弥生さん@篠塚

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443弥生さん支援(死にかけ)

ねずみの耳

冬弥「由綺、お疲れさま。音楽祭よかったよ」
由綺「うん、冬弥君ありがとう。あ・・・弥生さん」
弥生「由綺さん、お疲れ様です。理奈さんに負けずとも劣らない大変すばらしいできだったと思います」
由綺「えへへ、ありがと。あっ、そうだ弥生さん明日は確かOFFだったよね」
弥生「はい、一区切りついたので、休養ということで由綺さんの明日の予定はなにも入れてませんが」
由綺「じゃあ、明日。冬弥君と私と弥生さんの三人でディズニーランド行こっ!」
弥生「遊園地・・・ですか」
由綺「うん、きっと楽しいと思うよ」
弥生「ですが、由綺さんは藤井さんと二人で行った方がよろしいのでは?」
顔を由綺に向けたまま、ちらっと俺の方を見る。
由綺「うん、だけどね。冬弥君がせっかく一段落したんだし弥生さんも連れて行こうって」
由綺「絶対大勢の方が楽しいよ、弥生さん・・・ダメ?」
由綺は上目づかいに弥生さんを見る。
弥生「・・・・・・・・・」
再び横目で俺と目をあわすと、弥生さんはおもむろに目を閉じた。
弥生「わりました・・・」
由綺「よかったぁ。じゃあ明日の朝10時、駅で待ち合わせでいい?」
冬弥「おい、由綺。弥生さんはこれからいろいろと書類の整理とかあるから、午後からの方いいんじゃないか?」
由綺「あっ、そっか。じゃあ・・・」
目を上に向けて由綺は考え込む。
だが、弥生さんはふいに俺達に背を向けると
弥生「では明日の10時、駅のロータリーですね」
そういい残して、足早に廊下の奥へと消えていった。
444弥生さん支援(死にかけ):01/12/09 17:26 ID:x9Bnjh4y

由綺「わぁー! ディズニーランドだ。あっ、冬弥君ミッキーがいるよ。一緒に写真とろう」
冬弥「おい、そんなにあわてるな、ミッキーは逃げないから。ほら、変装用の帽子が飛ぶぞ」
由綺「えへへ、ミッキーだ」
俺の制止を全く無視して、由綺は子供のようにねずみの人形に抱きつく。
由綺「ほら、弥生さんもおいでよ。ふかふかだよ」
弥生「わかりました」
由綺の掛け声でスーツ姿の弥生さんが歩き出す。
なんというか、場違いというか・・・弥生さんらしいというか・・・
由綺「ほら、冬弥君も!」
冬弥「由綺・・・はじめから飛ばすと後がもたないぞ」
由綺「だって、久しぶりのお休みなんだもん。今日はいっぱい遊ぶって決めたんだ。早く、写真とろ!」
冬弥「わかったよ、そう急くな」
カシャ・・・
そして、シャッターとともに俺達の一日がはじまる。
445弥生さん支援(死にかけ):01/12/09 17:27 ID:x9Bnjh4y

ゴォォォォォォーーーー・・・
由綺「えいっ、えいっ、えいっ!」
冬弥「ゆ、由綺。も、もう止めろ・・・目が回る・・・」
弥生「・・・・・・・・・」
由綺「あはははは、冬弥君楽しいね、えいっ、えいっ!」
周りの景色がまるで早送りされたように線を引いている。
由綺はえらくコーヒーカップが気に入ったらしく、開始から今に至るまで全力で真ん中のテーブルを回し続けている。
回転系が全然ダメな俺は、最初は由綺と反対側に回そうとしたが、すぐに三半規管をやられて早々にノックダウンしてしまった。
目の前にいる弥生さんはケロッとした顔で、平然と缶コーヒに口をつけている。
由綺「あははは、あははははは、弥生さん楽しいね」
弥生「そうですね、これは回転に対する耐性をつけるには非常に効果的だと思います、由綺さんもっと回してみては?」
由綺「うん、弥生さんも。一緒に回そ!」
弥生「・・・わかりました」
そう呟いて飲み干した缶コーヒを、外に設置されたゴミ箱に放り投げる。
それは3Pシュートが決まるような高い打点を描いて綺麗に決まった。
この人は本当に人間なのだろうか?
そして、さらに回転数が増した・・・
446弥生さん支援(死にかけ):01/12/09 17:28 ID:x9Bnjh4y

由綺「あー面白かった。あっ、冬弥君チェロスがあるよ。買ってきていい?」
冬弥「ああ・・・転ばないよう気をつけろよ」
うん、と由綺は手を振って、ぱたぱたと露店へ走っていった。
冬弥「あんなに回したのに、どうしたらあんなに走れるんだよ・・・」
弥生「それは、由綺さんがクラシックバレエをやっているからですわ。バレエにはビルエットが多いですから」
冬弥「ビルエット?」
弥生「回転のことです。藤井さんのおやりになって見たらどうですか?」
冬弥「俺が・・・バレエを?」
弥生「はい、そうすれば由綺さんの努力をより肌で感じられると思います」
冬弥「・・・・・・・・・」
冬弥「あの・・・弥生さんもバレエをやっているんですか?」
弥生「はい、ここ最近はじめたばかりですが」
冬弥「そうですか・・・」
と、そこにチェロスを四本抱えた由綺がやって来た。
由綺「冬弥君、弥生さん。お待たせ、はいこれ」
そう言って、俺と弥生さんに棒状のお菓子を手渡す。
冬弥「サンキュウ。あれ、どうして一本多いの?」
由綺「えへへへ、お店のおじさんに『譲ちゃん、森川由綺によく似てるね。俺は彼女のファンなんだ』っておまけしてもらっちゃった」
冬弥「へぇ、よかったな」
由綺「うん、じゃあこれ三分の一づつに切って・・・」
冬弥(そうだ、由綺はアイドルなんだ・・・)
そんな単純なことが今更のように俺に重くのしかかる。
こんなに近くにいるのに遠い由綺。
俺が由綺にできること・・・それは・・・
447弥生さん支援(死にかけ):01/12/09 17:29 ID:x9Bnjh4y

