5 :
稗田礼二郎:
大学の法医学の授業で司法解剖を見学したことがある。私が見たのは刺殺された男
性と子供だった。
解剖は外傷部分だけではない。頭部に傷はなくても、頭蓋骨をノコギリで切り開い
て脳を取り出して観察する。臓器は摘出・検分された後、適当に山積みされていく
。「人間」という尊厳は全くない。
一番辛いのは死体・薬品の鼻をつく臭気で、横にいた大柄な男性は涙と鼻水を垂ら
しながら嘔吐していた。解剖の結末もひどく、山積みの臓器は元に戻らないため、
大体の位置に詰め込む。子供の脳は柔らかく、摘出すると元の位置には戻らないよ
うで、脳は腹部に、頭には別の臓器を詰めていた。縫合すれば外観からは分からな
い。監察医の数が足りないためと思われ、数をこなすためには仕方ないのだろう。
監察医は一番多い東京都でも50人、神奈川県には3人しかいない。一人もいない県
もある。そのため、一人当たりの数が増え、多い場合に年間600体を解剖する監察医もいる。