2・14
この日が来た。とは言っても実際は違うのだが…
だが、そんな事はどうでもいいのだ。
用は2月14日が重要なファクターであって、真実が覆い隠されようとしても。
そんな…
2001/02/15(木) 04:36のBeatが刻まれたあの日から
国分寺・自室
陣内から電話があった。
『今日はと言う日は忘れられないから一緒にどうだ?』と言う簡単な内容であった。
しかし僕は誰とも会いたくないと事付けると陣内は黙って了解してくれた。
同じ様に閂君とホクちょん(ワタナベホクト)と上田さんからも電話があった。
丁重にお断りした。
こうして見ると、僕も結構、愛情注がれていたと思うと少し嬉しいものだ。
でも、出来る事なら今日は誰とも会いたくはないのだ。
あの時、陣内にしろ閂君にしろ僕にしろ必死だった。
高橋さんに誘われて入社した当時は僕も初々しさとオタク偶像崇拝禁止を打ち立てた
Leafに感動を覚えたものだ。
しかし僕が手がけたホワイトアルバム以降のLeafはかつてほどの勢いがなく、
下川の暴虐ぶりにみんな恐怖したもんだ。
まじかる☆アンティーク以降になるとその破滅ぶりはさしたるもので、Leaf内部
も破綻していたのだから当然の帰結ともいえるのだが…
ともかく、僕が辞表を出す以前にそれが解る筈である。
多分、みんな折戸さんと下川が例の彼女疑惑で辞める時に気がつけばよかったのだ。
下川の変貌に…
下川が現場に顔を出さない事が全ての始まりだったと果たして何人の人が気が付いただろうか?
そんな、まだ数少ない下川の良き人間性をもっていた頃が思い出される。
『記憶の固執』1998年・Leaf伊丹
『原田君。どないよ?状況は』
「はあ、なんとかいい感じで進んでますけど。」
『そうか、本当はToHeartの続編みたいなので一気こう…グイっとやりたかっ
てんけどな、まあ高橋が浮気ゲー作るっていう企画持ってきたからなー』
「まあ、今更そう愚痴っても仕方ないですよ。僕にしろ高橋さんにしろToHeart
みたいな方が疲れますしね。」
『何や?原田君、そうなんかい』
「やっぱドロドロした人間関係の方がシナリオ的には書きやすいですからね。」
『まあ、俺はシナリオ出来んから何とも言えんけど、あれやな。ToHeartに
対するアンチみたいなもんやから売れ線とは違うけど…まあ期待しとるで』
「ありがとうございます。それよりも専務、何か今回おまけ音楽作るとかなんとかって
聞いたんですけど…」
『ああ、そやそや。今回おまけ要素無いんはつまらんなーって思とったんよ。だから
せめてこういう音楽の部分では楽しくやろうかって思うてな、中上(兄)と言うたんよ』
「その辺は専務にお任せします。」
『そうかそうか、んじゃ原田君もちょっと手伝ったてや』
「え、………どこに連れて行くんです?」
『俺の部屋や。』
「ハァ?」
『まあ、ええから来いって…』
「いや、そんな手ぇひっぱらないでくださいよ…」
・
・
・
・
専務自室
『つーわけで、んじゃ原田君にはまず志保を15枚目の所から……』
「いや、ちょっと待ってください専務!全然意味がわかりませんが…」
『だからとりあえず志保15枚目に対するコメントを…』
「意図が僕にはわかりません。」
『まあ、俺等が適当に「ウダルは?」って言うから…なんかリアクションくれたらええねん』
「まあ、とりあえずやってみます。」
『適当でええぞ…適当で…んじゃ本番!!』
「ぐぅぜーんがぁー、いーくつも…」
『オーイ待て待てー!!原田君!』
「ん?」
『自分、こっち来て結構関西式のノリわかってきたなー。』
「なんとなく。」
『俺の前フリをそう使うか?んじゃもう一回するぞ。』
「はい。」
『んじゃ本番…!!いくで!』
【よっしゃーあかりゲット!】
[俺マルチのスペシャル…]
ウダルは?
「えっ、志保15枚」
ヒョォォォォォォォォォォ…
『OKやで!!すまんのー原田君、こんなんに手伝ってもろうて…』
「いや、結構楽しかったからいいですよ。」
『ワッハッハ、そやろそやろ。』
・
・
・
ああ、そういえば楽しかったな。
あの時は下川も現場でノリノリやったし中上さんにしろKY(ラーYOU)にしろ
Leafイズムが全開だったからな。
何がどういう理由で歯車が狂いだしたのか?
