おい、おまいら!みんなで小説を作るぞ!!

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952政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/02/21(金) 21:04:45.73 ID:9YKpfUcQ
 真砂子が、足に銃弾をくらって必死に這って逃げるレジ打ちのパートのおばちゃんに至近距離からとどめを刺していると、パトカーの警官が二人店内に駆け込んできた。店の中は死体だらけで血の海だった。地獄のようだった。
 拳銃を構えた二人は、おそらく「動くな」とか「銃を捨てろ」とか叫んだに違いなかった。
 真砂子は拳銃で二人をあっと言う間に射殺、弾倉を換えた。二人の警官は二人とも眉間を撃ち抜かれていた。即死だった。
 彼女の拳銃の原型は1908年に旧ドイツ帝国が制式採用した自動拳銃だった。だが、このモデルは8インチの長い銃身と長射程用の照準器が付いていて、木製のストックをグリップ後部に装着するとまるで
カービン銃のように肩に構えて撃つことができた。本来はドイツ軍の砲兵がカービン銃の代用品として使えるように開発改造されたものである。真砂子はさらにこれに32連発円形弾倉を装着した。
 しかし、弾薬は節約するに越したことはない。真砂子は売り場から盗んだ包丁で拳銃の釣り縄を切って警官の死体からニューナンブ回転式拳銃を奪い、包丁もケースに入れてショルダーに入れた。
 そして、真砂子はゆっくりと店の前に出て行った。真砂子はストックを拳銃に装着しカービン体型にした。
 ピストルカービンと言うのは現代では滅びた銃の形だが、第一次世界大戦当時はかなりあった。

 パトカーは一台だけではなく、その時にはもう何台も来ていた。しかし警官隊は老婆が出てきた時も、一瞬ではこの派手な赤いワンピースにヒールの老婆が犯人かどうかは分からず、射撃を差し控えた。
 後で考えると、この瞬間がおそらく事件の早期解決のチャンスだったに違いないが真紗子はすっとスーパーの前の柱に隠れるようにした。スーパーの前も屋根があってそれを支えるコンクリートの柱があり、
特設市場が設けられたりするのだがこの時はなにもなかった。したがって隠れるものはこの柱しかなかった。
 しかし、真砂子の方も一瞬射撃を開始するのを待ち、警官隊を観察した。
953政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/02/21(金) 21:11:07.67 ID:9YKpfUcQ
 警官隊の不運な指揮官、太刀川警部は、スーパーに二人の警官が突入したこと、こちらはスーパーを包囲したこと、スーパー内に人質がいるかどうか、犯人が何人なのかは分からないと警察無線で県警本部に報告した。
彼はまじめな男であり、多分無駄な発砲を控えようとしていた。

 そして次の瞬間に彼は射殺された。立ち上がって大きな手ぶりを交えながら無線でしゃべっている彼は真砂子から見ても指揮官に見えたのである。
 数名が反射的に応射したが柱に当たっただけだった。その時点でスーパー内に人質がいるかどうかが分らないというのは警察にとっては弱点であり、副指揮官、小枝警部はすぐに射撃を止めさせた。
 だが、次の瞬間、真砂子は拳銃をニューナンブに換え連射を始めた。狙いはパトカーの車体だった。
 合計十発の銃弾の一発が、パトカーのどれかの燃料タンクを貫いた。真砂子は続いてルガーによる狙撃を開始した。
 少しでも体が見えている警官はその部分を撃ち抜かれて死んだ。信じられないような射撃の腕前だった。
 小枝警部にとって唯一の救いはスーパーの店員が決死の思いで彼の所まで匍匐前進で来て、スーパーからはお客や店員は全員退避したか死んだこと、警官二人も死んだことを報告したことだった。店長も死んでいた。
彼はそれだけを報告するために何メートルも匍匐前進してあちこちすりむいていたが、安全地帯に帰るのにまた匍匐前進しなければならなかった。小枝は彼の姿を見て勇気づけられた。
954政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/02/21(金) 21:16:03.56 ID:9YKpfUcQ
 「撃て、人質はいないぞ!」
 警官たちは死体になって転がるか、戦うかの選択を迫られたが、銃を手に飛び出して行った。
