「うぐぅ。緊張するよ〜」
小さな身体を、より一層縮めてあゆが呟く。
無理も無い。
いきなりこんな大舞台で、「己の人気を試せ」「祭りだ、ワショーイ」
などと言われれば誰だってそうなるだろう。
「大丈夫だ。早く行ってこい」
俺は背中を押す。
「祐一くんの『大丈夫』には根拠がないよ〜」
だけど、あゆの手は俺の服の端を掴んで離そうとはしなかった。
そうか。
そうだったな。
お前は知らないんだ。
秋子さんが今も夕食を作ってくれるのも、
名雪が笑っていられるのも、
栞が学校に行けるのも、
香里がもう泣かなくてすむのも、
みんな、お前のお蔭だ。
額がくっつきそうになるくらい、あゆに顔を近づける。
「な、何?」
一言、一言、思いを届けるように。
力の使い方さえ忘れてしまった魔法使いの記憶を取り戻すために。
「奇跡なんて滅多に起こるもんじゃない。それは誰でも知ってる。
だからって、何もしないのか?それで奇跡は起きるのか?
そうじゃないだろ?
お前なら、あゆなら、俺の言いたいことがわかるよな?」
近づいた距離の分だけ顔を赤くしたあゆは、キョトンとしている。
「うぐぅ。よくわからないよ」
「・・・そっか」
やはり、そう何度もは無理なのか。
「でも、応援してくれるみんなもいるし、ボク行くね」
「ああ。行ってこい」
今度こそ、背中を押されたあゆは、トーナメント会場に向かって走り出す。
「勝ったら、ボクに鯛焼き奢ってね〜」
振り向いて無邪気に手を振る姿に、俺は答えることができなかった。
(アイツ、今日はリュック背負ってなかったよな?)
会場のライトが逆光になってよく見えなかったけど、あれは・・・。
まあいい。
俺だけが知っている。
あれは幻なんかじゃない。お前には翼がある。
何処までも飛んで行け。
たとえ負けてしまっても気にすることは無い。
飛べなくなっても、下には俺がいるさ。
7年前は掴み損なったけれど、二度目はない。
もう落とさない。
俺は、名雪達の待つ観客席に足を向ける。
「だから、心配せずに飛んでこい。あゆ」
長文、スマソ。