SS統合スレ#6

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178『月灯り』
『月灯り』

 灰色のカーテンから光が漏れている。
 それともこれは、透過光なのかもしれない。この微妙さ、曖昧さが心地よく。
 透明でない布を通して透明な光が差し込む。しかし光はその透明さを失うことなく、僕の左頬を緩やかに暖めていた。

 季節は夏。夜は昼から遠く、月の光は未だ日の光に隠されている。
 でも、それでも僕は月を見ることができる。
 その真昼の空の頼りない月。光るでも輝くでもない、ただの白。

 その白の光は、本当に幽かだが、この左頬にも差し込んでいるはずだ。
 確か今日は、そういう月齢。

 あまりに静かな図書室の中、ページを繰る時のそのささやかな音だけが脳髄にリアルを叩き込む。
 ともすれば文字の世界に没入しそうな中、その刺激と、僕には少々難しいその本の内容のおかげで、なんとかぼくは踏みとどまっている……のだろうか。
 本当は僕はどこにいたっていい。
 たった一つの、今もそこにある奇跡が、それからもずっとありつづけるのならば。
 だから僕は、できることならば、彼らのいる彼岸に――

 ガラス戸が、きぃと開いた。
179『月灯り』:01/10/28 02:04 ID:5Fkpba1t
「……瑠璃子さん」
「勉強家だね、長瀬ちゃん」
 いきなり肩に抱きつかれて狼狽する僕の真後ろで、瑠璃子さんはくすくすと、いつものように笑っていた。
 でも僕は、まるでいたずらっ子のようだと思った。
「何の本、読んでるのかな」
「え、あ、ちょっと」
 ひょこっと右肩から顔を前に動かす瑠璃子さん。
 つられて瑠璃子さんの顎とか頬とかが僕に当たるので、動悸がさらに激しくなっていく。
 その上髪とか吐息とかがじかに当たってくる距離だったりするワケで、僕はその、なんというか――
 辛抱たまらなくなった、とか言うべきなのか。
 そんな僕の内面の葛藤をよそに、瑠璃子さんはさっきの悪戯っぽい微笑みのままで、手元の文庫本を見ていた。
「瑠璃子さん、その、あの……」
 ついでにいうと、瑠璃子さんがだらしなく体を僕の背中に預けているおかげで、その、瑠璃子さんの暖かさだとか柔らかさだとかその内に秘めた弾力とかで、僕はもう正常な判断は出来なくなっていた。

 ――ほんとうは、こんなことしているところはみられたくなかったのに。
180『月灯り』:01/10/28 02:05 ID:5Fkpba1t
 案の定、月が雲の陰に隠れるように、笑顔が自然に消えた。
 なぜなら、僕が読んでいた本は。
「精神分析学入門」
 せいしんぶんせきがくにゅうもん、と、一字一句を区切るように瑠璃子さんは言った。
 僕は、いまさらに、裁きを待つ咎人のような、そんな心境になっていた。
 誰も、僕を責めているわけでもないけど、なぜか、そんな気分。
「理由を」
「え」
「理由を教えてくれるかな。長瀬ちゃん」
 すっ、と、ぬくもりが背中から離れる。
 振り返ることも出来ぬまま、僕はただ、コタえた。
「夢のことを知ろうと思ったんだ」
「……」
「そのためにいろいろ、本を当たってみたら、偶然目次にそれらしいことがあってさ」
「どうして夢のことを?」
「それは……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
 長い沈黙の末、答える。
181『月灯り』:01/10/28 02:05 ID:5Fkpba1t
「月島先輩や、みんながいる場所だから、だよ」
「……そうなの」
 その返答に、わずかだが悲しみが混ざりこんだ。
 純粋無垢な透明に僕の余計な汚濁が混ざりこんでしまった。そのことに僕は後悔した。
「長瀬ちゃん」
「……」
「こっちを向いて」
「……」
「向いて?」
「――うん」
 哀願するその声に、逆らえるはずもなかった。
 と。

