葉鍵板最萌トーナメント エキシビション Round84.01!!

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882早朝妄想R
エディフェル支援SS

 気が付くと、私は月夜のススキ野原に立っていた。
 ススキの生え方なんていつの時代も変わらないけど、今は真ん中に大きな
鉄塔が建っている筈だ。それが無い事が、ここが現実世界でなく何百年も前
のここ、あの人と次郎衛門が初めて出会った場所だという事を示している。
「こんばんは」
 背後から女性が声をかけて来る。不意のことだけど、予測していたから
驚かない。
 振り返ると、すぐ目の前に見慣れた女性が立っていた。
 背丈は私より頭一つ上くらいと、割と長身。千鶴姉さんと梓姉さんを足
して、国籍不明の外国人に貼り付けたような容姿。私は2人に似ていると
よく言われるから、他人が見ると私自身にも似ているのだろう。
 それは絶対にあり得ないのだけど。
「こんばんは、エディフェルさん」
 答えてから、何となく間抜けに思う。
 エルクゥ皇女の3女、エディフェル。私の前世、あるいは妄想の産物の
女性。
 彼女は私の一部なのだから、私は自分と挨拶を交わしている事になる。
「お久しぶり」
「半年ぶり・・・かな」
「そんなものね。とりあえず座ろうか」
「うん」
 ここに来るといつも座る岩に、2人並んで腰掛ける。
883早朝妄想R:02/01/01 09:54 ID:UKbKUS6X
「最近、どう?」
「知ってるでしょう」
 同一人物なのだから、私の近況は誰よりも知っている筈だ。
「まあそうだけど、楓の口から聞きたいな」
「ええっと・・・幸せ」
「そう、良かった」
 何となく横目で見ると、やっぱり信じられないほど綺麗な女性だと思う。
 東洋系でも西洋系でもない、不思議な顔立ち。美しい模様の、見慣れない
民族衣装。まあ彼女は地球人ですらないのだから、その辺は当然かもしれな
い。肩にかかる黒髪が、月明かりを眩しいくらいに反射している。
 次郎衛門がひと目で恋に落ちたのも、納得できるかも。
「で、今夜は何の質問?」
「え、あ、えっと」
 見惚れていた所にいきなり言われて、思わず動揺する。
 自分自身相手に何やってるんだろ?
 彼女の夢を見るのは珍しくないけど、普段は私が彼女自身となっている。
こうして2人別々に現われて会話を交わすのは、私から彼女に尋ねたいこと
がある時だ。
884早朝妄想R:02/01/01 09:55 ID:UKbKUS6X
「あなたは次郎衛門と再び出会う為に、生まれ変わったんですよね」
「ええ。そのために長い刻を越えて、私はあなたの中に宿った」
「そしてあなたの願いは、私と次郎衛門・・・耕一さんが結ばれたことで、
叶えられた」
「ええ」
「ならもし・・・もしもですけど、耕一さんと私が結ばれなかったら・・・
耕一さんが他の人を選んだとしたら、あなたはどうしたのですか?」
 それは十分あり得た未来。耕一さんが初恋の人の千鶴姉さんを選ぶ事も、
仲の良い梓姉さんを選ぶ事も、リネットの生まれ変わりの初音を選ぶ事も、
由美子さんや私の知らない人を選ぶ事も。
 次郎衛門の記憶が蘇らなかったなら、蘇ったとしても、あったかもしれな
い、これからあるかもしれない未来。
「もしそうなったなら、あなたはまた何百年も待ち続けたのですか? あの
人が振り向いてくれるまで、いつまでも、何回も」
 何百年も想い続けて、それでも相手は振り向いてくれなくて、また何百年
も待って、それでもまた振り向いてくれなくて・・・もしそうなったなら、
哀し過ぎる。
「そうね」
 ちょっと涙が浮かぶと、エディフェルは微笑みながら私の頭を撫でる。
