葉鍵板最萌トーナメント!!1回戦 round48!!
「お疲れー」
「うぃーっす」
斜陽の射し込む体育館、けたたましいホイッスルとともにバレー部の練習が終わる。
「ねー、昨日の××××見た?×××が凄いかっこよくってさー」
「でもあれでしょ?ミチコなんてもう捕まえてるって話よ?」
「じゃあさ、どっかお茶でも飲みに行かない?」
ノイズ。
沙織の赤い髪が、微かに射し込む夕日を受けてより一層赤く輝いている。
その汗に濡れた髪の隙間を、いつ果てるともしれないノイズがすり抜けてゆく。
「あちー」
「お疲れさおりーん」
「どうだった?あたしの新必殺スパイクは?」
「ありゃあ一寸止めらんないねー。あとはもうちょっと入らないとね」
「そう、それが問題なのよ!ね?それでね……」
口を動かしながら器用に体操着を着替える。
シャツに手を通したまますぽん、と汗びっしょりの上着を脱ぐと、薄緑のブラが覗いた。
「あれ、さおりブラ替えた?」
「え?ああ、新しいのだよ?」
「新しいブラですと?」
すすすすす・・・と噂好きの( )が寄ってくる。
「さてはさ・お・り・ん?」
下から上目遣いでつついてくる。既に脳の中ではその相手の顔まで妄想しているようだ。
「な、、、何……?」
「とぼけてもムダよ?男でしょ?オ・ト・コ!そういえば最近めっきりさおりん女っぽいもんね〜。
こっちはどうなのかな?やっぱ?」
「や!」
( )がブルマの中に手を差し入れ、覗き込むようにするとぱっしとその手を叩き払う。
「あつっ!もう、ぶたなくってもイーじゃない!」
叩いてしまってから我に返ったのか、はっと一瞬手を見る沙織。
「あ、、、ごめん……その……」
「別にふつうの下着みたいだったし……あ、もしかしてあの日?」
何も答えず、ふいと視線を逸らすと( )は( )なりに気を遣ってみせたようだ。
「うんほら、元気にバレーやってたからそんなこと考えなくってさ……
あは?ね、お詫びになんかおごるからさ、駅前のケーキ屋さん行かない?」
スカートにまだ汗の残る足を通す。
濡れた肌が生地の感触をダイレクトに伝えてくる。
ぱち、とホックを留めて髪を後ろに撫でた。
「ごめん……今日、私早く帰らないといけなくって。また明日誘ってね?」
ゆっくりと下っていく坂道の、遙か彼方で太陽が紅く溶けてゆく。
ただ一人、ねじけた道を下っていく。
誰もいない住宅街で、「60」と刻まれた道が曖昧に連結させられている。
まだ肌寒い季節のはずなのに、体内を駆け回る血液が煮沸されているかのような錯覚を与えられる。
常緑のはずの街路樹が、灰色の色彩を辺りに零している。
瞳に映りこむ太陽が最後の精彩を放って、目の間に広がるはずの世界が、音も立てず隔離させられていく。
一歩踏み出す事に底が抜けてしまうような道路。
進めば進んでゆくだけ後退させられてゆくようで確実にそれは
世界の枠組み通りに連続する。
「ただいまー」
誰もいない空間に向かって呼びかける。
屈んで指を滑らせ、靴を脱ぐ。ふっと差し込む一筋の風が冷たい。靴を揃えて、台所へと向かう。
一揃えだけ玄関に並ぶ白い靴。
白い蛍光灯の碧。
蒼い光が目の中に射し込んで、消える。
蛇口をひねると、ひねられた通りに水が吐き出されてゆく。
勢いを変え、形を変えて迸る雫の粒子。
手をかざすと伝わってくる淀んだ温み、それが皮膚越しに浸透していくのが見えた。
濡れた手で蛇口をひねり直すと、ステンレスにひときわ大きな水玉が落下して
それぞれ無機質な壁に阻まれて壊れていく。
ぱたぱたぱたぱたぱたぱたぱたぱた
聴神経を振るわせる濃淡のないおと。甘く 泡の出るように吹き出してゆく。
タオルを片手に二階に上がる。
「彼女」の部屋は二階にある。
どの部屋を寝床にしても構わないはずなのに、彼女は二階の住人だった。
階下のあかりに照らされ、途中まではほの明るい階段。その先の二階は、静かな闇に包まれている。
光を拒むように、昼間のうちに蓄えた影を吐き出し続けている。
いつの日にか闇を恐れないようになって。