Leafが迷走する理由はまるで大東亜戦争が起きた理由を探す様なものだと僕は推測
する。
Leaf東京開発室の誕生
同人誌・アンソロジーなどの禁止令
まじかる☆アンティークの失敗
高橋・水無月コンビの前線撤退
下川の現場離脱によるその部署その部署の分業化
コミケ・リアルこみぱ等によるイベント対立
そして、僕らが愚痴を載せていた掲示板の暴露……
何にしろ、もはやあの歯車の狂っていたLeafを咎める事など……そして
【原初の罪】を問う事など誰も出来ないのだ。
それが出来ると言う奴はよほど悶絶タマラン連中なのだろう。
そんな奴は相手にする必要などないのだ。
ただ、これだけは弁明しなければならない。
高橋さんも水無月さんも決してクリエイト出来なくなってしまった訳ではない。
リーフが二人でしか支えれないようなワントップ状態を潰す為に
僕とKY(アオムラ氏も含む)
はぎやま先生と椎原君
の成長を見込んでの前線撤退だった。
しかし、二人の憶測よりも下川やその他のWeb批評家にも満たない上司共は
結果の出ない人間を処分していった。
部下の成長を見通すほど穏やかな奴等ではなかったということだ。
無論、僕もそんな横暴に耐え切れる訳もなく辞表を出した。
そして、高橋さんも水無月さんもそんなリーフに絶望して去っていった。
誰もが知っている。
人を大切にしない会社は………いずれ淘汰されると言う事を
2001・2・14
この日リーフは間接的打撃を受けた。
僕らの掲示板が公開されたからだ。
中尾さんは陣内に「自分がやった」と言い残して以降、姿を現していない。
でも、僕にはどうしても中尾さんがリークしたとは思えない。
まず、中尾さんがわざわざ掲示板を公開したとして、その真意が見えない。
それに見せる目的も不明だ。
間違っても【いたるとH】発言を見てこの狭い業界、彼女の耳にこれが伝わったとして
中尾さんに彼女が好意を抱くとも思えない。
それに、中尾さんもあんなもんは冗談で書いている筈であるし、(まあ実際萌えなの
かもしれないが……)あれと誇張したのは2chの奴等なのだから…
彼らはそんなに単純に考えちゃイケナイ部分を恐ろしく単純に考え、ストレートに
考えるべき部分をオーバーアクションで邪推する。
そして彼らには真実が提供される事は無く、大衆が望む下衆な欲望の形となって提供
されるのだ。
あの掲示板に関わった人間なら知っている。
一握りの人だけが知っているその真実は墓場まで持って行かなくてはならないと言う事だ。
僕の目の前に飾られてある、あの『色紙』と一緒にね。
2002・2・14
あれから一年が過ぎた。
結局、何が変わったのだろうか?
とりあえず、事実としては結局独立する筈だった東京開発室はあの文書で計画が露見し
未遂となった。(そもそもCHARM君がそんなタマとも思えないがね)
そして、リーフも本当に少しながらだが、過去の精算を図る為に多方面から必死の
展開をしている。(少なくとも僕の目からはね…)
しかし、覆水盆に帰らずである。
一度辞めた人間が戻る事などなく、最早進むしかないということだ。
僕も伊丹の住居から国分寺へと帰った。
そして、今では趣味の探偵モノを書きながらコミケに顔を出すという、何とも風情の
ある生活を送っている。
コミケに行けばあの頃の人間に会える。
あえなくとも陣内や閂君がちょくちょくウチに遊びに来る。
高橋さんも水無月さんも、時が来るのを待って隠遁生活を楽しんでいる。
辞めた奴等もそれぞれの道を歩み始めている。
そして、もう戻れない日常を思い出す事もなく毎日の生活に追われるのだ。
そんな色々あった2・14がバレンタインデーだと言う事すれも忘れていた。
誰もくれる人などいないのだが…
僕は体を寝そべらせ、自室の天井を眺める。
古い家だ。本当に僕の家は貴族なのか?と思うくらい古ぼけている。
ピンポーン
インターホンが鳴る。
(誰だろう?)
僕は体を起こし、気だるい気持ちで玄関へ行く。
「どちら様ですか?」
声を出す。相手は答えない。
残念ながら僕のドアに覗き見するアレは無い。
不用心だが仕方がないので、ドアを開ける。
ガラガラガラ
そして、そこに彼は立っていた。
彼はあの時と変わりの無い微笑みで僕の目の前に立っていた。
僕は「本当に?」と呟いた。
彼は「うん」と短く頷いた。
「マジで?」
「マジ」
「そっか…」
「ああ」
そう、良かった。
失いつづけた2001年、そして2002年も同じ様に繰り返すと思い込んでいた。
でも、違った。
どうやら、失い続ける事は少なくとも今年はなさそうだ。
だから、今は感謝しよう。この喜びを彼に伝えよう。
今はこの言葉だけで十分だ。
「お帰りなさい、中尾さん。」