「おいおい。アイツ、右手と右足が一緒に出てるぞ・・・」
トーナメント会場に入るあゆの姿は、とても奇跡を起こした少女には
見えなかった。
「緊張してるあゆちゃんも可愛いねー」
単純に名雪は面白がっている。
「そうか?見てるこっちが恥ずかしいぞ。
・・・っと、忘れないうちに行ってくるか」
「席を外すんですか?もうすぐ佳境ですよ?」
秋子さんが不思議そうに尋ねる。
「いえ、アイツ、きっと『うぐぅ。負けちゃったよ〜』とか言って
ピーピー泣きながら帰ってくるでしょうから、残念賞代わりに
たい焼きでも買ってこようと思って。
泣いた子供をあやすには、食い物が一番ですから」
なら私が・・・、と財布を取り出そうとする秋子さんを俺は慌てて止める。
「いいんですよ。私もあゆちゃんにはお世話になってますし」
「でも、あの時はアイツ看病中に寝ちゃったし・・・」
笑いながら答える俺の言葉を遮って、秋子さんは続ける。
「いいえ。もう一つの方です。
私がいまここに居られるのは、あゆちゃんのお蔭ですから」
「え・・・」
何のことです?と続けようとして、俺の記憶に触れるものがあった。
『あの状態から回復するなんて。本当に奇跡ですよ』
医者はそう言った。
そう。『奇跡』と。
(この人も気付いてるんだ)
観念してお札を受け取る俺に、また秋子さんは続ける。
「勝ったときのお祝いは多いほうがいいですよね」
ぐはッ。バレてる。
俺だって、あゆが負けるだなんて思っちゃいない。
秋子さんには、俺の照れ隠しなんぞは通用していなかった。
(この人は、何でもお見通しなんだな)
頭を掻きながら観客席をあとにする俺を見送る秋子さんの笑顔が
容易に想像できた。
会場の外にはかなりの屋台が出ていた。
こんなお祭り騒ぎなんて滅多にないだろうし、たしかに稼ぎ時かもしれない。
袋いっぱいのたい焼きを抱えて戻る俺に、文字通り会場を揺らすような
歓声が聞こえた。
(何だ?また萌え画像という名のバンカー・バスターでも投下されたか?
意外に健闘するじゃないか)
自分の頬が緩むのがわかる。
(けどな・・・)
片手でポケットからザ○ルスを取り出して電源を入れる。
(応援してくれてるみんなには悪いけど、最高の萌え画像はここにあるんだ)
写し出されたのは、初めて袖を通す制服に戸惑いながらも
満面の笑みを浮かべている少女。
7年間の空白を、やっと笑顔で埋めた女の子。
最高のJPEG画像。
「そうだ。飲み物もいるか」
ザ○ルスを仕舞い、コインを自販機に入れようとする俺の手に一片の雪。
振り始めるにはまだ早い。
けれど、空もあゆを応援してくれてるのだろうと、俺は勝手に解釈して
来た道を戻る。
会場が、また歓声に揺れた。
スレ汚し、スマソ。