葉鍵板最萌トーナメント!!1回戦 round50!

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355本文引用
母子家庭であったから、みさおはずっと父さんの存在を知らなかった。
ぼくだって、まるで影絵のようにしか覚えていない。
動いてはいるのだけど、顔なんてまるではんぜんとしない。
そんなだったから、みさおには、男としての愛情(自分でいっておいて、照れてしまうけど)を、与えてやりたいとつねづね思っていた。
父親参観日というものがある。
それは父親が、じぶんの子供が授業を受ける様を、どれ、どんなものなのかとのぞきに来る日のことだ。
ぼくだって、もちろん父親に来てもらったことなんてない。
でもまわりの連中を見ていると、なんだかこそばゆいながらも、うれしそうな顔をしてたりする。
どんな頭がうすくても、それは来てくれたらうれしいものらしかった。
しかしそのうれしさというものは、ぼくにとっては、えいえんの謎ということになる。
きっと、たぶん、二度と父親なんて存在はもてないからだ。
振り返ったとしても、そこには知った顔はなく、ただ誰かから見られているという実感だけがわく、ちょっと居心地の悪い授業でしかない。
ぼくの父親参観とは、そんな感じでくり返されてゆくのだ。
でもみさおには、男としての愛情を与えてやりたいとつねづね思っているぼくにしてみれば、ぼくと同じような、
『ちょっと居心地の悪い授業でした』という感想で終わらしてやりたくなかった。
だから、一大作戦をぼくは企てたのだ。
356本文引用:01/11/29 02:18 ID:QJCI1Jld
「みさお、ぼくがでてやるよ」
「お兄ちゃんって、あいかわらずバカだよね」
「バカとは、なんだ、このやろーっ!」
「イタイ、イタイよぉーっ、お兄ちゃんっ!」
アイアンクローごっこで少し遊んでやる。最近のお気に入りだ。
「はぅぅっ…だって、お兄ちゃん、大人じゃないもん」
「そんなものは変装すればだいじょうぶだ」
「背がひくすぎるよ」
「空き缶を足の下にしこむ」
「そんな漫画みたいにうまくいかないよぉ、ばれるよぉ」
「だいじょうぶ。うまくやってみせるよ」
「ほんとぉ?」
「ああ。だから、次の父親参観日は楽しみにしてろよ」
「うんっ」
初めはバカにしていたみさおだったが、最後は笑顔だった。
みさおの笑顔は、好きだったから、うれしかった。