2 :
名無しさんだよもん:01/10/29 01:27 ID:jDTMqBJ8
そこは「無」
なにもないところ。
なにもないところに、彼女はいた。
かつて、神奈と呼ばれた存在。
(静かじゃ)
こんなに静かなのはどのくらいぶりだろう。
あの悪夢が始まってから、自分には一時もこのような時間はなかった。
(もう、あそこに戻るのは嫌じゃ)
この場所……場所と呼べるかどうかは分からないが……に、永遠に留まるのも悪くはなかろう。
永遠の、安息を――――――
「……お前か」
入りこむ影、ひとつ。
「おぬしを利用した余に復讐にでも来たのか?」
返事は、ない。
「余が憎かろう。おぬしの体を利用し、思うまま殺戮に走った余が。」
返事は、ない。
「殺すがいい 余を。消滅させてしまうがいい。」
なんでもいい。
あの悪夢に、帰らなくとも済むのなら――――――
「だめだよ。」
人影が言った。優しい声だった。
「それじゃあなたは、いつまでも悲しいまま。」
それを聞き、神奈は激昂した。
「だまれ!お前に余の何がわかるというのじゃ、余の悲しみが、苦しみが、悪夢が、
お前にわかるとでも言うのかっ……!!」
激しい声だった。強く、荒く。
そして、悲痛な。
「分かるよ……だって。」
「わたしは、あなた。」
人影が、こちらに迫ってくる。
神奈は、退いた。
「あなたと同じ悲しみを……わたしも持っているもの。」
一歩。
「く……来るでない……」
また一歩。
「あなたと同じ痛み……わたしも感じていたもの。」
影は。
「来るでない……来るな……!」
神奈を――――――
影に包まれた瞬間、神奈に流れ込んでくるものがあった。
それは懐かしい、あの夏の日の記憶。
一人の無礼者と出会い、母親と別れたあの夏の日々。
そしてもう一つは、自分の知らない記憶。
一人の旅人と出会った、夏の日の記憶。
旅の男と過ごした、あの夏の日々。
それは。
幸せだった、あの夏の日々のカケラ――――――
神奈は我に返った。
影が、自分を抱きしめている。
不思議と、嫌な気分ではなかった。
そして、神奈の目に留まるもの。
それは、夏を共に過ごした、愛しい人。
「りゅうや、どの……?」
影の手を離れた神奈は、一心に柳也のもとへ。
「柳也どのっ、柳也どのっ、りゅうやどのぉっ……!」
まるで、年端もいかぬ子供のように、神奈は泣きつづけた。
柳也と呼ばれた影は、子供をあやすようなしぐさをしながら言った。
「神奈。よくきけ。」
「いやじゃ!もう、夢を見るのは沢山じゃ!余は、柳也どのと共にいたいのじゃ!」
話のないようを察していたらしい。神奈は、一層泣き始めた。
「駄目だ、神奈。お前が犯した罪は、お前が罰を受けなければ赦されない。」
ないようとは裏腹に、けして突き放すような口調ではなかった。
「罪?余が、なにを……」
「島で、おまえが殺した人間がいるだろう。」
「……ッ!」
思い出す。桃色の髪をした少女。緑色の髪をした少女。
一言も喋る様子のなかった少女。金髪の少年。蛇。そして、あの鬼飼い。
「うう……ううう」
神奈は、また泣き出した。それは夢に戻る事に対してか、
それとも、「罪」の意識によるものであったのか。
体を震わせて、押し殺すように。
神奈は、泣いた。
「……安心しろ。」
「柳也」の腕に力がこもった。
「俺が、待っている。お前の罪が赦されるまで、俺がずっとまっていてやる。」
「……!」
「だから、行ってこい。多分、すぐに終わるから。それに……」
そこで神奈はもう一つの影を認めた。それは、柳也とともに彼女を支えつづけた人物で。
「裏葉ぁ……」
「こいつも、待っているからな。」
「……」
「俺と裏葉はお前を応援しながら、いつまででも待っている。」
だから、行ってこい。そういったきり、影は口をつぐんだ。
「……待っていて、くれるのじゃな?」
神奈が、口を開いた。
「ああ。……待ってる。」
「いや、待っておれ、これは命令じゃ。」
その声は先ほどまでの神奈ではなく、あのわがままな翼人、神奈備命のものだった。
「……承知した。翼人様の命とあらば」
もっともらしく、柳也の影は応えた。心なしか、その顔は笑っているように見えた。
