──クラナド・うたわれるもの発売日──
この日を境にエロゲー界は大きく変貌した。
クラナドは期待通りの出来でユーザーにとって満足の行く作品となった。
しかし、同じ日に発売されたうたわれるものをプレイしたユーザーは、かつて無い驚愕の体験を叩き込まれた。
起動してまず驚かされたのは、キャラクターが全てコテコテのいたる絵になっていたことだろう。
甘露・中村・みつみの原画を期待していたユーザーにとって、衝撃の第一弾であった。
さらにゲームを進めていくと明らかになる、お約束の超シナリオマジック。
設定をないがしろにする展開。無駄なシーンの繰り返し。無意味な伏線。淡白な結末。
極めつけは攻略可能なヒロインが全員非処女。後にエロゲー界の無血革命と呼ばれる撃滅の第二弾であった。
そこへ追い撃ちをかけるようなクラシックの名曲を使ったBGMの数々。
通常シーンでも超シナリオと共鳴して、ユーザーの神経を逆撫でする効果を発揮したが、
中でもHシーンで使われた曲は特にユーザーを萎えさせた。
シュトラウス(父)作曲のラデッキー行進曲。抹殺の最終弾。
軽快なマーチのリズムに合わせて主人公がパンパンする様は、コンサートで聴衆が演奏に合わせて拍手するのを
連想させ、ユーザーは手にしたティッシュを箱に戻す以外、為す術が無かった。
ここまでくると、SRPGの筈だったシステムがビジュアルノベルになったことや、フラグ管理のミスにより、
どのシナリオルートを通っても、トゥルーエンドしか見れないことなど、どうでも良いことになっていた。
東京開発室の作品を期待していた葉っ派や、噂を聞き、いたる絵目当てでプレイした鍵っ子達は、
みんな声が枯れるまで叫び続けた。
「萎え萎えー!」
「超先生、萎えー!」
うたわれるもの改め、超うたわれるものと呼ばれるようになったこのゲームは、エロゲー界を席巻していった。
「俺はカロ(ピー)メイトでええねん」
そう言い残して竹林は逝った。
超うたわれるもの発売翌日に竹林の家を訪れた樋上は、修羅場続きですっかりやつれた竹林を見て心配になり、
何か食べ物を買ってくると竹林に尋ねた。
それに対する返答が、竹林の最後の言葉だった。死因は過労死と判定された。
超うたわれるものが発売されてから数日後に、最初の異変が起きた。
超先生を始めとする葉にとって忌むべき存在である葉鍵板において、大量の首吊りカキコが発生した。
∧||∧
( ⌒ ヽ もうエロゲーは懲りた。現実世界の方が素晴らしい。
∪ ノ 超先生よ、ありがとう。
∪∪
このカキコはやがて葉鍵板の全てのスレに蔓延し、人の来なくなった葉鍵板は静かに閉鎖された。
うたわれるものをリリースできなかった東京開発室は葉を離れ、同人専業メーカーに姿を変えていった。
東京開発室を失った葉本体は、P/ECEを主力とするミニゲームメーカーに成り果てた。
今回の一件で巻き添えに遭った鍵は、樋上を前面に出して信者を呼び戻そうとしたが、
超先生の影響を払拭することが出来ず、その後は健全路線で細々とやっていくことになった。
そして『萎えゲー』というジャンルを確立した超先生の名は、数多くの社会不適合者を立ち直らせた救世主として、
後の世に語り継がれることになった。
──終──