河島はるかの世界へようこそ#2

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229TEZ

俺は足早に構内を歩く。
なぜなら、もうすぐ『映像文化論』が始まるからだ。
前回ははるかの計略『流言』に見事にはまり、講師の忠誠心を下げてしまったので今回はなにがなんでも出なければならない。
よし、このまま行けば五分前にはいけそうだ…と、あれ?
あの、ベンチにいるのは…
ワンワン!
はるか「ん、おすわり」
はるかだ。
どうする?

A.さわらぬはるかに祟りなし。
B.虎穴に入らずんばはるかを得ず。
230TEZ:01/11/21 09:42 ID:ALoF0k3D

はるか「あ、冬弥。おはよう」
眩しいくらいのはるかスマイル。
C.はるかの笑顔に勝るものなし。
冬弥「おはよう、はるか」
冬弥「なあ、もたもたしてると『映文論』に遅れるぞ」
一応、ダメ元で言ってみる。
はるか「ん、さぼる」
はるか「今日は冬弥で遊ぶから」
やっぱり、ダメだったか…
しかも、『で』ってなんだよ…
冬弥「はぁ…俺が言っても説得力無いけど、落としてもう一回フレッシュマンやることになるぞ」
はるか「いいね、それ。冬弥ともう一年遊べるし」
はるかは屈託ない笑顔で答える。
冬弥「あのな…頼むから俺を巻き込まないでくれ」
はるか「あ、冬弥」
すると、はるかはふいに俺の左手を掴んで、
はるか「ん」
手の甲を向けた。腕時計が朝日にきらりと光る。
冬弥「げ…」
そして、俺は凍りついた。
はるか「あはは、残念賞」
しかたない、今日は一日はるかに遊ばれてやるか。
231TEZ:01/11/21 09:42 ID:ALoF0k3D

前回と同じように、ベンチにはるかと並んでキャンパスをぼけ〜と見つめる。
いや、少し違うか…
冬弥「なあ、その野良柴犬どうしたんだ?」
はるか「ん、友達」
はるかは二人の間でスピスピと寝息をたてる柴犬の頭をいとおしいそうに撫でる。
冬弥「へぇ…慣れてるな。名前は?」
はるか「ん〜冬弥」
俺を犬扱い…
はるか「だらしないとことか似てるから」
冬弥「やめてくれ…」
232TEZ:01/11/21 09:44 ID:ALoF0k3D

冬弥「芸とか出来るのか?」
はるか「ん、そこに立って」
 冬弥「へ?」
はるか「今から冬弥の芸を見せるからそこに立って」
誰も見たいなんていってないんけど、まいっか。
はるか「冬弥、お手」
はるかの号令で冬弥が俺の手に肉球をのせる。
冬弥「おぉ」
なかなか、賢いじゃないか。さすがは俺だ。
はるか「冬弥、ふせ」
今度もすちゃとすばやく俺の前で茶色の体を伏せる。
冬弥「お、いい子だ。よしよし」
俺は妙な親近感を抱いて冬弥の頭をやさしく撫でる。
はるか「冬弥、噛む」
はむ♪
冬弥「はむ?」
一瞬なにが、起きたのかわからなかった。
見ると冬弥のアギトが俺の手に『はむ♪』どころではなく深々と突き刺さっている。
冬弥「だばばばばばばばばばばばばばばばば!!!」
はるか「ん、冬弥。ご褒美」
血をぽたぽたと垂らしながらキャンパスを駆ける俺を尻目に、冬弥にチョコレートを与えるはるか。
233TEZ:01/11/21 09:45 ID:ALoF0k3D

ばちこーん!
はるか「あいた」
冬弥「餌付けするな」
う〜…っとはるかは頭を抑え、涙目で俺を上目使い見た。
はるか「冬弥、いたい」
俺はもっと痛い…
そんな目で見られたら怒る怒れないじゃないか…
はるか「冬弥、お手」
ぽふ…
いわれた通り冬弥がはるかの手のひらにお手をする。
人が緊急事態なのに呑気なもんだ。
でも、はるかは冬弥の手をやさしくどけ、俺の目をまっすぐ見つめた。
はるか「違う。冬弥、お手」
冬弥「え、俺か?」
はるか「うん、消毒するから」
俺はやっぱり犬なのか?
冬弥「消毒って…あれか?」
はるか「うん」
いつもと同じ顔で同じ空気で頷く。
はるかはいつになく真剣な顔をして、
はるか「冬弥、お手」
先程よりも語調を強めた。
234TEZ:01/11/21 09:45 ID:ALoF0k3D

冬弥「いい…ほら大丈夫だから」
授業中で人の往来は少ないものの、さすがに大学だと恥ずかしい。
知り合いとかに見られたらたまったものじゃないし。
すると、おもむろにはるかは冬弥の方を向いて、
はるか「ん、冬弥、噛…」
冬弥「うわわ…よせ」
俺は神速ではるかの口を塞ぐ。正直言ってこれ以上犬に噛まれるのはごめんだ。
冬弥「わかったよ、ほら」
はるか「ん」
そして、はるかはそっと傷口に口をつけた。
あたたかくて気持ちのよい…はるかの赤い舌先…
俺は、献身的に作業を続けるはるかの短い髪をそっと梳いた…
さらさらと溶けるように流れてゆくはるかの髪。
手首にあたる髪がくすぐったかった。


                               (おわる)