客席のざわめきが、かすかに聞こえてくる。
理奈は、舞台に上がる直前のこの時間が好きだった。
眩しく輝くスポットライトの下、今日のこの日足を運んでくれた人たちと作り上げる一時。
それを思うと、心の底から高揚感が沸き起こる。
「……理奈ちゃん、頑張ってね」
横で同じように舞台を見ていた由綺が、不意にそう言って微笑んだ。
彼女は、理奈よりも一足先に舞台を下りた。背に満場の拍手を受けながら。
「まかせといて」
理奈も微笑み返す。
……まだ、まだ譲れない。
自分の為にも、親友の為にも。
この胸の高鳴りを、自分の想いの全てを皆に伝えるあの場所は。
あの、輝くステージを
「緒方さん、時間です」
スタッフが理奈に小声で告げた。
「……いってらっしゃい」
笑って差し出された由綺の右手を、しっかりと握り返す。
「いってくるわ。あなたの分まで」
照明が落ちる。
会場のざわめきが消えていく。
全てが静寂に包まれる。
そして。
虹色に煌く光の中に、彼女の姿が浮かび上がる。
http://sakura2.room.ne.jp/~boogie/cgi-bin/img-box/img20011118234932.gif