それから、俺達三人は一般的に知られているアトラクションをまわって楽しい時を過ごした。
ちなみに大きな滝から落ちるジェットコースターの写真でも弥生さんは無表情だった。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、外にはすでに夜の帳が落ちて根雪の残る地面を常夜灯が青白く照らしている。
由綺「あ、この帽子。かわいい」
キャラクターグッズの店で、黄色い声を上げ由綺がねずみの耳が付いた帽子を被る。
由綺「えへへ・・・どう?」
弥生「由綺さん、よくお似合いですわ」
由綺「ホント、じゃあ弥生さんはこれをつけてみて」
笑顔を浮かべて、由綺はこれまたねずみの耳が着いたカチューシャを手渡す。
冬弥(おいおいおい・・・)
弥生「・・・・・・・・・」
しかし、弥生さんは躊躇いもせずそれを頭につけた。
弥生「どうでしょうか?」
由綺「わあ、弥生さん似合ってる。うん、かわいいよ」
弥生「ありがとうございます」
スーツ姿にねずみの耳を付けた弥生さん。元がいいから不思議と違和感がなかった。
いや、普段とのギャップでむしろかわいいぐらいだ。
由綺「そして、冬弥君もこれ」
冬弥「へ、俺もつけるの? 俺は男だぞ」
由綺「うん、冬弥君も絶対似合うと思うよ。ほら」
由綺に押し切られ、言われるままねずみのカチューシャをつける。
由綺「あはは、冬弥君。ミッキーだ。うん、似合ってるよ」
冬弥「ホントか? 周りの視線が痛いんだけど」
由綺「あっ、パレードがはじまるよ。冬弥君、弥生さん。早く早く!」
耳をつけたまま問答無用に俺の袖を引く由綺。
視界の端の方で、一万円札を店員に手渡すねずみの弥生さんが見えた。
448弥生さん支援(死にかけ):01/12/09 17:29 ID:x9Bnjh4y

ティンティカティンカティンティカティカティカ・・・
外に出ると人で作られた道を、光を身に纏ったディズニーキャラクターがけたたましい電子音と共にゆっくりと行進している。
光と音と闇が作りだす、エレクトリックパレードだ。
由綺「わぁ・・・」
俺と弥生さんの間にいる由綺は、人垣の最前列で無垢な目をキラキラさせて見入っていた。
冬弥(ホント由綺ってこういうとこ変わらないよな)
皮肉ではなく本心からそう思った。
なんていうんだろう、由綺は大人になるにつれて俺たちが失ってしまう大切な何かを持っているような気がする。
原石の輝きを決して失わず磨かれ、さらに光を放つというか・・・
それが由綺の魅力の根源なのかもしれない。
そう・・・このパレードのように人は光に導かれ、集まるものなんだ。
そしてその由綺を繊細に磨き続けてきたのは・・・
弥生「何か?」
俺の視線に気づいたらしく、弥生さんが横目で尋ねる。
冬弥「いえ。弥生さん、それよく似合ってますよ」
弥生「どうもありがとうございます。藤井さんもよくお似合いですわ」
由綺と弥生さんの耳が風にふわりとなびく。
449弥生さん支援(死にかけ):01/12/09 17:30 ID:x9Bnjh4y

きゅ・・・
冬弥「ん?」
誰かが、ふいに俺の左手を掴んだ。
冬弥「由綺・・・どうしたの?」
弥生「・・・・・・・・・」
みると、弥生さんも由綺にやさしい眼差しを向けている。
きっと弥生さんも同じように手を握られているのであろう。
由綺「・・・・・・・・・」
間にいる由綺は、俺達の存在を確かめるように再びきゅっと強く手を握った。
見るとパレードを見つめる由綺の目は滲み、白い頬を伝う涙がキラキラと輝いている。
冬弥「ゆ、由綺!?」
由綺「ふぇ? あ、あれ、どうしちゃったのかな私。どうして泣いているんだろう?」
手を振りほどいて、両目をコシコシとこする。
由綺「私の側には冬弥君とか弥生さんがいて。音楽祭にも出れて」
由綺「こうして三人で遊んで、なんか今、私幸せだなぁ・・・って思ったら急に目が・・・」
450弥生さん支援(死にかけ):01/12/09 17:31 ID:x9Bnjh4y

冬弥「・・・・・・・・・」
弥生「・・・・・・・・・」
きゅ・・・
俺はやさしく由綺の手を握り締める。きっと反対側で弥生さんも同じことをしただろう。
今にも折れそうなくらい小さい由綺の手。それを包む俺と弥生さんの大きな手。
そう、俺が由綺にできること・・・それは・・・
冬弥「弥生さん・・・」
弥生「何か?」
冬弥「俺もバレエを習いたいんですけど、ダメでしょうか?」
弥生「・・・・・・・・・」
弥生「・・・殊勝な心がけだと思います。では、来週そのように手配しておきますわ」
由綺「え、冬弥君も踊るの?」
冬弥「うん、ダメかい?」
由綺「ううん、そんなことないよ。でも、大学とAD掛け持ちして大丈夫?」
冬弥「うん、大丈夫、心配するな由綺に比べたら屁でもないさ。ほら、大好きなミッキーが通るぞ」
由綺「あっ、ミッキー!!!」