葉鍵板最萌トーナメント!!1回戦 Round59!!
――岡田支援枝分れSS 昼休み・岡田
まったりとしたお昼休み。
教卓前のあたしの席の近くに集まってお弁当を開く。
お弁当って言ってもあたしはパンだけどさ……
「ふむ、吉井さんは今日もお手製弁当ですかー」
「よくやるわね、面倒臭くない?」
自分で作るってことは、最低でも30分、一時間は早起きしなきゃいけないワケ
でしょ? そんな時間あったら寝るわね、少しでも。
「面倒は、面倒かなぁ。でも自分の好きなもの詰めれるし、結構楽しいかな」
好きなものって割にはカロリー計算までちゃんとしてるじゃないの、よくまぁそ
こまで気が回せるものね。
「岡田さんは今日もコンビニパンですかー」
「うっさいわね、なんか文句あるわけ? そういうアンタはどうなのよ?」
「松本は……お父さんが作ってくれるんだっけ?」
「そうそう、おとーさんが料理好きなの」
「それじゃあたしと変わらないっての。まぁ、良いわ。あたし何か飲み物買って
くるけど?」
最後の一欠けらを口に含んで、ジュースで流しこむ。
「わたしお茶〜」
「松本はいつもので良いんでしょ? 吉井に訊いてるのよ」
「私は良いよ」
おうけい、手だけで合図してあたしは席を立った。
もう恒例になってしまったことだけど、あたしはやっぱり全員で買い物に行きた
かったりする。必要性とか合理性を問われると返す言葉が無いんだけど、単独行動
っていうのはちょっと寂しい。
それもこれも松本の食事の速度が致命的に遅いせいなんだけど、まぁ、一生懸命
人の話を聞いてるから箸が止まるっていうのは、それはそれで良い事なのかもね。
昼休みも半ばに達していたせいか、購買はそれほど混んではいなかった。あくま
でそれほど、だけど。並ぶのが面倒だったあたしは、中庭の自販機に行くことにし
た。
流石に用途がたった一つということもあって、ほとんど並んでいない。お茶とカ
フェオレ、ジュースが3種類という選択肢がやたら少ないのもあって、必要な人間
しかこちらには来ないからだろう。屋外の自販機のように製作者の意図がまったく
読めないようなブツが入ったり、入れ替わりが無いのがつまらないと言えばつまら
ないけど。並ばなくて良いならこっちの方が良いわね。
自分の番がまわってきたので、ちゃちゃっと済ませる。
そのまま教室に向かおうとしたあたしの足を次の瞬間二つの単語が止めた。
「保科」「援交」
保科に関しては妙な反応癖がついてしまっていた。ああいうことがあったからと
いうのもあるけど、放っておけないというか、興味がある。
声の主を探すと長岡と藤田だった。
拾った単語からして人気の無いところを選んだつもりだろうけど、それは藤田の
配慮か、長岡の声量じゃ誰に聞かれたもんだか解ったものじゃないからね。
「面白そうな話じゃない、ちょっと訊かせなさいよ」
「お、岡田……」
不意に声をかけられたせいで藤田は狼狽し、長岡はバツの悪そうな顔をした。
「別になんでもねぇよ。な、志保?」
「ええ、そうよ。なんでもないんだから。あはははは」
つまらないこと言うじゃない、藤田。
「あっそ、なら良いけど。あんまり不穏なことを声高に言うのはどうかと思うわよ」
「聞いてたのかよ……」
「そう言わなかったかしら、もっとも聞いてたじゃなくて、聞こえた、だけどね」
じゃあねとばかりに立ち去ろうとしたあたしを藤田が止めた。
そう、そうこなくっちゃいけない。
長岡の話を聞いた。
「へぇ、そうなの」
予想通りくだらない内容だった。なんでそこまで自信があるのか小一時間問い詰め
たい欲求にかられたけど、貴重な昼休みをこれで潰すのはあまりにもバカバカしかっ
た。あんまりオロオロするもんじゃないよ、藤田。まったく、コレの何処が良いんだ
か……
「岡田、言わなくても解ると思うんだがこのことは……」
「解ってるわよ。根も葉もない誹謗中傷垂れ流すほどガキじゃないわよ」
「ね、根も葉もないですってぇ、失礼ねっ!!」
ああ、失礼。
志保ちゃん情報には根が有ったわね。茎と葉がちぐはぐで花を咲かせるけど。
「ん? 根も葉もないって、何か知ってるのか?」
「根拠も無しに否定したりはしないわ。その日のその時間、あたしは保科と会ってた
んだから」
「ええっ!? だって妙齢のオジサンと……」
「父親と会うくらいでエンコー呼ばわりじゃ、外じゃおちおち親とも遭えないわね」
それで何か? というあたしに対して、藤田の口の端がひきつるのと比例し、長岡
の顔が青ざめた。
教室に帰る道で思いを巡らす。
あの日、保科と会っていたのは本当。
個人的に謝りに行ったのだ。行ったと言うと語弊があるけど、あの場所あの時間に
遭遇したから良いタイミングだったのだ。
元来謝るのがあたしは苦手で中々切り出せなかったけど、それでも保科はちゃんと
聞いてくれた。全然関係無い話もしたし、身勝手な言い分もあったと思う。それでも
あたしが謝るまで、最後までちゃんと聞いてくれたのだ。
「そうやってな、自分の言葉で話ししいや」
保科の口から出た言葉は暖かかった。
「解ってるんやけど、私もそんなに器用やないから」
鉄壁を思わせる構えた感じもなく、小さな溜息をついて苦笑する。
そこに、あたしの嫌いな保科は居なかった。
本当に父親と会っていたかどうかは知らない。でも、自分を安売りするようなヤツ
じゃ無いというのは解ってるし、保科はそんなに弱くは無いって知ってるから。
教室に戻ると松本がお弁当を広げたまま吉井をからかっていた。
「解ってるんだけどね、なかなか」
「なかなか、なんの話? ほら、ウーロン」
吉井の顔が悲壮感に包まれる。
そんなにあたしが帰ってくるのが嫌だったか……
「吉井ちゃんの儚く辛い恋のおはなし〜」
「ちょっと、松本っ!!」
「へぇ、それは聞き捨てならないわね。詳しく聞かせてもらおうじゃない」
まぁ、そういう反応するのは訊いてくれって言うようなものだから、友人としてはや
はり乗ってあげないといけないわね。
「ここじゃなんですから〜」
力無く項垂れる吉井を引きずって、あたし達は教室を後にした。
広げっぱなしの松本のお弁当が多少気になったりはしたけれども……