葉鍵板最萌トーナメント!!1回戦 round28!!

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367名無し
<夕陽の見える丘>


「浩平君。綺麗な夕陽の見える丘に連れてってくれない」
 その日の放課後、先輩が言い出した頼みは唐突だった。
 どうしてまたと尋ねてみたら、仲の良い男女が夕陽の中で別れるのに憧れていたという。
「先輩、でも……」
「浩平君。こういうときは何も言わずに連れてってくれるのが甲斐性ってものだよ」
 そういわれちゃ仕方が無い。オレは先輩を裏山へ連れていってやった。

「うわぁ〜、きれいだね、浩平君」
「そうかあ」
 この街に越してきてから10年以上経っているが、俺は夕陽を綺麗だと感じたことはない。
「ダメだよ、浩平君。こんな夕陽が見えるのに何も感じないなんておかしいよ」
 先輩は俺をにっこりと見つめた。目が見えないはずなのにその瞳は、できの悪い後輩をほっとけないという風に見つめている。
「先輩こそ、どうして見てきたように……」
 俺は、先輩の目が見えないことを知っている。なのに先輩はそんなことをほとんど感じさせない。
「見えてるんじゃないよ、浩平君。感じてるんだよ」
 俺の心を見澄ましたかのように、先輩は声をかけてきた。その言葉は俺の心に響いてくるような感じだ。
「こんなに気持ちのいい夕陽が、綺麗じゃない訳ないじゃない」
 そういうと先輩は気持ち良さそうに、夕陽を見つめた。その時の先輩の姿は目の前の夕陽と相まって、とても美しく思えた。
「ほら、浩平君も感じてみるといいよ。きっと、夕陽が綺麗なものだって思い出すから」 そういうと先輩は、俺の手を取った。

 その日の夕陽は、10数年ぶりにとても綺麗だった。