葉鍵板最萌トーナメント!!1回戦 round28!!
「……うん、ありがとう。これで大丈夫だよ」
「?」
浩平の顔に浮かぶ、たくさんの疑問符。
それが見えているかのように、くすくすと笑うみさき。
くるりと翻すと、いつものように歩き出す。
「今日の先輩、なにか変だぞ」
「そんな事ないよ。私は私だよ」
「やっぱり変だ」
「ひどい事言うね、浩平君」
「うーむ、やっぱり何かいつもと違う……と、着いたな」
学校の目の前にあるみさきの家。
二人だけの時間は、いつも短い。
「それじゃ、また明日な」
「そうだね。またね、浩平君」
短いからこそ、かけがえのない時間。
別れを告げるように手を振ると、ゆっくりと歩き出す浩平。
答えるように手を振るみさき。
それはいつもの光景。
「それに、一番の夢は絶対叶えたいからね……」
浩平の耳に微かに届く、みさきの声。
「え?」
振り向いた時、みさきの姿は扉の向こうに消えるところだった。
「……やっぱり、今日の先輩はいつもと違ってたな……」
首を傾げても、答えは出てこない。
みさきの体温を感じたその手は、まだ温かかった。
窓を開けると、そこから風が吹き込んできた。
優しくみさきの身体を包み込み、そして流れていく。
「……好きになった人の姿は、この目で見たいんだよ……」
「……それに、浩平君と一緒に見てみたい景色があるんだよ……」
「だから、私ね……手術なんて怖くないよ……」
胸の中で呟いたはずの言葉。
口に出すことの無かった言葉が、風に乗って消えていく。
「浩平君に分けてもらったからね。頑張れるよ、私」
その風は、夕陽に向かって吹いていた。
みさきが好きな、真っ赤な夕陽に向かって。
想いを乗せた風は、静かに流れていった。