 警官隊の銃火は柱を次々と襲ったが真紗子は全く無傷だった。彼女は機関銃のような連射に移った。
こうなると一発必中ではなくなったがその内の一発が火花を散らしガソリンに引火した。
 爆発が起こった。炎は立ち上り警官隊は絶体絶命になった。
 「退避! 退避しろ」
 小枝警部は大声で退却を命じた。警官たちは仲間の死体もパトカーも置き去りにして近くの小公園に下がった。事実上の敗北だった。
955政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/02/21(金) 21:20:23.62 ID:9YKpfUcQ
 小枝警部にとって不幸なことにはパトカーを放棄せざるをえなかったので一時的に警察無線が使用できなくなったことだった。
ハンディ無線は使おうと思えば使用できたが小枝は使用しなかった。無線の途絶は全く一時のことだったのだが、県警本部通信指令室の荒川司令は太刀川警部の最後の報告、スーパーに二人の警官が突入したこと、
こちらはスーパーを包囲したこと、スーパー内に人質がいるかどうか、犯人が何人なのかは分からないと言う情報で判断を下さなければならなかった。
 SATを投入するか?
 しかし、相手は一人で拳銃を持っているだけ(のようだ)という未確認情報も彼のところには110番通報として入って来ていた。結果としてそれは全く真実であった。
SATは凶悪犯、重武装犯に対抗するためのものであったがどの程度で出動を命じるかについては明確な規定はなかった。
 荒川司令はSATを安易に出動させたくなかった。
 一方、小枝警部はやむを得ず自分の所属する所轄署に携帯で電話を入れ応援と救急車と消防車を要請した。署からは消防車はすでに出動したが銃撃を受けて引き返さざるを得なかったと答があった。
 それでも彼の所へは何台もの救急車と応援が来ることになった。また異例のことだが弾丸の補充も来ることになった。もうすでに弾を撃ち尽くしている警官もいて小枝警部の戦力は下がっていた。
それに負傷者はみなパトカーから少しだけ見えていたはずの手足を吹き飛ばされておりもう一目見ただけで緊急に治療が必要で……
もう現役の警官としての復帰は不可能だった。
956政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/02/22(土) 21:11:46.50 ID:N2nEeMza
 ところが、この警官隊敗走の一部始終をテレビカメラが放映していた。地元の「県民サンデー」の取材クルーが近くを流していたのだった。
彼らはスーパーも炎上するパトカーも見える場所でカメラを回していたのだった。
 キャスターの足柄早苗は小柄で愛嬌のある娘だったが今は笑顔も吹き飛び、カメラに向かって
 「御覧ください」とこの事件が始まってから何回目かのレポートをしようとした。
 真砂子は、慎重に早苗に狙いをつけルガーの引き金を引いた。
 「あちらの……」
 カメラが次に映し出したのは首から上を吹き飛ばされて倒れる早苗だった。次の瞬間、カメラは地面を映したがそれはカメラマンも死んだからだった。
957政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/02/22(土) 21:16:26.66 ID:N2nEeMza
 テレビ局ではスタッフが上空を旋回中のヘリのカメラに画面を切り換えた。ここからは音声が来ていない。そして画面に映っているのは赤い服を着た老婆が祈りでも捧げるように
スーパーの前でヘリに向かって両手を上げているところだった。

 真砂子は機関銃のようにルガーを連射した。拳銃弾は確実にヘリに当たっているはずだった。32発を撃ち尽くすとヘリの音が変わって来た。

 テレビの画面では住宅街がみるみる接近してきていた。もちろん、接近しているのは住宅街ではなくカメラを乗せたヘリの方だった。

 小枝警部が小公園に駆けつけてきた応援パトカーの警察無線に再び戻るのと爆発音は同時だった。事情が分らず彼はとっさに「今爆発音がした」と県警本部に言った。
本部は「了解」と言ったがSATは来ない。
 振り返ると、パトカーの炎の向こうにもう一つ煙が見えた。銃声が散発的にしており消防はもう銃撃を恐れて動けなかった。
 偵察に出した部下が戻って来て、カメラクルーが撃たれたこと、火事から逃げようとし始めた市民を真砂子が撃っている事を報告した。ヘリの事は分からなかった。