そして、神奈の姿が消えていく。
(――――――三人とも)
最後に。
(――――――感謝するぞ――――――)
そういって、神奈は姿を消した。
「わたし……あの子に何かしてあげられたかな。」
「ああ。観鈴、おまえは十分過ぎる程よくやったぞ。」
「せや。お前はようやったで。」
「にはは、観鈴ちん、がんばった。」
「それじゃ、そろそろ行くか?」
「え?往人さん、あの子を待ってなくていいの?」
「せやで居候。男なら約束守ったらんかい。」
「いや……待ってたから、おまえがいるんだろう。」
「え?」
「……何でもない。それより……」
「往人さん、この手なに……?」
「共に、いたいんだろ?」
「おー なんや居候、恥ずかしい事言っとるでー 智子あたりにちくったろー」
「晴子っ!」
「お母さんっ!」
「わははー なんや二人とも耳まで真っ赤になっとるでー わははー」
約束しよう。
どれだけ生まれ変わっても、お前と共に生きる事を。
約束しよう。
お前に、幸せな記憶を刻みつづけてやる事を。
約束しよう。
たとえ汗が滲もうと、この手を離さないことを――――――
どもRiver.です。各レス間の改行は3行でお願いします。
ツッコミ、修正お待ち致しております。
Please change BGM. Airより「鳥の歌」
...伴奏
――潜水艦、内部――
梓「せ…狭い」
耕一「なんか息苦しくないか…?」
マナ「まず…くない?」
晴香「ちょっと七瀬! 上げて!」
潜水艦が急浮上する。
――ギ…ギギィ…――
急いでハッチを開けた。
耕一「だから無理だったんだって! こんなたくさ…」
――潜水艦、海上――
耕一が見つめた空に飛行機雲が見える。
どこからか来て、あの島へ向かったかのような軌跡。
[消える飛行機雲 僕たちは見送った]
マナ「もう…。日が昇ってたのね」
ひょっこりと顔を出すマナ。
光を放つ太陽。
青い空。
[眩しくて逃げた いつだって弱くて あの日から]
あの島の悪夢。
変わらないはずだった日常。
[変わらず いつまでも変わらずに]
彼等はいつか、消えてしまった人達のことを忘れてしまうのでしょうか。
[いられなかったこと 悔しくて指を離す]
――潜水艦、正面――
――ニャーニャー…――
耕一「鳥?」
潜水艦のまわりに沢山の鳥が集まってくる。
鳥達は彼等の船に併走する。
白い中に1羽だけ黒。
[あの鳥はまだうまく飛べないけど]
マナ「鳥がいるってことは…」
繭「陸が近いってことじゃない?」
黒い鳥は、道を示したかのように先へと進む。
不恰好な飛び方のまま、弾けて消えた。
ぴろ(!! そ…ら!?)
[いつかは風を切って知る]
七瀬「陸見えたの!?」
操縦席から響く七瀬の声。
晴香「まだ……。まだだけど……!」
[届かない場所がまだ遠くにある]
あゆ(うぐぅ…。狭いし暗いし苦しいし…。早くついてよぉ…)
[願いだけ秘めて見つめてる]
――通学路――
七瀬「折原…。瑞佳…」
通学を行く。
以前通りの道だが、寂しい。
[子供たちは夏の線路 歩く]
繭「みゅーー! 早く早く!」
底抜けに明るい繭の声。
七瀬「はいはい…」
騒ぐ繭に七瀬が走り寄った。
七瀬(うん…)
繭「みゅ?」
[吹く風に素足をさらして]
――柏木家――
耕一「昔…。皆でハイキングいったな…」
平和の時。その中で彼はたびたびい昔を思い出す。
二度と帰ってこない、幸せな日々。
[遠くには幼かった日々を]
梓「耕一〜。ちょっといいかな〜」
梓が彼の側に駆け寄ってきた。
[両手には]
梓「耕一と同じ大学に行きたい!」
耕一「なっ!?」
あゆ「ぼくも!!」
[飛び立つ希望を]
――黄昏の街――
晴香「これから…。どうしようかな」
赤い街の中を晴香は歩く。
行き先は決めていない。
ただ、飛行機雲の向かう方へと歩いてみたかった。
[消える飛行機雲 追いかけて追いかけて]
晴香「なんか楽しいこと見つけなきゃね」
飛行機雲は遥か彼方まで続く。
晴香「ま、なんとかなるでしょ。生きているんだから」
ふと誰かに呼ばれた気がして振り返る。
気のせい?