闇の中に移ろう影に怯え、小さな物音に恐怖した記憶はもう過去の残した跡の中にさえみることはできない。
暗く、濁った空気をかき分けるたびきしり、きしりと神経がきしみをあげた。
スイッチには手を伸ばさず、そのまま自分の部屋まで足を運ぶ。
歩き馴れた短な道のり。微かに軋む床の音が聞こえてくる。
自室に辿り着き、漸く電灯に火をともし、仄かに黄色の混じる光の下で肩に掛けていた鞄を椅子にかけると、
乾いた振動に、秒針の進行する音が一瞬遮られた。
そのまま押入に向かい、ぱちり、と鍵を開ける。
「ただいま、祐君」
天蓋に埋め込まれたライトが、煌々とその空間を照らし上げている。
「祐君」はその押入の隅の角にいた。
自分の名前を呼ばれると、はっと面を上げる。
「元気してた?今日は部活でね、、、参っちゃうよ」
「……」
微かに口元を開き何か言おうとするのだけれど、
何も口に出すことはなくそのまま黙っている。やや色彩を失いかけた瞳の中、沙織の姿だけが映っている。
首もとにつけられた鎖がかしゃり、と冷たい音をたてた。
生まれたままの姿で、彼は繋がれていた。
壁の何処からか生え出る五本の鎖が両の腕両の足、それに首元にからみついている。
沙織が踏み出すと、小さく震えながら後ろに下がろうとするけれど、
打ち付けられたままのコンクリートの感触はどこまでも冷たく背中に張り付いて離さない。
彼の、それでも柔らかな肌がぴったりとそれに吸い付いていった。
「ね、祐君、ほら、、、」
彼女は、その「飼っている」小さな動物の腿に、いつもやるように手をさしのべる。
ぴくん、と一瞬ふるえが走ったのが指越しに伝わってきた。
それもやはりいつも通りのことなのだ。
長い髪が、彼の素足をくすぐった。
見ないようにと目を閉じても、既にからだが「彼女」の動きを覚えてしまっている。
いつも、彼女はいつもこうしてそこで丸くなるかのように頬ずりしてくるのだ。
「祐君、いい匂いだねぇ……」
僅かに香る柑橘系の匂いは、沙織が毎日その「所有物」が汚れるたびに
丹念に風呂場で洗ってやるせいだ。しかしそれは彼女にとって問題でも何でもなく
頬のふれる暖かな感触が離れると、彼は足をこわばらせた。
いつもの、やはり繰り返されるいつも通りの
「そんな固くならないでよ……祐君、恥ずかしがり屋さんなんだから、、、」
つなぎ止めた彼のわきごしに易々と手を通して抱き寄せる。
これ以上は、というところでじゃらり、と鎖が限界を告げる。
「ん……」
小さな、というほどでは無いけれど小柄な体を抱き寄せて唇をふさぐと
祐介の口から小さな吐息が零れだした。
「あは?祐君、女の子みたい♪」
一旦唇を離し、にこ?と猫科のほほえみを浮かべてみせる。
しなやかな指で祐介の顔をそっと撫でる。
「ね……祐君、わたしにも、ね?」
小さな子供が生まれたての子猫をあやすように
「たまには、祐君からキスして欲しいな、、、」
目を閉じて顔を近づけると、もみあげが耳元をくすぐった。むず痒いような、少しじれったいような小さな刺激。
「………ぁ」
何とかひとつ息をつくけれど、とても口づけ出来るような気力は残っていない。
ガラス細工にも似た瞳に、赤い髪の「彼女」が映りこんでいる。映しこんだまま、彼の時間は緩慢に逆行していく。
「もー。祐君ったらー。たまにはいいじゃない?」
暫く黙りを続けて、先に根負けしたのは沙織の方だった。
「そんな、いつも私ばっかり先にキスしても、ねえ?」
「……新城さん、、、もう、、、許してよ、、、」
目を合わせてぱちっとウィンクを送ると、祐介は鎖をもぞ、と動かして下がろうとする。
「だーめ♪」
そう力を込めなくとも、簡単に彼の動きを拘束することが出来た。やや病的な影の落ちた白い肌を、
愛おしむかのように指の腹でなぞっていく。脇腹の辺りをつかみ、ふにふにと指先で弄ぶ。
「女の子にはもうちょっと協力的に!嫌われちゃうよ〜?」
抵抗してみせるけれど、くい、と顎に力を込めると簡単に口を開く。
「あむ……」
「ん、、、」
アイスキャンディーでも舐めるかのように舌を絡め合わせ、自らの唾液で祐介の中も濡らしてゆく。
