MOON.総合スレ

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77名無しさんだよもん
THE WARMTH OF HUMAN II
『MOON.』オリジナルストーリー

イラスト:樋上いたる
文:麻枝 准


平穏な日々が好きだった。

森を駆け抜け、風になるのが好きだった。

あきれかえるほどの退屈が好きだったのです。


(おい、なにをぼぉーっとしてるんだ)
(あ…いや、すまない)
(風が…変わっている。気付いているな)
(ああ、もうあの場所に戻るわけにはいかない、急ごう…)
(まったくイヤな奴らを味方につけたもんだ、あいつは)
(そうか…?)
(違うのか)
(いや、そうだな…)

眼下には、まだ無邪気に駆けまわる子供と、そしてそれを追いかける母親の姿があった。
ずっと、眺めていたのはそれだ。
こんなところで、人の姿を見かけるとは、よほど浅い場所まで出てきてしまったのだろう。
もう無駄なことはわかっていたし、森を離れてオレたちが生きてゆけるとも思えなかった。
案の定、重力を失った先に訪れたのは漆黒の闇だった。
78名無しさんだよもん:01/10/16 17:21 ID:1wtd/svz
「わっ…うごいてる…」
…ぐ……んぐ…
「いきもの…なの…?」
…にんげん…か……殺すぞ…
「どっかいたいの…?」
はなれろ…
「落ちたの…上から…?」
やめろ…触るな…
「ほら、こうしておけば大丈夫だよ」
おまえたちのせいで…おまえたちのせいで…
「ほら、うごける。ね」
え…?
「今日はもうじかんないけど…またくるからね」
………。
「あたしも、この森が大好きだから」
………。
……。
…。
79名無しさんだよもん:01/10/16 17:21 ID:1wtd/svz
遠い、遠い昔話だ。
あれから…二度と陽の光を見ることなどなかった。
最後に出会ったのが、人の家族とは皮肉なものだ。
人の家族…忌むべき象徴だ。
しかし彼女を初めて見たとき覚えた既視感とはあまりに馬鹿げたものだった。
あまりの時の長さに精神が麻痺してしまったのだろうか。
それともこの皮膚のせいか。
ほんとうに馬鹿げている…。
いつものように利用するだけだ。
永遠とも思われる、謀りごとに。

「ねぇ、ここがわたしの部屋だって、聞いたんだけど…」
そう新しい犠牲者が言った。

平穏な日々が好きだった。
森を駆け抜け、風になるのが好きだった。
あきれかえるほどの退屈が好きだった。
そして、人の感じることのできる、温もりを知ってみたかったのです。