葉鍵板最萌トーナメント!!2回戦 Round84!!

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921琉一
 青白い月がとても美しい、晴天の夜だった。
 煌めく星々を眺めていると、どうしようもない寂寥の念と、望郷の想いに囚われる。
 かつて、二度と戻れない星空に向け、私たちは告げた。
 決別を。
 空を駆けることが適わなくなった私たちは、この地を新たな故郷として生き始めた。
 だけど、その第二の故郷さえ、私は今夜捨て去る。
「エディフェル……」
 静かに土を踏みしめる音が、背後に立つ。
 誰かとは、見ずとも分かる。
 姉のリズエルだ。
 それでも、あえて私は振り向かなかった。
 振り向く資格を捨てたのは私だから。
「間もなく長老たちの会議が終わるわ……。だけど、結果なんて見えている」
「……そうね」
 私たちの獲物であり、敵である人間を匿い、命さえ与えた。
 話し合うまでもない。裏切り者には、死がふさわしい。
「なんで……戻ってきたの?」
 か細く震える姉さんの声。
「……もしかしたら。もしかしたらと思ったから」
「もしかしたら?」
 私たちの間で、一度は出たけど、否定された共存説。
 もう二度と帰れることが適わないのならば、この地に住む人々と共に生きようと。
 だけど……狩猟者である私たちの本能は、それを否定した。
 私もそのうちの一人だ。人間を狩り、喰って、生きる。
 食い破る血の味に、苦さをおぼえたのはいつからだっただろうか……?
「共に歩み、共に生きることができるかもしれない、と……」