では、前スレ172の続きでし
会社からの帰り際、俺はあの「ロボットショップ」へ立ち寄った。
「よう、どうだい、あの子の調子は?」
店長に気に入られたらしく すっかり、俺は馴染み客になってしまったらしい。
「ええ、まぁ問題は無いみたいです。」
ふと、目をやると マルチが陳列されていた場所は、別のメイドロボのケースが据えられていた。
今思えばおかしな話である。
ふらりと立ち寄った客が、翌日いきなり売れ残りのメイドロボを
しかも現金で買っていったのだから… その事を店長に聞いてみた。
「まぁ、この商売やっていたら良くある事だよ。」
俺は内心驚いた、そういう奇特な奴は、俺以外にもいるのかと。
「ぃや、君みたいに売れ残り品を買っていくのは滅多に無いけどね。」
笑いながら店長は言う。
「何か拘っていたみたいだしね 君も。」
「ぃえ、そんなに拘っていた訳ではないのですが…。」
拘りは 無いといえば嘘になるが、そこまで人に言えるほど明確なものでもない。
「結構いるんだよ、一人暮らしの人間がメイドロボのオーナーだってのが。」
「男性、女性問わず、みんな寂しいのかも知れないね。」
そうなのかも知れない。
俺がマルチを買った理由もそうなのかも知れないのだから…。
その後少し店長と話してから店を出た。
家に帰る途中 ぼんやりと考えた
どうして俺はマルチを買ったんだろう…。
答は出るはずも無かった。
「ただいま。」
家に帰るとマルチが出迎えてくれた。
「お帰りなさいマスター。」
ふと、見回すと家の中が明るくなっていた、ぃや、徹底的に掃除されたらしく
その所為で 家の中が明るく感じられていたようだ。
「掃除、していてくれたんだ、ありがと。」
「いえ、私の仕事ですから。」
「ううん、今まで俺がサボっていただけなんだしね。」
その言葉に嘘は無い、母が亡くなって以来、この家がだんだんと雑然としてきたのは紛れも無い事実だ。
「で、どんな服買ったんだい?」
少し笑いながら聞いたら
「実は…買いにいった量販店ではサイズが合うものが
無かったので、下着だけ購入しました。」
と、現物を俺に見せようとする。
いくらメイドロボが着る下着だとはいえ、女物の下着を見るというのは勘弁してほしい。
「ち、ちょっと待ってくれ、レシートだけ見せてもらえばいいから。」
「はい。」
レシートだけ受け取り確認する。
まぁ、そこそこの品物を買ってきたようだ。
「それじゃぁ仕方ない、今度休みの日にでも買いにいくとして
それまでは、俺の服や母さんの服で凌いでおこう。」
「分かりました。」
「それじゃぁ、食事にしようか。」
「はい、支度します。」
まぁ、2日目だから仕方ないとはいえ まだ 時々言葉が硬くなる
何度も注意するのも可哀相なので、後日それとなく言うことにしよう。
食事は豪華だった。
前日のインスタントと比べての結果論に過ぎないが
まぁ、キチンとした食事が出来るというのは精神面でもホッとする。
味も悪くない、が やはりこういうのは亡くなった母と比べてしまう。
しょうがないと思いつつも、多少罪悪感を感じる。
思い出には勝てないからなぁ。
俺が食べている間、マルチはテーブルを挟んだ向こう側の席に座りじっと座っている。
まぁ、本人にしてみれば命令待ちというところなのだろうが
別にロボットをこき使う趣味も無いし
それも、見かけ上は華奢な少女なのだから尚更だ。
「お風呂の方、準備してきます。」
「うん、頼むね。」
頃合いがいいと判断したのか、マルチは風呂場へと姿を消した。
風呂に入りながらも考えているのはマルチの事だったりする。
マルチの働きぶりは思った以上だった、メーカーの宣伝文句を当てにはしていなかったんで
そこまで期待はしていなかったのだが、ここまで来ると脱帽である。
長年その家にいないと分からないような細かい事や料理の味付けは仕方ないとして
それ以外はそつ無くこなしてしまう。
「とはいっても、マルチは最新型って訳じゃないんだけどね。」
好んで旧型を買った奴が何を言っているのやら… 苦笑いする。
風呂から上がるとマルチがお茶を入れてくれた。
もう至れり尽くせりだなと思いながらも、礼を言って受け取る。
「ありがとう。」
その言葉にマルチは少し動揺する。
「ん、どうしたの?」
「…いえ、失礼しました。」
照れているのかな? まさかね、そう思いながらもそう有っても良いなと考えてしまう。
暫くお茶を啜っていたが、間が持たない。
「何か、変った事あったかな?」
手持ちぶさたになってマルチに尋ねてみる?
「いえ、別段何もございませんでした。」
「そう、うん、それならいいけど。」
何だかこれでは、間が持たない恋人同士ではないか。
「あ、お茶ご馳走様。」
そう言って俺は自分の部屋に向う、逃げ出してしまった 我ながら情けない事だ。
「はい、それでは、私は充電を行います。」
「うん、それじゃおやすみ。」
「お休みなさいませ。」