弥生さん@篠塚

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270名無しさんだよもん

The smile of machine

カラーンカラーーーン
彰「冬弥、由綺。おめでとう」
美咲「藤井君、由綺ちゃん。幸せにね」
はるか「ん」
 マナ「藤井さん、お姉ちゃんを泣かせるようなことしたら、脛だけじゃなく、あばらも五、六本もっていくわよ」
舞い散る花びらと、人々の拍手。
その中央でタキシード姿の冬弥が純白のドレスを身に纏った由綺の肩を抱き手を振っていた。
由綺は冬弥の隣で、白い手袋を濡らして
由綺「うん・・・みんなありがとう。うん・・・私幸せに・・・うん・・・」
冬弥「ばか、元アイドルが泣くなよ、こういうときは笑顔だろ。ほら、ハンカチ」
由綺「だって、だって・・・」
冬弥「仕方ないな、拭いてやるよ。ほら由綺、こっち向いて」
由綺の目元をそっと、やさしくなでる冬弥。白いハンカチが由綺の涙を吸い込みうっすらと模様を描いた。
マナ「あーーーーーーっ! 藤井さんセクハラ!!! ちょっとそこに立ってなさい」
マナは腕ではなく、足を巻くってずかずかとバージンロードを駆け上る。
由綺「ちょ、ちょっと、マナちゃん・・・」
271名無しさんだよもん:01/12/05 12:31 ID:BpOaGlQh

ドカッ!!
冬弥「痛ったーーーーーーーーーーーっ!!」
由綺「と、冬弥君、大丈夫?」
マナ「お姉ちゃんを泣かしたら、蹴るっていったでしょ」
冬弥「マ、マナちゃん。なにもこんなとこまできて蹴らなくても・・・」
マナ「だから、藤井さんはダメなのよ。ほら、こういうときは新郎のキスで花嫁を慰めるの! いい、わかった」
そう仏頂面を浮かべて、綺麗なツインテールを踊らせながらマナは人垣に消えていった。
冬弥、由綺「マナちゃん・・・」
すると、冬弥はおもむろに由綺の瞳をまっすぐ見つめて
冬弥「由綺・・・」
由綺「冬弥君・・・」
冬弥「俺は由綺のことずっと守るよ。由綺が泣きそうになったら電話してくれ。仕事なんか捨ててこうして慰めてあげるから・・・」
由綺「うん・・・冬弥君・・・。うんぅ」
272名無しさんだよもん:01/12/05 12:32 ID:BpOaGlQh

ワァァァァァ―――――――――――!!!
ひと際大きな歓声が教会を包む中、一台の黒いBMWが低い唸りをあげて止まった。
英二「おっ、やってる、やってる」
理奈「ホント、あの二人結婚したのね。由綺・・・あなた今までで一番輝いてるわよ。幸せにね」
弥生「・・・・・・・・・」
英二「あれ、弥生さん見ないの? 由綺ちゃん綺麗だよ」
助手席から出た英二は、無機質にハンドルを握る弥生に運転席の窓から呼びかける。
弥生「時間が押してますので。このままですとスタジオに30分前には間に合いません」
英二「なに、固いこと言っているの。・・・・・・おっと、手が滑った」
ドアが開け放たれるのと同時に、車内に溢れる拍手と純白のウェディングドレスに身を包んだ由綺の姿。
弥生「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
彼女は、あの独特の直線的な動作で振り返る。
273名無しさんだよもん:01/12/05 12:33 ID:BpOaGlQh

理奈「(兄さんはやり方が露骨過ぎるのよ。弥生さん、怒ってるじゃないの)」
英二「(いいんだよ、子供は黙ってなさいって)」
弥生「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
感情の篭らない手で運転席のドアを閉め、弥生は車を隔てて由綺を望む。
人形のように見つめる弥生の瞳には温度がない。とても清潔な沈黙が冷たい冬の風に溶け込む。
弥生はすっと目を閉じると、英二と理奈の二人を抑揚のない事務的な声で呼んだ。
弥生「では時間です。参りましょう」
と、そこに
由綺「弥生さん!!!」
笑みを満面に湛えた由綺が白い息を切らせ、バージンロードを一直線に駆けてきた。
弥生はその姿を捕えると、いつもと同じ機械的な動作でBMWの外へと身を踊らせ、静かに英二の隣へ立った。
274名無しさんだよもん:01/12/05 12:34 ID:BpOaGlQh