 だが、小枝警部は思った。
 彼はこの街の出身でありあのスーパーでもよく買い物をした。このままでは街がめちゃくちゃになってしまう。あの老婆はこれ以上野放しには出来ない。
もう県警本部からSATが来るのを待っている時間の余裕はない……
 「決死隊を募る!」
 小枝警部は言った。驚いた顔で部下たちが彼を見た。
 「五名でパトカーの火事に紛れてできるだけ接近、拳銃で持って制圧を図る。先頭は私が行く」
 残り四名の志願者はすぐ集まった。彼らは拳銃に弾丸を込めなおすと出発した。

 真砂子は拳銃の弾倉に9ミリ弾を詰めなおしていた。偶然だが一発の弾丸が転がり落ち、真砂子は反射的に拾おうとかがんだ。
 その瞬間、警官隊の放った銃弾が今彼女がいた空間を何発も飛んで行った。
 真砂子は、柱の後ろからルガーで反撃した。不幸にして警官隊のニューナンブは五連発であり弾がすぐに尽きた。
 逃げる警官の背中にルガーの9ミリ弾が次々命中、小枝警部以下決死隊は全滅した。
958政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/02/22(土) 21:25:37.71 ID:N2nEeMza
 警官隊の新しい指揮官は田中警部補という交通係だった。彼は銃さえ持っていなかった。
 荒川司令が田中警部補に命じたのは太刀川警部を無線に出すことだった。唖然としながら田中警部補は言った。
 「太刀川警部殿は死にました」
 「では、小枝を出せ」
 「小枝警部殿も死にました」
 「じょ、状況はどうか」
 「決死隊は全滅、相手は一人ですが今は姿が見えません。炎と煙がひどく、狙撃が危険なため偵察が困難です。SATがだめなら楯を下さい。
機動隊が使ってる大きい奴です。相手は拳銃ですからなんとかな…」
 「相手は拳銃なのか?」
 「そうです、何度も報告したじゃないですか!」
 「一人なのも間違いないんだな」
 「そうです、こちらで確認した限りでは一人だけです。赤いワンピースの老女です」
 「その老女に、我々が手も足も出ないというのか?」
 「だから、それも何回も報告しているでしょう」
 田中の我慢も限界だった。彼は小枝が本署に死亡者を報告するのを横で記録していたのだから被害も良くわかっていた。
何十人もだ。一回の事件ではあさま山荘事件を上回ることは間違いない。
 「なぜなんら応援をよこしてくれないんですか」
 彼らの警察署は本署が空になるぐらい応援を回していた。隣近所の署からも応援が来ている。県警本部は状況を報告しろと言うだけで何もしない。
959政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/02/22(土) 21:32:34.71 ID:N2nEeMza
 そのころ、真砂子はなんと、スーパーでトイレに入っていた。
 休憩も兼ねていた。長い時間、人を殺し続けたので疲れた。
 弾薬は、まだまだある。真砂子はトイレから出ると野菜ジュースを一本とワンカップ大関を一本、失敬した。まず野菜ジュースでのどを潤した。
 それからワンカップを開ける。ぐっと一口飲むと心と体が温まった。
 まだまだ殺せそうだった。

 田中警部補の所に先ほどのスーパーの店員がまたやってきた。もちろん今回は匍匐前進ではない。
 「あのう、おまわりさん、裏から入って行ったらどうでしょう? 」
 「ん?」
 「あのばばあも後ろには目がないと思います、表側で陽動部隊が銃でけん制しながら本隊が裏から入って行って一気に射殺したらどうでしょうか? おそらくばあさんは自動ドアが開くまでは
店内に警官がいても気がつかないでしょう。これだけ修羅場じゃ」
 「ええっ?」
960政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/02/23(日) 17:48:04.64 ID:TbMaH0wy
 田中はまじまじと店員を見た。店員は普通の中年の男だったが小枝が考えていた事と同じ事を言った。
 「このままではこの街があのばばあのために再起不能になります。もし警官隊が駄目だと言うなら、拳銃を一丁貸してください。私のアイディアだし、店長は死んだから今は私の店なんだから私が一人で行って、
ばばあと決着をつけます」
 田中は本部にこの案を伝えたが、荒川司令は席にいず許可は得られなかった。彼は県知事と電話していた。