ちゅっ、、、ぷちゅ、、、つぷ、、、ちゅぷ…………
閉塞した見せかけのエデンに、水のきしみを上げる音だけが響く。
自分よりも、より華奢な祐介の体に体を重ねると、鎖がその沈み込むのを妨げるまで彼の体は倒れていく。
口の中を、舐めるように舌でなぞっていくとそこがぴく、と反応を返す。
そんな感覚を楽しむかのようにかき回していく。
その上で、碧い微熱を放つ沙織の垂らす赤い髪が彼の表情を隠してゆく。
冷たい床と、鎖に形作られた虚空の壁を背にして混ざり合う二人。腕の中で、柔らかな感覚が軋む。
「ぷぁ!」
顔を離すと、少し頬を上気させながら上目遣いに祐介が覗き込んでいる。
「ふふ、、、それじゃ、祐君〜」
胸ポケットから小さな鍵を取り出し、手を縛る鎖を解く。
かきん、と音を立ててぶつかり合う金属製の
そのまま祐介を横たえさせる。自由になった両手にも、殆ど感覚はない。
「ほら、、、祐君のために、私我慢して帰ってきたんだよ……」
くい、とスカートをたくし上げると、むわっと汗の匂いが立ちこめた。
はためにも汗まみれなのが解る赤いブルマが姿を現す。腿の辺りまでじっとりと汗に濡れて、時折雫が伝っていく。
「祐君、、、ぐしょぐしょの……ブルマ、好きなんだよね……」
返事を待たずに首元に馬乗りになる。それだけでひび割れてしまいそうな瀟洒な体。
「ほら……バレーの練習から、着替えないで、、、来たんだよ、、、」
「……んぁ……」
むせかえるような女の子の匂いが鼻を突く。
べったりと汗の感触が肌をさする。濡れた、沙織の体の熱が痛い。
そこを包む布きれ越しに、祐介の鼻に、口元に女性を押しつける。
熱は逃げるどころかいっそう高まってさえいるかのようだ。
腰を揺らしながら、そこを銜えさせるかのように押しつける。
「あぁ、、、ん、、、ふぁ、、、祐君の、、、息、、、私の、、、にかかって……祐君、、、おねが……噛ん、、、」
異常な程の汗と、祐介の唾液でほんのりと沙織のそこは形をしめしていた。
祐介の舌を無理矢理押しつけ、自分はゆっくりと仰向けに手を伸ばしていく。
「あ……祐君も固くなってる……♪」
「や、、、だめ、、、さお……」
大きく背中をのけぞらせ、そこを祐介の口元にあてがったまま両手で
祐介のものをつかみあげる。
「ぁっ、、、」
「やっぱり、祐君女の子みたい……んふ、、」
猫科共通の笑みを浮かべて祐介のそれを弄び始める沙織。
「だめ、、、ダメだよ……新城さん……そんな、、、あ、、、」
「祐君の、どんどん固くなってくね、、、」
「ッ痛、、、お願い、そこ、、、うぁぁ…」
沙織のしなやかな指に弄られ、そそり立った祐介のものをじりじりと剥きあげていく。
「新城さんっ、だめ、いたいよ、お願い、許して……」
「祐君が電波、送ってくれたらいいよ?」
その先を、爪でひっかくようにして遊ぶ沙織。
敏感な肌に硬質な爪が直接なぞるたび、快感ともつかない激痛が走る。
「わかったよ、、、解ったから、そこは、、、やめ、、、」
「もう、しょうがないなぁ。。。もう一寸いぢりたいのに……」
細く爪跡が残っているのを、優しく指の腹でなで上げる。
「それじゃ、ね?」
祐介は軽い寝息を立てている。
「ん……」
視界に差し込む、煌々と照り続ける電灯に目を刺されて起きあがる。
「祐君、、、」
部屋の隅に折り重ねられている布団を取ってやると、鎖を覆い隠すように重ねる。
「………………………」
「え?」
空耳だろうか、そっと密室を出ると、火をおとす。
ベッドの上で。
いつの日からだろうか、この異常な、ゆがんでいるはずの日常がごくごくあたりまえのものに置き換えられて。
つい先ほどまで自分の手の中で悶えていた柔らかな感触を思い出す。
「、、、」
虚空にかざした手に、まだその熱が残っているようだ。
熱を、舐めるようになぜあげるだけでそこが濡れていくのがわかる。
何かが蝕んでいる。
何かが指の先まで食い荒らしている。
何かが、目に見えない何かが体全体を包み込もうとしている。
或いは、既に