俺が敷布団、長森は掛け布団を持ち、我が家の階段を登る。
俺の部屋に入り、布団ベッドの骨格の上に戻した。
「ふぅ、一世一代の大仕事だったな」
完成したベッドに座り人心地付く。
「でも、このベッドはお布団を載せるだけだからお布団干し楽な方だよ?」
ふむ、確かにそうなのかもしれん。
アルミ骨格の上に布団をどかっと乗っけるだけ、布団を干すのも戻すのも簡単だ。
「然し疲れたもんは疲れた」
そう言って布団に突っ伏し、掛け布団に包まる。
………ぬぅっ、掛け布団も敷布団も、前より三倍以上(当社比)はふかふかだ。
やるな長森、俺の反対を押し切って干しただけの事はあるって訳か。
“俺があっちに行ってる間”は干してなかっただろうし、まぁいい機会だったのかもしれない。
「あ、いいなぁ。私もふかふかしたい」
長森も俺の隣に入り込む。
ふっくらと仕上った布団に満足そうなあいつの顔。
俺の顔とその顔まで、三十センチと少し有るか無いか。
なるほど、確かに住井の言ってた通りこいつは可愛い方に属するんだろう。
俺も惚れた何とかではなく、可愛いと思う。
が一方で、矢張り変哲ない無難な顔だと言う感想も変わらなかった。
それも単に俺が見慣れてるだけなんだろうか。
「どうしたの?難しい顔して?」
最悪のタイミングで目が合ってしまった。
幾ら俺でも『まじまじと惚れた女の顔を観察してました』などとは言えない。
まして二人で一つの布団の中のこの状況。
「いや、労力の割にはふかふかになってないと思ってただけだ」
「そんなことないよー、こんなにふかふかだもん」
顔を布団に埋めて主張する。
拗ねるように言っているが、内心は
『浩平ったら、またあんな事言ってるよ』
と微笑んでたりするんだろう。
衆人環視の教室で告れても、こういうシチュエーションは駄目とは………俺も意外と初心なのか?
「もう疲れたから寝る」
「未だ夕方だよ」
確かに時計の短針は未だ下り道。
然し、この気恥ずかしさから逃れるには最早睡眠しかあるまい。
いや、睡眠しかないって事は無いんだろうが手早いし寝るの好きだしな。
ただ単にいつもどおり長森を困らせたいってのもある。
「いいんだ、俺は寝るぞ」
そう強く宣言して目を閉じる。
我が親友たる睡魔君は、俺が呼べばすぐさま駆け付けてくれた。
友達甲斐のある奴だ。
間も無く、段々と意識が閉じ始める。
そんな中、ふわりと俺を包む何か。
暖かく柔らかく、懐かしい匂いがした。
あぁそうだ、これは長森の匂いだ。
一年間嗅いでなかったんだな、それまでは毎日の様に嗅いでたのに。
腕に擁かれたまま、長森の体に引き寄せられる。
母親に抱かれる子供の様に胸元に顔を埋め、頭をゆっくりと撫でられる。
甘くて落ち着かせる、それでいて誘惑し引き付ける、そんなかすかな香り。
心地よい香りと包み込む柔らかさに身を委ねる。
「なぁ瑞佳………」
「なに?」
「ぁぃι……………やっぱ牛乳臭いな」
「あはは、そんなこと無いもんっ」
あいつのあの目は解っている目だ。
--FIN--