961政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/02/26(水) 20:12:27.29 ID:oh7r8Nqa
test
962政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/02/27(木) 07:53:23.08 ID:ezBEHby6
 実際、県知事の方が状況を正確に把握していた。彼は執務室でテレビも見ていたし、その前の時点で彼の家からはスーパーの方の銃声も聞こえた。
 彼は県庁に出勤すると県警本部長を呼び出した。不幸にして県警本部長は昨夜風呂場で転んで病院で意識不明だった。それで荒川を電話口に呼んで状況をただした。
 それで分かった事は、警察は状況を全くコントロール出来ていないことだった。指揮官もたったこれだけの時間で三名交代したと言う。決死隊を突入させたが全滅という報告も受けた。
 県知事は強い口調でSATを出動させるように命じた。
 だが、もう手遅れだった。
963政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/02/27(木) 18:10:03.86 ID:ezBEHby6
 田中警部補は小枝と同じ決断を迫られた。だが、SATが来ないのは相変わらずだし荒川が電話にさえ出なくなったと言うのは
彼にとっては一層の孤立無援を意味するものであった。それに今すぐSATが到着してもこの状況がすぐに変わるとは思えない。
 田中は、小枝の気持ちが良く分かった。店員の作戦を丸ごと採用することにし、もう県警本部の許可は取らないと決めた。
 「総攻撃をもう一度かけるぞ、今度は店の中からも攻撃隊を送りこんで後ろからも攻撃する」
 田中にとって唯一の幸いは、拳銃は負傷者からすぐに調達できたことだった。
 「かかれ」
964政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/02/27(木) 18:10:53.83 ID:ezBEHby6
 真砂子は、ルガーを構えながら警官隊がなぜ無意味な正面攻撃をかけてくるのかと思った。
 すでにルガーの弾倉にはすべて再装填が終わっていた。冷酷な狙撃を再開する。
 パトカーはもう燃えつきかけていた。遮蔽物としては使えない。ばたばたと警官たちは射殺された。
 真砂子がにやりと笑い、もう一本酒を飲もうかと思った時、店の自動ドアが開いた。
 「天誅!」
 田中警部補は引き金を引いた。銃弾は真砂子の背中に命中した。崩れ落ちる。田中からは見えなかったが信じられないという表情を浮かべながらだ。
 「ぐはっ……」
 これが真砂子の断末魔だった。田中はこんな悪人でも血は赤いんだなと床に広がる染みを見ながら思った
。小さな驚きだった。
965政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/02/28(金) 19:03:55.82 ID:HPJHi49I
 「なんだと、犯人を射殺しただと! なんてことをしてくれたんだ」
 田中警部補がもっと驚いたことに荒川司令に報告した時の第一声はこれだった。
 「SATを出動させたんだ、後のことは彼らに任せればよかったんだ」
 「任せるって言ったって……」
 消火活動と遺体の収容が始まっていた。遺体は警官の遺体に限っても40を越えるだろう。SATの活動の余地は全くなかった。
 一応共犯者がいると言う可能性はある。ただ、田中が見るところ、そいつはありそうにもない。事件の最初から最後まで老婆は一人だった。
 最初の被害者になりかかったという男も名乗り出てきて襲撃の最初の様子を語ってくれた。涙田と言うその男はよほどの強運の持ち主らしい。
銃で撃たれる直前に横に跳んで商品棚の陰に隠れたらしい。
966政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/02/28(金) 19:05:24.41 ID:HPJHi49I
 一瞬、こいつが共犯者なのでは? と考えたものの、田中警部補はその可能性は低いと考えた。
共犯者なら店内にとどまって手助けするのが普通だろうし、そのための武器に関しては一時はニューナンブが二丁手元にあったのだし、
二人いるのなら一人が援護し一人が警官の死体からもっとニューナンブを奪うことができたはずだ。
