葉鍵板最萌トーナメント!!1回戦 round50!

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791ONE本文引用
しかし話しに聞いていたのとは違って、みさおの病院生活は、いつまでも続いていた。
一度、大きな手術があって、後から知ったのだけど、その時みさおのお腹は、みさおのお腹でなくなったらしい。
そして、そのころから母さんは病院よりも、ちがう場所に入りびたるようになっていた。
どこかはよくしらない。
ときたま現れると、ぼくたちが理解できないようなわけのわからないことを言って、満足したように帰ってゆく。
『せっぽう』とか言っていた。どんな漢字を書くかはしらない。
「わ、病室まちがえたっ!」
「合ってるよ、お兄ちゃん」
「え…?みさおか?」
「うん、みさおだよ」
792ONE本文引用:01/11/29 19:16 ID:QJCI1Jld
みさおは、髪の毛がなくなっていた。
「びっくりしたぞ、お兄さんは」
「うん…」
ただでさえ、ここのところやせ細っているというのに、さらに頭がツルツルになっていれば、ぼくだって見間違える。
そのくらい、みさおは姿が変わってしまっていた。
「やっぱり、お腹がなくなったから、体重減っちゃったのか?」
「そうかも」
喋りながら、ころころとカメレオンのおもちゃを手のひらで転がしていた。
ぺろぺろと舌が出たり入ったりするのを、みさおはくぼんだ目で、見つめていた。
ぼくはみさおには絶対に、苦しいか、とか、辛いか、とか聞かないことにしていた。
聞けば、みさおは絶対に、ううん、と首を横に振るに違いなかったからだ。
気を使わせたくなかった。
だから、聞かなかった。
ほんとうに苦しかったり、辛かったりしたら、自分から言いだすだろう。
そのとき、なぐさめてやればいい。
元気づけてやればいい。
そう思っていた。
793ONE本文引用:01/11/29 19:16 ID:QJCI1Jld
年が明け、みさおは、正月も病室で過ごしていた。
ぼくも、こんなにも静かな正月を送ったのは初めてだった。
「みさおは、今年の願い事はなんだ?」
「もちろん元気になることだよ。それで、お兄ちゃんがきてくれる、ちちおや参観日をむかえるの」
「そうだな。去年は無理だったもんな」
「うん。今年こそはきてもらうよ」
時間はあのときから止まっていた。
そろえ始めていた変装道具も、中途はんぱなままで、部屋に置いてある。
進んでいるのは、みさおのやせる病状だけに思えた。
そのときを機に、みさおは父親参観日のことをよく口にするようになった。
ぼくも、今年こそはと、強く思うようになっていった。
正月も終わり、街並みが元通りの様相に戻ってゆく。
でも、みさおの過ごす部屋だけは、ずっと変わらなかった。