そして・・・
ぼふっ!
由綺「弥生さん!!」
弥生「由綺さん・・・」
子供のように飛びつく由綺。
由綺「弥生さん、来てくれたんだ。ありがとう。英二さんも理奈ちゃんも、忙しいのにみんな・・・みんなありがとう」
言葉を詰まらせ、由綺はまた涙目になってベールを縦に揺らす。
理奈「由綺おめでとう。結局、高校時代の彼と結ばれたのね。由綺・・・幸せにね、応援してるわよ」
由綺「うん、理奈ちゃんも音楽祭また最優秀賞だったね。おめでとう」
理奈「ううん、あれは兄さんや弥生さんが側にいてくれたからよ」
弥生「そんなことはありませんわ。私達はあくまでサポートであって、あれは理奈さん本来の力です」
すると、弥生は由綺の肩にそっと手を乗せて
弥生「もちろん由綺さんもあのまま続けていれば可能性はありました」
由綺「弥生さん・・・」
弥生「しかしそれはもうすでに過去の話です。由綺さんは自分で選んだ道を進んで、幸せになってください」
由綺「はい・・・」
由綺「弥生さん・・・、はいっ・・・・・・」
275名無しさんだよもん:01/12/05 12:35 ID:BpOaGlQh

「おっと、由綺ちゃん。花嫁がこんなところでボイコットしてていいのかな? 青年、困ってるぞ」
由綺「あっ、いけない。弥生さん来てっ」
問答無用に弥生の手を引き、由綺は再びバージンロードを駆け戻る。
そんな由綺と弥生を見て英二はくっくっくっと苦笑し理奈を見た。
英二「弥生さんを引き回すなんて、由綺ちゃんにしかできない芸当だな。理奈、お前できるか?」
理奈「無理よ。だってそんなことしたら、ナイフでトスってやられそうだもの」
英二「はっはっは、理奈も言うね。うん、ホント由綺ちゃんにしかできないね。俺、今から奪っちゃおうかな」
理奈「奪うって、兄さんが由綺を!?」
英二「うん、だめかい? よくある話だと思うけど」
理奈「はぁ、兄さんそれはドラマでの話でしょ。バカ言ってないで、ほら私達もいくわよ。由綺がブーケを投げるとこだわ」
276名無しさんだよもん:01/12/05 12:35 ID:BpOaGlQh

由綺を中心にして扇状に広がる人の壁。
そこから少し離れた場所で長い黒髪をなびかせ、弥生は案山子のようにじっと立ち尽くし花嫁を見つめていた。
英二「ふられちゃったな」
後ろから彼女の肩をポンっと軽く叩き、英二はそう小さく呟いた。
弥生「・・・・・・・・・」
しかし弥生は振り返ることなく、そっと瞳を閉じる。
弥生「そうですね・・・」
その瞬間、強い風が吹いた。
白い吐息が根雪と共に風に舞い上がる。
英二「ひとつだけ聞かせてくれ、由綺が歌をやめると告白したとき引き止めなかったのはどうしてだい?」
弥生の横でタバコに灯を点ける英二。弥生は由綺をまっすぐ見つめ、白い息を紡ぐ。
弥生「愚問ですね・・・」
弥生「それなら、どうして緒方さんも由綺さんを引き止めなかったのですか?」
英二「・・・・・・・・・・・・」
英二「・・・そうだな。愚問だったな」
フィルターを深く吸い込むと、英二はタバコを投げ捨て、靴底で灯を消しながら人垣の中にいる理奈を呼んだ。
英二「おい、理奈! もう行くぞ、早く来い!!」
理奈「待って兄さん、今、花が投げられるとこなの」
277名無しさんだよもん:01/12/05 12:37 ID:BpOaGlQh

キャアアアァァァァァァ――――――――――!!!
人々の歓声に乗って投げ放たれるブーケ。
白い、純白の花弁を舞い散らせながら、花束は中空を泳ぐ。
そして、それは鴉羽色の黒髪をなびかせる女性に手渡った。
幸せそうに手を振る雪のように白い花嫁。
花の中で、じっと花嫁を見つめる彼女の顔は・・・
確かに、笑顔だった。



                                   (おわる)