 笑う、瑠璃子さん。

「長瀬ちゃん、星を見に行こうか」
「星を?」
「そう。もう日の沈む時間だから」
 気が付くと、誰もいない図書室は、僕たち二人を残して、眠りの為の夜に向けて動き始めていた。
「この時間帯なら、きっと一番星も見えるよ」
 まるで夢のような雰囲気の中で瑠璃子さんが言う。
「ね?」
 首を傾げて誘い込む瑠璃子さんに、やっぱり逆らえるはずもなかった。
182『月灯り』:01/10/28 02:05 ID:5Fkpba1t
 屋上の重い扉を開くと、いつか見た溶鉱炉の紅が目を刺した。
 手をかざしている所をすっと瑠璃子さんが横から抜けていくので、デ・ジャヴはより激しいものとなった。
 脳を刺激する既視概念。その向こうに、夢とも現とも判らない瑠璃子さんがいた。
 瑠璃子さんがすう、と両手を空に掲げる。途端、あたりの電波の濃度が比べ物にならないほど高まっていった。
 僕のものとも、月島さんのものとも、根本から異なっているその波動は、静かに蒼色で心を満たしていく。
 目を刺す紅。
 染み渡る蒼。
 風は髪を揺らす。
 空には一番星。
 両手を上げたままの瑠璃子さん。
 僕は瑠璃子さんを後ろから抱いた。
 綺麗な青い髪が溶鉱炉の中で輝いていた。
183『月灯り』:01/10/28 02:06 ID:5Fkpba1t
「ん……長瀬ちゃん…………」
 呟くその唇を僕のそれで塞ぐ。
 横を向く姿勢だった瑠璃子さんが少しでも楽になるように、抱きしめる方向を変える。
 お互い正面を向いたままの、暖かいキス。
 腕の中で少し身じろぐ瑠璃子さんがいとおしい。
「ふ、はっ……」
「はあ……はぁ………ぁ……長瀬、ちゃん――」
 目と唇を半開きにして恍惚の表情で僕の目を見つめてくる瑠璃子さんを、もう一度だけ強く抱きしめる。
 瑠璃子さんの体から強張りが消えたのを確認してから、アスファルトの屋上に横たえ、制服の赤いスカーフを外した。
 その間、瑠璃子さんも僕の制服のボタンをぷちぷちと外していく。
 それはなんとなく気恥ずかしい行為だったけど、それでもお互いに止めることはなかった。
 下着姿になった瑠璃子さんは、もう何度もこの目にしたというのに、その美しさに飽きるということはなかった。
 その柔らかい乳房も、丸みを帯びたその腰も、肩も、お尻も、髪も、肌も、眼も、鼻も、口も、爪も、何もかもが、ただ愛しい。
 ブラジャーの中央から手を差し入れて、ゆっくりと右にずらしていく。
 掌が瑠璃子さんの乳房の上を這わせていると、すぐに突起の感触。
「あ……」
 人差し指と中指で挟み込むように刺激を与えると、瑠璃子さんの体が少し震えるのが分かった。
「はあっ……うぅ」
 そのまま刺激を与えつづける。手のひらの中で突起が勃起しつつあるのが分かった。
 ブラジャーをはいで、左の乳房にも舌で刺激を与える。
 ささやかなピンク色の乳輪の周りから、次第に中央へと、じらすように寄せていく。
184『月灯り』:01/10/28 02:06 ID:5Fkpba1t
「ひゃっ! な、長瀬ちゃぁん……」
 赤いその器官が瑠璃子さんの乳頭に当たると、それだけで瑠璃子さんは甘い声を漏らしていた。
「んっ! あ、あぁ……」
 知ってか知らずか、瑠璃子さんは、まるで更なる快楽を求めるように僕の頭を抱いていた。
 しばし、この行為に没頭した。
 瑠璃子さんの甘い息が少しずつ規則的になった頃を見計らって、右手を瑠璃子さんの腹部へと動かしていく。
 お臍の周りをしばらく愛撫してから、なるべく不意をつくように、指先を白いショーツの中に滑り込ませる。
「ん、長瀬ちゃん、そこは……」
 まだ胸への愛撫に未練があるのか、瑠璃子さんは惜しむような声を上げた。
 そんな声を無視して、さらに指を奥へと忍び込ませる。
 中指と薬指が、瑠璃子さんの愛液に触れた。
「瑠璃子さん、濡れてるよ……」
「いや……、長瀬ちゃん、いわな……あっ!」
 中指を、くんっと曲げて、瑠璃子さんの敏感な部分を刺激する。
