男男 葉鍵板最燃男トーナメント!! round2!! 男男

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753雨と彼女と僕と猫(1)
舌打ちしながら分厚い雲を見上げる。
ただでさえ底冷えのする二月だというのに、空からは盛大に雨粒が落ちていた。
身を切るような雨――氷雨、という奴だ。
小脇に抱えた傘だけが、今の気分を救っていた。

雨のカーテンで視界が煙る。
足下のアスファルトに現れては消える、ささやかな波紋を見ながら歩く。
と、低めに向けられた僕の目に、道端にかがみ込んでいる人影が映った。
着ている制服から同じ学校の生徒であることが解る。豊かな黒髪が後ろで束ねられていた。
女生徒は一向に立ち上がろうとしない。体の具合でも悪いのだろうか?

「君、どうしたん…」
声に振り返った顔を見て、僕は絶句した。
意志の強いまなざし。一文字に結ばれた唇。全体に漂う、無愛想な雰囲気。
誰あろう、川澄舞その人だった。

川澄舞と僕との関係は、あまり良好とは言い難い。
しばしば問題を起こす彼女を、僕の所属する生徒会は厳しくマークしていた。
そしてあの舞踏会の事件。
あの事件をきっかけにして、彼女を退学まで追い込んだのも僕なら、彼女を復学させたのも僕。
復学の交換条件として、彼女の親友・倉田佐祐理を生徒会に呼び戻したのも僕だった。
そんな僕に対して、彼女は「佐祐理を悲しませたら許さないから!!」と啖呵を切ったりもしている。
要するに、犬猿の仲と言って差し支えない。
…もっとも、僕に限って言えば、今ではそれほど彼女を敵視してはいないのだが。

「…何?」
僕を見上げながら、二文字で問い返す。
「…いや、どうしてそんな格好をしているのかと思ってね」
彼女はもの言わず視線を戻す。
無視されたのかと思ったが、その視線を追ってみると状況が理解できた。
754雨と彼女と僕と猫(2):01/12/02 19:26 ID:sVGOGHpd
彼女の背中に遮られて死角になっていた場所に、段ボールの箱が見えた。
そしてその中で…仔猫が一匹、震えていた。

「…捨て猫、か」
彼女がこくんと頷く。
そのとき、僕は彼女の髪が濡れているのに気付いた。
傘を大きく仔猫の方に傾けているため、彼女自身はまともに雨を浴びてしまうのだ。
「…馬鹿」
僕は段ボール箱を持ち上げると、沿道の屋根の下に運んだ。
「こうすれば、わざわざ傘を差しかけなくても雨宿りをさせてやれるじゃないか」
「…久瀬、賢い」
君の発想力が貧困なだけだ、と心中で呟きながらも、彼女が僕の名前を覚えていることに驚いていた。

「しかし、何もこんな季節に捨てなくても…」
北国の冬は容赦がない。今はまだいいが、夜から明け方にかけての冷え込みは凄まじい。
こんな仔猫の命など簡単に凍てつかせてしまうだろう。
肩を並べた彼女も、同意の表情を見せている。
…今の僕は、なんとなくだが彼女の気持ちを推し量ることができた。

「…ずっとこの猫の様子を見ていたのかい?」
「…心配だったから」
「君が拾って、飼ってやればいいじゃないか」
「…アパート」
…どうやら、アパート住まいのためペットは飼えないらしい。
もうちょっと言いようがあると思うんだが…
…まあ、意味は通じてるし、いいか。
755雨と彼女と僕と猫(3):01/12/02 19:27 ID:sVGOGHpd
「じゃあ、倉田さんに頼んだらどうだい?」
「…佐祐理のお父さん、動物嫌い」
「だったら、相沢祐一とか」
「…同居人が猫アレルギー」
「…他に心当たりは?」
「……」
…君の交友関係はあの二人だけなのか。ちょっと寂しすぎるよ、それは…

「…結局、どうしようもないんじゃないか」
僕は半分呆れて言う。
「自分では飼えない、引き取ってもらえる当てもない…
 ここにいても仕方ないだろう?」
「…親切な人が拾ってくれるまで、見てる」
「…いや、君がそこでじっと見ていたら、誰も拾えないと思うよ」
怖くて。
「…久瀬は意地悪」
「そんなこと言われてもね…」
事実を述べているだけだよ、僕は。
まあ彼女には、何もしないまま仔猫を見捨てるなんてできないんだろう。

「…あ」
と、彼女が何かを思い出したようだった。
「誰か、心当たりがあったかい?」
僕の問いに、びしっと人差し指を突きつけてくる彼女。
…え?
それは、つまり…

「…僕かい?」
…こくん。