葉鍵板最萌トーナメント!!1回戦 Round53!!
「…これ、なんですか?」
ふと… なんとなく気になった、といった顔で天野が聞いてくる。
天野の指さした先は、俺の部屋の片隅。そこに置いてあるものに向けられている。
つまりは…
「…ああ。ファミコンのことか?」
「ファミコン…?」
じ…、と、天野はそれを見たまま。
「名前は、何度か聞いたことがありましたけど」
呟きながらも、視線は外さないで。
「実際に見るのは、これが初めてです…」
興味津々と言った顔の天野を見るのは、なかなかに楽しかった。
「気になるなら… ちょっとやってみるか?」
「え…?」
きょとん、と、天野が振り向く。
「天野、今すっごくやってみたい、って顔してたぞ」
「ぁ…」
かぁっ、と顔を赤くして。
「やり方は俺が教えてやるから… やってみないか?」
「ぁ… は、はいっ」
こくっ、と頷く天野を見ていたら、なんだか。
天野にこういう遊びを教えるってことが、凄く楽しいことのように思えてくる。
「え、えっと… Aボタンで、ジャンプ…ですよね」
「ああ」
ぎゅ、と妙に緊張した感じでコントローラを握る、天野。
ちなみにプレイさせてるソフトはとりあえずの定番、スーパーマリオブラザーズだ。
「まあ、こういうのは習うより慣れろ、だ。色々自分で試してれば、だんだんと慣れていくと思う」
「は、はい…」
緊張した顔のまま画面を見つめる天野を見るのも、楽しい。
じっ…と顔を画面に近づけ、ぎこちない動作でコントローラを操っていく。
「ちなみに、クリボーに触るとやられるから気を付けるべし、だ」
「クリボー…?」
きょとん、と、天野がこちらに振り向いて。
その隙に、天野の操るマリオはあっさりとクリボーにやられてしまっているのであった。
その後、天野は結構真剣にマリオをプレイし続け。
危なげながらも、1-2をクリアできる程度には慣れてきていた。
「……」
天野は、ずっと黙っている。
真剣な顔で画面を見つめ、ようやく慣れてきた操作でマリオを操り、慎重にゲームを進めていっていた。
声をかけるのが悪いような気がして… 俺も、ただじっと天野のプレイを眺める。
退屈は、しなかった。
「ぁ…」
天野が、小さく声を漏らす。
見ると、マリオが奈落の底に落下していっていた。
「これで残機ゼロ、だっけな」
なんとなく、空気が柔らかくなった。
天野も、残念そうな表情ながらも、体から力が抜けているみたいだ。
「凄く… 面白かったです」
ぽつ、と。
どことなく嬉しそうに、天野は呟いた。
「じゃあ… それ、貸してやろうか?」
「え…」
ぴ、とファミコンを指さしながら、言う。
天野は、きょとん、と俺を見つめた後…
「で、でもそうすると相沢さんが…」
「大丈夫だ。俺は今はそんなにファミコンやってないし、第一、天野が対戦相手に成長してくれるならその方が嬉しい」
「……」
数秒、返事に困ったように俺を見つめた後。
「…わかりました。ちょっとだけ… 貸して貰いますね」
微笑みながら、ぺこりと頭を下げて。
天野は、そう言ったのだった。