 包皮をめくり、くっくっとノックするように触る。たったこれだけで、その数倍の振動が瑠璃子さんの体を駆け抜けていった。
 その間も胸への愛撫は忘れない。上下同時の攻めに、瑠璃子さんの呼吸がどんどん乱れていく。
 と、背中を、かり、と瑠璃子さんの指が引っ掻いた。
 かり、かり、かりと難解も繰り返すそれは、僕のシャツの裾を抓もうとしているらしかった。
「どうしたの……瑠璃子さん」
「ね、長瀬ちゃんも、脱いで。気持ちよくして……あげるから」
 ……その言葉に、頭の中のスイッチが切り替わった気がした。
185『月灯り』:01/10/28 02:07 ID:5Fkpba1t
 僕はシャツを脱ぎ捨てる。と同時に、瑠璃子さんの指が脊髄をついっとなぞった。
 眩暈の如き悦楽。
 この瞬間、二人の間での攻防関係は、一瞬にして入れ替わってしまった。
 瑠璃子さんの体が僕の下から持ち上がり、自然、座ったまま対面するような形になった。
「ね、ほら、全部脱いで」
 性器から愛液を溢れ出させたまま、瑠璃子さんは僕に『命令』した。
 脳髄を心地よく引っ掻く電波の感触。僕の知らないところで腕が動き、ベルトのバックルを外させた。
「る、瑠璃子さんん……ああ」
 僕の哀願するような目を前にしても、やっぱりいたずらっ子のような瞳で笑う瑠璃子さん。
 すこし腰が浮いて、黒い制服のズボンが足の先から抜けていった。
 次はトランクスを脱がされるのかと思ったが、瑠璃子さんは僕を半裸にしたまま、ゆっくりと四つんばいでこちらに歩いてきた。
 後ろ手についた姿勢の僕の上を、瑠璃子さんが這い上がってくる。
 脛、膝、内股、腹、肩と、瑠璃子さんの手がゆっくりと上がる。
 そして、瑠璃子さんの右手が頭の後ろに回され、もう一度二人はキスをした。
 触れ合った唇を離さないまま、トランクスに手を掛ける瑠璃子さん。
 ああ、どうにかなってしまいそうだ、と思った。
 触れ合った体中のありとあらゆる場所から、瑠璃子さんの電波が流れ込んでくる。それが血管の流れの中で僕の劣情とない交ぜになり、脳といい心臓といいペニスといい何もかもを愛欲の血液で満たしていく。
 激しく、心地よく、刺激的で、安らか。
 頭が酸欠やら何やらでくらくらし始めた頃、瑠璃子さんの唇は僕の唇から僅かに離れ、そのまま下へと動いていく。
 瑠璃子さんは既に期待に濡れたペニスにそっと口付けをすると、僕の脳髄を犯したその唇で性器を犯し始めた。
186『月灯り』:01/10/28 02:07 ID:5Fkpba1t
「く……あっ、る、る、り、りり、こさささ、ん」
 ここにきてついに僕はイカれてしまった。
 体中に染み込んできた電波が、まるでペニスに一極集中していくような、そんな恐ろしい程の快感。
 意識ははっきりとしているのに、もう脳髄のほうが役立たずになったようだ。
 ただ僕の口はうめく事にしか役立たない。
 ただ僕の体は快感を得ることにしか役立たない。
 ただ僕の脳髄は劣情のためにしか役立たない。
 瑠璃子さんの唇が、つ、と陰茎を弄る。まるで止む事を知らないような先走りが、瑠璃子さん自らの唾液とともに、頬を濡らしている。
 ちゅ……ちゃぷっ……ぬ、ぬ……ぷちゃっ。
 陰茎から亀頭へ下が這い上がると、追い討ちのように瑠璃子さんの口がペニス全体を包み込む。
 口腔で舌が動き回り、竿に纏わりついては離れ、亀頭を舐め上げては吸い込んだ。
 その動きに耐え切れずに絶頂を迎えようとした寸前、それを感じ取ったかのように瑠璃子さんは唇を離した。
 瑠璃子さんは涎でぐちゃぐちゃになったその顔を僕に向ける。
「もう……、いいよ。長瀬ちゃん」
 そういうと同時に、僕の体を戒めていた電波の力が、少しだけ弱くなった。
「長瀬ちゃんの電波も、感じさせて」
 言われるまでもなく、僕は瑠璃子さんを押し倒した。
 痛いほど怒張したペニスを瑠璃子さんのヴァギナにあてがい、責められている最中ずっと練りこんでいた特上の電波とともに、一気に突き入れた。
187『月灯り』:01/10/28 02:07 ID:5Fkpba1t
「ああぁっ! う、わ、ああぁぁぁ……」
