葉鍵板最萌トーナメント!!1回戦 Round65!!
雪の調べに包まれて(1/3)
静かに、静かに、息をひそめて。
世界は、雪を受け止める。
「……………………静か、ですね……」
天板の上に上体をうつぶせて、眠るように目を閉じていた栞が呟く。
「……………………静か、だなあ……」
こたつの中に仰向けに潜り込んで、ぼんやりと天井を見つめていた祐一が答えた。
「……退屈なら、どこか出かけるか?」
「いえ……このままがいいです」
「そっか……」
そして、また黙る。
遠くで、小さなささやき。どこかの梢が、雪を手のひらから零したのだろう。
ほんの微かに空気を震わせて、すぐ雪の中に吸い込まれていく。
「雪の日って、静かなんですね……」
「ああ……普通、そういうもんだよな」
「そうですか……私、はじめて知りました」
「そりゃ……変わってるなあ」
くすり、と笑って、栞は身体を横に傾ける。
ぽすん、と気の抜ける音がして、布団がその身を受け止めた。
雪の調べに包まれて(2/3)
祐一と同じ向きに身体を投げ出すと、もう少し身を延ばせば祐一の胸まで顔が届く。
こたつの足が健気に踏ん張って、二人の距離を隔てていた。
「だって、去年の冬は、はしゃいでばかりいましたし」
「まったく、よくもまあ、あれだけ遊んだもんだよな……」
一巡りする季節の中を、長く手に入れられなかった時間を取り戻そうと、あらん限りの
力で駆け抜けた一年。その最後の季節。
雪だるま。雪合戦。スキー。かまくら。思いつく限りの事は何でもやった。二人の間の
あらゆる時間を、思い出たちで一杯に埋め尽くした。
「もっと前の冬は……いろんな音が聞こえました。ベッドの上で、こうやって……」
瞳を閉じて、ふっと息を殺す。
一瞬、静寂が部屋を包む。
「何もすることがなくて、誰もそばにいなくて……ただ、じーっとして、眼を閉じて……」
「そうすると、いろんな音が聞こえるんです。雪が地面に落ちる音、木の枝を軋ませる音」
「誰かが雪を踏んでいく足音……私の、弱々しい心臓の音」
「……だから、雪の日に家でじっとしてるのは、嫌いでした」
「ん……なあ、やっぱ、どこか出かけるか?」
栞は小さく首を振り、瞼を開く。
悪戯っぽい輝きをたたえた瞳が、祐一の眼をのぞき込んでくる。
「祐一さん」
「……ん?」
「そっち行って、いいですか?」
雪の調べに包まれて(3/3)
「お邪魔しますー」
返事を待たずに、栞は祐一の脇の狭い空間に身を潜り込ませた。
こたつの暖かさの中で、互いの体温が熱いほどに重なり合う。
「心臓の音……聞こえますね」
胸に顔を埋めながら、栞が囁いた。
栞の吐息と髪が、祐一の胸元で揺れる。
「栞」
「……はい?」
「変なコト、していいか?」
「そうですね……隣にお姉ちゃん居ますけど、それで良ければ」
「……いや、俺も命は惜しい」
「そうですか、ちょっと残念です」
くすっ、と笑って、もう一度胸に顔を寄せ、瞳を閉じる。
雪の調べが次第に高まって、静寂という名の伴奏で二人を包んでいく。
そのまま、二人は互いの鼓動だけを聞いていた。
「……こういう冬も、いいよな……」
祐一が、ささやくように呟いて、
「…………すー…………」
微かな寝息が、それに応えた。
穏やかに、穏やかに、微睡むように。
世界は、雪に包まれていく。
622 :
神隠しです ◆oMoonCRw :01/12/12 11:34 ID:8GD1vXNQ
>>619-621 栞支援SSでした。季節感は北国限定(苦笑)
こういうSSはこのトーナメントではあまり受けないと分かっていても、
私にはこういう萌えしかできないのです。許されよ。
時刻は折り返し地点。残り半分、マターリと両者がんばれ〜。