 一応、老婆との面識を確認したが面識はないとの答え、店員も老婆を見たことはなく店が恨まれるような覚えはないと言った。
誰も彼女の事を知らないようだった。
967名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/01(土) 08:53:07.64 ID:IpjoaQql
9ミリ拳銃弾とは9ミリパラべラム弾の事です。以下特に断りない限りはそうです。
968政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/01(土) 21:47:22.06 ID:n6AeGkRY
 県警本部に生華学会から連絡が入ったのは翌日だった。
 それによると、老婆は学会員であった。孤独な生活を送っていて身寄りはなく、生活保護で暮らしていた。宗教的には熱心な学会の信者であったが少し精神的に病んでおり、
学会のサポートの下病院に通っていたが入院は本人が希望しなかったのでしていない状態だった。
 いつしか、真砂子は異教徒は全員殺すと言う妄想に取りつかれていたと言う。「異教徒は全員殺せ」と言う犬田先生の命令が聞こえると言うのである。
 また、近所の公園や小学校の校門の前で奇声を上げると言う問題行動も最近起こし始めて近所の問題人物化していた。ただ、今回の一件は問題人物などと言うレベルをはるかに超えていた。
 また、学会は一体どこで真砂子がルガーを手にしたのか分からないと言った。弾薬にしても射殺された時点で三百発以上の9ミリ弾薬を所持しており、それをどこで手に入れたのかは全く不明だった。
969政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/01(土) 21:49:36.51 ID:n6AeGkRY
 ルガーに関しては、製造番号がまったくのデタラメであることまで判明していた。つまりこいつは旧ドイツ帝国(第二ドイツ帝国)で
第一次大戦中に生産された銃ではないことになる。9ミリ弾薬も全くの無印であり無許可の密造品である可能性が濃厚だった。
 「し、しかし、じゃこの銃は一体何なんだ?」
 田中は呻いた。
 鑑識の銃器係は冷ややかとさえ言えそうな口ぶりで言った。
 「一部の熱狂的なガンマニアが21世紀に入ってから旧帝国の設計図に忠実に作った幻のコレクター用ルガーでしょう。状態的に見ても千九百十年代に製造された銃がこれほど
いい状態であると言うのはよほどです。これはもっと調査しないとわからないでしょうがね」
 「幻のコレクター用?」
 「ルガーの、色々なバリエーションの中にはすごい値段が付いているものもあるんです。この砲兵モデルもそうです。そして、コレクター用とはいえ、
もとをとる必要上から数千丁から数万丁は作られているはずです。そうした銃は別に製造番号を厳密につける必要はないですからね」
 「しかしそんな銃がなんで生活保護で暮らしている老女の所に転がり込むんだ」
970政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/01(土) 21:53:57.21 ID:n6AeGkRY
 銃器係はもっと冷たい声で言った。
 「神様仏さまの贈り物なんじゃないですか? この老女は学会だったそうですね」
 「らしいな」
 「武器として見た場合、こいつは現代の銃と比較すれば問題にならない、欠点が多い銃です。加工に手間がかかるし、独特の作動をする機関部を持っている。作動不良・回転不良の可能性も高いでしょう。
 ところが今回の事件ではあれだけ発砲して回転不良は一回もない。銃身が長いと言うのも逆にいえば取り扱いが難しく重いという欠点になる。しかし使いようによっては恐ろしい武器になる。
包丁でも人が殺せるようにね。しかもどこから入手したか一切分からない。謎のままです。おそらくは調査しても分からないでしょう」
 「しかし、まだ分らんな。足がつかない非合法の銃でこれより安い銃なんていくらでもありそうだな、今の話だと」
 「そうです、だから特殊な使い方のために入れたんでしょう……それこそ今回の事件のような使い方の為に」
 「え?」
 「大型バックに入れる事が出来、素早く組み立てられて長距離狙撃もある程度可能で連射もできる銃ですよ。もちろん、そういう銃はたくさんありますが大抵は管理が厳しい。