晴香「七瀬…?」
[この丘を越えたあの日から変わらずいつまでも]
――マナ自室――
マナ「あ〜〜! 医学って難しすぎる……」
机の参考書を放り投げるマナ。
ぴろ(まぁ、がんばりな)
マナ「うう…。せんせー…」
[真っ直ぐに僕たちはあるように]
――再び潜水艦――
晴香「それじゃあ、鳥達の向かう陸地へ向けて…」
[海神のような]
晴香「全・速・前・進!!」
一同『おう!!』
[強さを守れるよ きっと]
【HAKAGI ROYALE ――――――――――――――END】
19 :
林檎:01/10/30 01:21 ID:qH3WIcOp
あ…
鳥の歌→鳥の詩
題名と1行目。よろしくお願いします、らっちーさんm(_ _)m
20 :
名無しさんだよもん:01/10/30 08:27 ID:RpavUtEQ
完結あげ
五ヶ月と13日にわたる長丁場でした。
21 :
名無しさんだよもん:01/10/30 08:33 ID:JgABAqd4
22 :
通夜(1):01/10/30 13:39 ID:mk/3n0vs
「いや、まあ、そう言ってもらえるのは嬉しいんだけど……」
少々申し訳なさそうに、耕一は答える。
「……俺、大学辞めるつもりだから意味ないぞ」
「へ?」
梓の素っ頓狂な声を聞いて、何となしに小気味よい満足を覚えた。
帰ってきてからいろいろとあったのに加え、身体も満身創痍としか言えない
状態だったため、この柏木の屋敷に留まり大学の方には全く顔を出していない。
(足立さんは、大学はちゃんと卒業した方がいいって言ってたけど……)
意味もなく大学に通う以上に、自分が本当に為したいことがある。それだけ
の重みを持った約束だった。こちらの熱意を感じ取ったからこそ、最終的には
折れ、自分の希望を受け入れたのだろう。
今はまだ機を見ている状態だが、耕一は近いうちに鶴来屋に就職し、下積み
を重ねることになっている。
23 :
通夜(2):01/10/30 13:40 ID:mk/3n0vs
「いや、俺がいなくてもどうしてもうちの大学に来たいって言うなら止めない
けど、正直あまりお勧めできないな。しがない三流大学だし――それに、ここ
から通える大学じゃないしね」
「うぐぅ……」
あゆが不服そうな唸り声を漏らすが、仕方のないことだった。
仮に自分が大学を辞めなかったとしても、この屋敷を――多くの思い出と、
想いとが詰まっているこの屋敷を、もぬけのからにしてしまうわけにもいく
まい。誰もいなくなった家は、抱えたものを道連れに死んでいってしまうの
だから。
「それより二人とも、準備の方は大丈夫なのか?」
ふと思い出して、告げる。
二人とも、料理の支度中だったはずだ。
大量の――具体的には、七人と一匹分もの。
「あ、そういえば――」
「あーっ! ボク、お鍋を火に掛けっぱなしだよ!」
そんな叫び声を皮切りに、二人とも慌てて台所に戻った。
24 :
通夜(3):01/10/30 13:41 ID:mk/3n0vs
誰もいなくなってしまった縁側――背後からは梓とあゆの騒々しいやりとり
が聞こえる――で、耕一は物思いに耽っていた。
脱出直後の混乱の中ではあったが、皆にこの屋敷の場所を教え、日時を決め、
再会の約束をしていた。
あゆが千鶴から聞いていた、通夜を行うために。
ただ、耕一は懸念していた。
『あなたが死んでとっても悲しいけど』
もしかしたら、誰も来ないのではなかろうか?
あの悪夢のような出来事を、誰もが背負って生きていけるとは限らない。
それを捨て、忘れようとして生きていくことを、非難することはできない。
『私達はあなた達の死を無駄にせず、元気に生きていくことができますよ』
自分も、それを背負って生きていくのは辛い。
梓やあゆも、同様に辛い思いをしているのだろう。
それでも必死に、元気に生きている。
『私達はしっかり生きていきますよ』
約束の時間には随分と早いような気がするが――
――呼び鈴が、鳴った。
どうも、「通夜」作者です。
何はさておき、完結おめでとうございます&皆様お疲れ様でした。
完結後の話ということで、アナザにあげるか本スレにあげるかで悩んだの
ですが、一応「鳥の詩」内後日談柏木家パートを受けての話となりますの
で、本スレに上げさせていただくことにしました。
※各レス間の改行は三行で。
※最初に誰が尋ねてきたかは、続けてくださる書き手さんがいらっしゃれば
その方の判断にお任せします。
一応メンテ
27 :
名無しさんだよもん:01/11/03 15:02 ID:6oCa32pm
ん?
28 :
名無しさんだよもん:01/11/06 02:35 ID:Q+vbrcYz
#13より下にあるってどういう事よ?
メンテ
29 :
名無しさんだよもん:01/11/09 16:02 ID:UhC2PUru
みんなトーナメント用実弾制作で忙しいのか!?
メンテage
30 :
名無しさんだよもん:01/11/10 12:09 ID:eizCOOb0
あぐりっぱメンテナー
31 :
名無しさんだよもん:01/11/11 22:35 ID:L19H/uAU
め、めんてなんだな……
32 :
名無しさんだよもん:01/11/14 20:32 ID:jWXHaFGx
免停
33 :
名無しさんだよもん:01/11/15 11:07 ID:tRLMz2fE
後日談のまとめキボーン。
メンテ。
34 :
名無しさんだよもん :
めんて