男男 葉鍵板最燃男トーナメント!! round2!! 男男

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708「マスケラ」
「やめてくださいっ!!」
微かに聞こえてきた悲鳴に、久瀬は足を止めた。
人気のない路地裏の薄暗がり。声はそこから聞こえてきたようだった。
見ると、軽薄そうな男たちが3人ほど。
そして、彼らに囲まれるようにして、少女が1人。

久瀬は路地裏に歩を進めた。その途中、手近に落ちていた木の棒を拾っておく。
「あん? なんだお前は?」
男達が闖入者に気付いた。縄張りを荒らされた野獣のように、敵意を露にしている。
彼らに囲まれていた少女と久瀬の目が合った。
「……久瀬さん!?」
「倉田さん?」
男達に囲まれていた少女は倉田佐祐理だった。
久瀬と佐祐理、両者の顔に驚きが浮かぶ。

「なんだ、手前ら知り合いか?」
「悪ぃが佐祐理ちゃんは今俺らと遊んでんだよ。邪魔すんな」
男達の内の二人が久瀬に詰め寄り、粗野な態度を剥き出しにして恫喝する。
が、久瀬は動じることなく冷めた目で彼らの物腰を見やる。
(フン……単なるチンピラか)
「何とか言ったらどうなんだ、あん?」
「あんまり顔を近づけないでくれないか。息が臭い」
「なっ……!」
「舐めてんのか、手前!」
「ああ、それと忠告だけど、君達あまり喋らない方がいい。
語彙の貧困さと知能の低さを露呈するだけだ」
冷笑を一つ。それが引き金だった。
709「マスケラ」:01/12/02 03:10 ID:4Bf6HPIH
「殺す!」
唸りを上げて男の拳が久瀬に迫る。喧嘩慣れしている男の、至近距離から放たれたパンチ。
だが、久瀬の顔面をしたたかに打つはずだったそれは空を切った。
「――遅い」
冷たい声は、男の懐から聞こえた。
「う……あ……」
首筋に棒を突きつけられて、男が喘ぐ。その顎から冷や汗が一筋、ぽたりと落ちた。
「これでも僕は剣道三段の腕前でね。どうする? 今なら見逃してあげるけど」
「ぐっ……畜生、今度会ったら絶対殺す!」
捨て台詞を残して、男達は去っていった。
後には久瀬と佐祐理だけが残される。

「はぇ〜、実はお強かったんですね、久瀬さん」
「うちの父親の教育方針でね。物心ついたときから、一通りの武道は嗜んでいる」
別に大したことじゃない、と言いながら、男達が去っていった方に向かって棒を投げ捨てる。
「さて、それじゃ行こうか。ここはあまりいい場所じゃない」
見たところ、佐祐理には特に怪我などはないようだった。
佐祐理を先導して、二人して路地裏を抜け出る。

「あっ、祐一さん」
路地を抜けた先には祐一が待っていた。
懸命に佐祐理を探していたのだろう、息を切らせている。
「佐祐理さん……と、久瀬?」
佐祐理を見つけて安堵したのも束の間、一緒にいるのが久瀬と知り剣呑な表情になった。
「……それじゃ、僕はこれで」
「待てよ、久瀬」
去ろうとした久瀬を、祐一が引きとめた。
710「マスケラ」:01/12/02 03:12 ID:4Bf6HPIH
「……なんだい?」
「どういうことだ。お前、一体佐祐理さんに何をした!」
ほとんど掴みかからんばかりに久瀬に迫る祐一。
「祐一さん、違うんです。久瀬さんは……」
佐祐理が誤解を解こうとするが、激昂した祐一の耳には届かない。

「答えろっ、久瀬!」
「どういうことだ、だって……?」
その語調に、思わず祐一が怯む。
「僕の方こそ言わせてもらうぞ、相沢! 君は一体何をやっていた!
倉田さんはな、そこの路地裏で不良に絡まれていたよ。
彼女を守るのは君と川澄さんの役目だろう。
たまたま僕が通りかかったから良かったものの、倉田さんに何かあったらどうするつもりだ!」
「…………」
祐一は反論できずに口を噤む。
「……すまない、取り乱した」
一言詫びると、久瀬は二人に背を向けて歩き出した。
711「マスケラ」:01/12/02 03:12 ID:4Bf6HPIH
「久瀬さん」
その背中に佐祐理が声をかけた。
久瀬は振り向かない。が、気にせず佐祐理は頭を下げた。
「ありがとうございました。助けてくれて」
「久瀬、その……疑ったりして悪かった。それから、ありがとうな」
二人の声を背中越しに聞いて、久瀬の口元がふっと緩む。
それは先程の冷笑とは違う、暖かみのある笑みだった。
「……気にしなくていいよ。困っている生徒を助けるのは、生徒会役員としての務めだから」
そう言って、片手を上げてその場を去った。

帰り道、久瀬は思う。
あんな風に笑ったのは、果たしていつ以来だろう?
少しずつ自分が変わっていく、そんな予感がした。