秋子はやきもきしていた。夫・正一が深夜12時を回っても帰宅しない。
全く何をしているのかしら、と秋子は思った。夫・正一はどこぞの将軍様そっくりでは
あるが、かなり家庭を大切にする人なのは事実である。その夫が何も連絡を寄越さずに
帰宅が遅い・・・・
秋子「何があったのかしら・・・・まさか」
秋子の脳裏に不吉な影がよぎった瞬間、木場家の電話がなった。秋子は興奮を抑えつつ受話器を取る
秋子「もしもし」
電話は駅前の白木屋からだった。聞くところによると、夫・正一が泥酔し周りの人に迷惑をかけている。
引き取ってくれ、とのこと。秋子は急いで夫・正一を迎えに行く。
店長「全く困りますよ。もういい年でしょ」
秋子「すみませんすみません」平謝りする秋子
正一「うおおおお!!!うるさい反動勢力!謝罪しる!謝罪しる!」
夫・正一をなだめ車に乗せ、秋子は自宅に戻る。後部座席で正一はぐっすり眠り込んでいる。
そういえば明日は保さんとの食事の約束があったっけ、どうしよう。まだ夫に言ってないわ。
と秋子はハンドルを握りながらぼんやりと考えていた。
正一が白木屋で暴れた翌日の朝、木場家のチャイムが鳴った。
急いで秋子が玄関を開けると、見覚えのある顔がそこにはあった。
秋子「えっ、なんで英一さんが!」
夫・木場正一には二人の弟が居る。二浪して日大芸術の兄に似ず、上の弟
一平は京大に進み関西のある公立大学の法学部の教授、下の弟は英一は学芸大から・・・・
英一「ちょっと昨日兄さんに言ったら兄さんキレちゃって・・・・。秋子さんにもちょっと
覚悟して貰いたいことがありましてね」
英一は都の教員研修センターの副所長になっていた。50に届かない年齢でこの地位に
いるということは教育長も勤めた父のコネもあるだろうが、やはり有能なことをまず
表してると言っても過言ではないだろう。
秋子「あの・・・。ケガは・・・・」
英一の頭には包帯が巻かれている。
英一「ああ、昨日兄に殴られたんですよ。秋子さんは気にしないで下さい。
それよりもちょっと失礼しますね」
英一「実は・・・・・」
英一の話は差し迫っていた。夫・正一に研修に対する熱意が見られないこと、また
指導主事に反抗的な態度をとり続けること、全く生徒に対して愛情を持ってないこと、
更に気に入った女子生徒にきれいな服を買い与えたり、その生徒のケツをなで回したり、
「喜び組」と命名していたことなどが秋子に伝えられた。
秋子「・・・・・」
裏切られた気持ちでいっぱいだった。夫・正一はアフォで現実逃避サヨだけど、そういうことだけは
しない家族を大切にする人間だと信じていた・・・でも・・・実は・・・
英一「それでですね。来年の春までに自主退職か・・・もし自主退職しない場合
分限退職をね・・・教育委員会としては検討しているんですよ・・・・」
義理の弟から伝えられた職場である学校で女子生徒に暴虐を尽くす夫・正一の姿、
そして来年の春までに自主退職しない限り、事実上の解雇処分である分限免職の
処分が下されること。
秋子の脳はもう何がなんだか解らなかった。
正一「ううっ、二日酔いだ・・・。ん?お前は英一!」
英一「あ、あのさっき言ったことは宜しくお伝え下さい・・・じゃあもう私出勤なので」
そそくさと席を立つ英一。秋子は思いきってさっき英一から聞いたことを問いただしてみる。
・・・・・・・
夫・正一は認めなかった。何もかも。全て石原シンタロヲの組合潰しの陰謀だと夫・正一は
言い張った。でも、秋子はそれが全て嘘であると言うことを見抜いた。夫・正一は嘘をつくとき
目がキョロキョロ動くのだ。悲しかった。今まで「自分が支えてあげなきゃ」と思っていたまるっこい
夫が腐れ中年アニヲタビジュアルの将軍様に変わっていった。
正一「フーフーフー、そうだ。おい、秋子。電話を貸せ!」
正一はある所に電話をかけた。こういう時正一が電話をかける相手は決まっている。
大学教授の弟・一平のところだ。
しばらく正一と一平の間で熱いやりとりが続く。今まで無数に家族がタイーホされてきたが、
そんな時必ず一平の寄越した有能な弁護士が厳しい戦いを戦ってくれた。ただ、代償は
大きかった。家は夫の父親からの相続で、公務員という安定した職業についているのに
木場家の家計は火の車だった。全て弁護士への報酬のためだった。
正一「うおおおおおおおお!!!!!!!!」
夫・正一が叫んだ
ガチャン
夫・正一は叫んだ後電話を切った。
正一「全く一平も英一も兄貴のことをなんだと思ってるんだ!一平め。今度という
今度は弁護士をよこさないだとよ!」
秋子「えっ、また裁判を起こすつもりなの?」
正一「当たり前だろ!真実は法廷でしか明らかにはならん」
・・・・・・何も考えてない。この人は
コヴァ「うぽおおおお!!!ババア、学校に送ってくれや!」
マサヲ「うおおおお!!!うるさいから起きてしまったぞ。それはそうとして、
腹が減ったから飯作れババア!」
・・・・そして息子二人
もう、限界かも知れない。
その日の午後。荷物をまとめた秋子が一人、木場家を出ていった。
「もう、あなた達と一緒にいることに疲れました」と書き置きを残して
〜〜〜〜外伝・秋のソナタ 波瀾万丈編に続く