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タラリ:
伝聞証拠について(2)
通常の刑事裁判は犯行後それほど時を経ずに行われます。したがって事件の関
係者の生存も多く、記憶も薄れていません。また、疑わしきは被告人の有利に
するという司法の原則がありますから、有罪を立証する十分な証拠を提示しな
ければなりません。
歴史においては過去の事実の究明が課題であり、当事者も死亡し、資料も絶対
的に少ない、足りないことのが普通です。また、疑わしいことはなかったこと
とするのではなく、資料すべてから考えてもっともあり得る推定を歴史的事実
とします。裁判においては冤罪はあつてはなりません。
しかし、歴史においてはあくまで資料の範囲で合理的な推定を行うのであり、
裁判に較べると不完全な資料によって書かれるということは当然のことです。
ただし、新資料の発見によって歴史が書き直されるという可能性によって科学
的であろうとしていることは確かです。
したがって、伝聞資料だから採用しないという形式的な、硬直した態度がとら
れることはありません。伝聞資料も含めてすべての歴史資料は個々の資料の形
式、内容を精査され、信憑性と言及可能範囲を検証され、さらに同時代の資料
すべてから構成される全体像との整合性を検証されます。これが歴史学の常道
であり、歴史の方法のすべてです。