葉鍵板最萌トーナメント!!1回戦 Round38!!
「うーん……今日は楽しかったね、繭」
夕日に照らされた駅の入口で、背伸びをしながらお姉ちゃんが話しかけてくる。
「はぁ……楽しかった、っていうよりひたすら疲れたわ……」
その後ろで、みゅーなお姉ちゃんがつぶやく。
「うんっ、とっても楽しかった」
「ほらっ、七瀬さん、繭も楽しかったって言ってるよ」
「当り前よ。これで『まぁ、あなた達にしては上出来ね。楽しませてもらったわ』
なんて冷静に言われた日にゃ、あたしゃ、首吊るわ」
「あはは……確かに七瀬さんにとっては災難だったけど」
「そうよっ!何で、この子はジェットコースターに乗ったときまで髪を引っ張るかな。
それが痛くて叫んだおかげで、口の中も目もカラカラになったわよ!」
よく分からないけど、みゅーなお姉ちゃんも楽しかったみたい。
……そう、楽しい。お姉ちゃん達と一緒に遊んでいるときは楽しい。でも……
「……こーへー」
「うん?」
お姉ちゃんがわたしに聞き返す。
「こーへー」
「あぁ、またその名前ね。一体誰なのかしらね?」
「うん……繭、やっぱり私たちその人のこと知らないんだ。ごめんね」
わたしはお姉ちゃん達に会うたびに、その名前を口にしていた。
わたしにとっても大切な人の名前。
でも帰ってくる言葉はいつも同じ。「知らない」
「……うん、いい」
だから、わたしはいつもそう答えるしかなかった。
「ごめんね、繭」
うん、いいんだ。お姉ちゃんは悪くない。みんな忘れているんだもん、わたし以外。