「もし次郎衛門、耕一さんが私に、楓に振り向いてくれなかったら・・・
あんまり考えたくないけど」
 それは私も同じ。幼い頃から抱き続けた彼女と同じ想いは、もう私の想
いでもあるから。
885早朝妄想R:02/01/01 09:56 ID:UKbKUS6X
「きっと今度は、待たなかったと思うな」
「え?」
 安堵と、失望。
「楓は、もし耕一さんと結ばれなかったら、一生他の人と結ばれなかった?」
「それは・・・判らない」
「う〜ん・・・普通の女の子は、失恋したからといって一生他の恋をしない
なんて、滅多に無いでしょう?」
「うん」
 それが自然な事。けどあれだけ次郎衛門への想いが強いエディフェルまで
そうとは、正直意外。
「そう思うかな。でも・・・」
 夢の中、それも自分との会話。考えたことは口に出さなくても伝わる。
 便利だけど、やりづらい。
「私は恋の途中で死んじゃったから、失恋とか結婚とか、恋の決着がついて
いなかった。何百年も中途半端なままだったのよね」
「うん」
 それが何百年の恋・・・か。
「正直、楓には私の想いを押し付けて、悪い事したと思ってる」
「そんなこと・・・ない」
 私が耕一さんを好きなのは、誰の押し付けでもない。
「そうね。でも楓がもし失恋して、それでも永遠に耕一さん、ではなく次郎
衛門だけを想い続けたなら、哀しかった」
「次郎衛門を?」
「そう。楓が耕一さんをどう想うかは自由だけど、失恋した楓が次郎衛門を
乗り越えてくれたなら、私は来世まで次郎衛門を無理に想い続けることは無
かったと思う」
 その言葉は、長い間想い続けた割には、ちょっとドライかも。
886早朝妄想R:02/01/01 09:57 ID:UKbKUS6X
「楓、縁って知ってる?」
「仏教でいうあれ?」
「そうあれ。転生する時って無秩序に生まれるのでなく、縁の糸に引かれて
身近な人のそばに生まれるのよ。で、異星人の私達は、地球に縁が少ないか
ら、固まって生まれたのは割と当然だったの」
「え〜っと・・・だから今も、前世と同じ4姉妹で生まれた?」
「そう。私達が柏木の家に、それも次郎衛門、耕一さんの傍に生まれたの
は、他に選択肢がなかったから。傍にいれば縁も強まるから、次生まれる
時もその次も、次郎衛門の傍に生まれる確率は高い」
「気の遠くなる話・・・」
「だから何回も近くに生まれれば、そのうち結ばれると思う。だから楓が
決着を付けてくれたら、次からは焦らないで次郎衛門を待ったと思う」
「それって結局、待つって事では?」
「そうね。でも今回みたいに、強く期待はしなかったと思う。たとえ結ばれ
なくてもあの人の幸せを願い、ついでに自分も幸せを目指して、何度も何千
年も」
「気の長い話・・・」
「もう、待つのは慣れたから・・・だけど楓には感謝してる。私の恋に最高
の形で決着をつけてくれたから」
「私の恋だから」
「ええ、そうね」
 いつの間にか、辺りに霧が出てきた。目覚めが近い証拠だ。
「でも次は、どうするつもり?」
「それは楓が決める事よ」
 もうすぐ隣に座るエディフェルの顔も見えない。
「私はもう、楓の一部だから・・・」
887早朝妄想R:02/01/01 09:58 ID:UKbKUS6X
 目を覚まして最初には、もう見慣れた客間の天井が見えた。
 左側に暖かい大きな気配。目を向けると、耕一さんの寝顔が間近にある。
 愛しい人の寝顔。いつまでも眺めていたいけど、誰かが起こしに来る前に
自分の部屋に帰らないといけない。
 けどまあ正月の今日は、みんなも起きるのは遅いだろう。
 もう少しこの人を見ていたい。いつまでも、どんな時も、何年経っても、
「生まれ変わっても・・・」
 そっと呟いて、彼の頬に触れる。起こさないように、軽く。
 この暖かい感触も、いつまでも触れていたかった。