河島はるかの世界へようこそ#2

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495名無しさんだよもん

以下の物語は原田宇陀児原作「WHITE ALBUM」の一節、
河島はるかシナリオ以後の世界を舞台とした二次小説である。
主人公の「藤井冬弥」は高校時代から交際を続けてきたアイドル歌手「森川由綺」と別れ、
幼稚園来の友人である幼馴染「河島はるか」との交際をはじめることを決意する。
しかし、音楽祭以来由綺のスケジュールはさらに過密さを増し、三人は共に親密な間柄であることも相まって、
冬弥は由綺にはるかのことをなかなか切り出すことが出来ず、一ヶ月近く二人の怠惰な関係は続いていた。
季節は冬の名残が色濃く残る三月の終わり。
この日の夜季節外れの雪が街に舞い降り、冬弥はベランダのガラス戸を開ける。
すると懐かしい歌声がどこからともなく聞こえてきた・・・。
496名無しさんだよもん:02/01/31 14:10 ID:O6BoI3l3

『粉雪が空から やさしく降りてくる』
『手のひらに受けとめた 雪が切ない・・・』

街の中心から少し離れた閑静な住宅街。
その一角を占めるマンションの一室から由綺の新曲『POWDER SNOW』が流れていた。
空からひらひらと舞い降りる綿帽子のような雪片を見上げながら、
冬弥はベランダの手すりに背中をあずけ、下の階から聞こえてくる由綺の歌声に目を閉じ静かに耳を傾ける。
一ヶ月ぶりに聞く透明感のある、全てを包みこむような由綺の声。しばらくすると歌はサビの部分に差しかかった

『今でもおぼえてる あの日見た雪の白さ』
『はじめてふれた唇の温もりも 忘れない“ I still love you・・・”』

「・・・・・・・・・」
訴えかけるようなアコースティックギターをBGMに
純度の高い由綺独特の声音で紡がれる、別れた恋人を今なお思う甘く切ないラブソング。
冬弥はゆっくりと目を開き、白い吐息を浮かべる。
「はぁ・・・まったく英二さんも酷な歌を作ってくれるよな・・・」
年に一度、その年のNO.1歌手を決める音楽祭で最優秀賞に次ぐ、優秀賞をデビュー一年目にして獲得した由綺は、
その勢いそのままに緒方英二、作詞、作曲『POWDER SNOW』を先週リリース。
それは長い間TOPの座を浮動のものとしてきた作詞、緒方理奈による
『SOUND OF DESTINY』を瞬く間に抜き去り、今週オリコン一位にランクイン。
つまり由綺は一年足らずで名実ともに音楽界のTOPアイドルの仲間入りを果たしたことになる。
こないだミュージックショップの大型テレビで偶然由綺を見かけた時、冬弥は思わず息を呑んだ。
それは緒方英二による舞台演出にもよるものもあるだろうが、
雪降るブラウン管の中で静かに踊る由綺は以前にも増して綺麗で、見るもの全てを圧倒していた。
少しの寂しさはあったが、冬弥はそんな由綺の成長を素直にうれしく思えた。
しかし、これから彼女にはるかとの関係を告げることを考えると自然と沈鬱な顔立ちになってしまう。
アイドルとして脂がのりはじめると同時に精神的にもつらい時期にさしかかった由綺に、
「実ははるかのことが好きなんだ」なんて由綺の人生をスポイルさせかねないことを告白する勇気は冬弥にはまだなかった。