 わずか一突きで瑠璃子さんは絶頂に達してしまったらしく、僕の体の下で何度も何度も体を震わせた。
「やだ、ちょっと、すご……い」
 二度目の絶頂。一度目とは、ほとんど間隔がない。
「な、ながせちゃん、電波、強すぎるよっ……あ、ふああああああっ!」
「……る瑠璃子さん、気持ちいい?」
「よすぎて、頭の中が長瀬ちゃんで一杯で……うあ、ま、また……」
「僕も気持ちいいよ、瑠璃子さん……ああ、本当に、狂ってしまいそうだ――」
 瑠璃子さんの言う通り、僕は電波を使っている。
 それも、ただの使い方ではない。
 僕が瑠璃子さんから与えられる快感を、そのまま電波の波動に乗せて送り返す。
 その波動も、また、瑠璃子さんの電波に乗せられる――。
 言わば、快感と狂気の倍々ゲームだ。
「ながせちゃぁん、な、がせ、あ、あううぅぅ……」
 ヴァギナを犯す律動のスピードが速くなる。愛液がクレバスから溢れ出し、後肛だけではなく屋上のアスファルトにまで広がっている。
 ぐちゅっ、ぐちゅっと、突き入れるたびに卑猥な音が二人の結合点から漏れる。
 瑠璃子さんはまるでこの快楽から逃れるかのように目をぎゅっと閉じ、頭を左右に振っている。しかし、ボクのペニスを飲み込んだヴァギナも腰も、まるでそれとは正反対に淫乱に蠢いて、僕に快感を与える。
 このアンバランスさが、あまりに刺激的で、僕の体は急速に絶頂を迎えていく……。
188『月灯り』:01/10/28 02:08 ID:5Fkpba1t
「る、瑠璃子さん、僕、僕もう……ッ!」
「長瀬ちゃん……、中で、中で出して……」
 目は虚ろに開き、だらしなく舌を口からはみ出させたまま、涎にまみれた顔で哀願する瑠璃子さん。
 また、首の後ろに腕が回され、強く強く抱きしめられた。
「一緒に……一緒に、ね?」
 その甘い一言で、僕の脳髄は完全にショートした。
「う……あ……る、瑠璃子さんっ!」
 ドクッ!
 瑠璃子さんの膣内で、僕自身は弾けた。
 白濁液を瑠璃子さんのお腹の奥にしぶかせる。
「ふあ、あ、あああああぁぁぁぁぁぁ……」
 瑠璃子さんもまた、これまでにないほど激しい絶頂を迎えた。
 更なる精を求めるかのような蠕動に、僕はしばらく瑠璃子さんの中にいたまま、肩で息をする瑠璃子さんと抱き合っていた――。
189『月灯り』:01/10/28 02:08 ID:5Fkpba1t
「星が、綺麗だね」
 僕と背中合わせに座ったまま夜空を見上げている瑠璃子さんに、そう話し掛ける。
 月はもう地平線の彼方に沈み、星だけが空を彩る夜。
 少し視線を下げれば、暗闇の彼方に街の明かりが見える。
 それもまた、星ほど美しいとはいえないけど、それでも生命力のようなもので溢れているので、決して夜空の輝きにも劣ってはいなかった。
「そうだね、長瀬ちゃん」
 幽かな声で答える瑠璃子さん。
 その声は本当に幽かで、まるで夜空の中に消えていくように思えた。
 けど、彼女は僕の後ろにいる。声を出すときに背中が震えるのも分かる。
 だから、彼女はそこにいる。安心感のような、安らぎ。
 すっ、と、瑠璃子さんの体が傾いて、僕の肩の上に後頭部を預けてきた。
 その視線は、真上にある星を見ていた。
190『月灯り』:01/10/28 02:08 ID:5Fkpba1t
「本当に、綺麗」
「うん、本当に、綺麗だ」
 ――ああ。
 誰かと美しいものを共有することの、なんと甘美なことか。
「みんなにも、見せてあげたいね」
「……うん、そうだね」
 瑠璃子さんは、僕の気持ちをわかってくれていた。
 できることなら、みんなに、このことを教えてあげたい。
 そう、現実のいとおしさも知らずに、非現実へと去って行った、あの――。
「――瑠璃子さん?」
「……」
 瑠璃子さんは落ちるように眠りに入った。
 規則正しく、安らかな寝息を感じた。
「……寝ちゃったのか」
 僕は、瑠璃子さんの頭を膝枕して、その綺麗な髪を梳いた。
 さらさらと心地よい手触りに、僕はしばらくに間、飽きもせずに指を絡ませつづけていた。