【新局長】名古屋市交通局Part15【あんた誰?】
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2008年(平成20年)6月23日(月曜日) 朝日新聞夕刊8面
「風に吹かれて」 〜ありがとう @〜 職場の不満残し息子は逝った
朝5時半ごろだった。長谷川博己(ひろみ)さん(64)は、愛知県春日井市の自宅車庫兼倉庫で車に乗ろうとして、ふと隣の車の運転席に次男の吉孝さんが座っているのに気づいた。
「こんな所で寝とったらいかんがや」。
声をかけようとして、ギクリとした。助手席に練炭入りの七輪があったからだ。
ドアの窓ガラスに近くにあったコンクリートブロックを何度も投げつけた。
母千恵子さん(60)の通報で救急車が駆けつけた。しかし、すでに手遅れだった。
06年11月14日、享年29。
吉孝さんが自ら命を絶った理由。夫婦には思い当たる節があった。
名古屋市営地下鉄の今池駅などで駅員を務め、この年には試験に合格して名城線の車掌になった。だが−。
「宿直の夜、精算用の小銭でピールを買った同僚に注意したら、逆に無理やり酒を飲まされ、『お前も同罪』と言われた」
「『駅に監査が入ったのはお前の密告だろう』とあらぬ疑いをかけられた」……。
千恵子さんは、吉孝さんがこんな職場への不満をこばすのを、何度も聞かされた。
「いじめられているんじゃないか」と心配した。
吉孝さんが自殺したのは、そんな時だった。
葬式用の写真を探しに吉孝さんの部屋に入った兄は、机のそばで7、8センチ四方の色紙を何枚も張り付けた画用紙を見つけた。色紙にはこうあった。
「毎日ハッピー ツイてるありがとう」
「仕事が楽しい ありがとう」
「すばらしい どうりょう 上司 ありがとう」
=つづく
(文・青減摩、画・板垣しゅん)