃れるには最早睡眠しかあるまい。
 いや、睡眠しかないって事は無いんだろうが手早いし寝るの好きだしな。
 ただ単にいつもどおり長森を困らせたいってのもある。
113700/1300@長森後援会員 ◆PXmizukA :02/01/12 13:32 ID:usrSP3ES
「いいんだ、俺は寝るぞ」
 そう強く宣言して目を閉じる。
 我が親友たる睡魔君は、俺が呼べばすぐさま駆け付けてくれた。
 友達甲斐のある奴だ。
 間も無く、段々と意識が閉じ始める。
 そんな中、ふわりと俺を包む何か。
 暖かく柔らかく、懐かしい匂いがした。
 あぁそうだ、これは長森の匂いだ。
 一年間嗅いでなかったんだな、それまでは毎日の様に嗅いでたのに。
 腕に擁かれたまま、長森の体に引き寄せられる。
 母親に抱かれる子供の様に胸元に顔を埋め、頭をゆっくりと撫でられる。
 甘くて落ち着かせる、それでいて誘惑し引き付ける、そんなかすかな香り。
 心地よい香りと包み込む柔らかさに身を委ねる。
「なぁ瑞佳………」
「なに?」
「ぁぃι……………やっぱ牛乳臭いな」
「あはは、そんなこと無いもんっ」
 あいつのあの目は解っている目だ。

      --FIN--