こういう事件に使われないようにとの観点からです」
 銃器係はさらに言った。
 「これからはこんな事件が増えるでしょう。あの何とかいう横に跳んで生き残った奴」
 「涙田って言う奴な、珍しい名前だ」
 「あいつみたいな幸運はそうはありゃしませんからね、サインでももらっておくべきでしたよ」
971政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/02(日) 14:14:54.18 ID:lYnRqkYJ
 あの『悪夢の日曜日』から一週間後、奈良県貪理市。
 十月も終わりに近付いていた。日曜日であるし貪理教の宗教都市であるこの街は今、年に一回の「貪理祭り」を控えて浮き立っていた。
 貪理教で貪理祭りとは名前にひねりもなにもないストレートさだが、それだけに信者らの熱狂ぶりもまた大きい。
 貪理教は公称百万名の信者がいる神道系新宗教だ。根拠地として貪理市を持ち、全国に信者がいる。そして生華学会とは犬猿の仲だ。
972政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/04(火) 07:26:37.85 ID:jLiDtFJh
 今年のお祭りは去年までとは違う手順になるはずだった。去年までは山岳密教でもありはしないのに山伏が出てきたり護摩炊きをする神秘主義的な演出があったが今年は違った。新教主となった現教主加羅真一こと朴真一は現実主義者だった。
祭りはがらりと様相を変える事になった。これには教主の交代を印象付ける狙いもある。
 まず、最初に貪理教の若い女性の、それも文化人、芸能人を中心とした目立つパレードが来る。それに続いて教主を先頭に最高幹部らがオープンカーでやって来る事になっていた。
 一行は貪理記念総合ホールで記念式典に臨み、続いて貪理教国際交流センターで世界中から来た貪理教の信者と交流することになっている。もっとも、世界中からやってきた信者というのは完全にやらせだった。
海外では撤退が相次いでいる貪理教には海外から招待するべき信者はいなかった。金ももったいなかった。
 信者の数も減り続けている。かろうじて新教主になってから若干、芸能人の入信が増えたと言うか、以前から信者だった芸能人のカミングアウトがあった。大物女優の西井凛やアイドルグループ、マーメイド娘の槇下久美などだ。
973政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/04(火) 07:42:08.21 ID:jLiDtFJh
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http://anago.2ch.net/test/read.cgi/koumei/1393757479/l50
974政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/04(火) 17:39:45.94 ID:jLiDtFJh
 昼食後、朴は奈良県生駒市にある生駒貪理生きがい農園のリビングで祭りの計画書に目を通していた。ここは農園と名前がついてはいるが実際には教主の住む場所であった。
教主は自宅を持たず、布教所(普通の仏教の寺や神道の神社に相当する貪理教独自の施設、生華学会の文化会館に相当)を渡り歩くと言う教えにより自宅はないのだが、
それでは生活が困難であり妥協案としてこのような施設にずっと住むようになったのである。
 すなわち、この農園は教義がそもそも出来もしないことを言っていると言う、貪理教の重大な弱点を実体化したような存在であった。
 ここはまた信者からはひそかに生駒貪理きちがい農園と呼ばれている。朴は9代目の教主になるのだが最近三代の教主は全員統合失調症を発病して病院送りになっていたからだ。
975大阪:2014/03/04(火) 22:41:40.57 ID:5NUWK3BK
貪理は天理とは違います。
976政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/04(火) 22:45:29.86 ID:jLiDtFJh
 これは一体どういうことなのかと朴も考えないではなかった。むろん、統合失調症には遺伝的要素もあるらしいが、最近三代と言っても三人とも血縁関係はない。
 前教主は一番酷かった。最後は犬田代作が攻めてくると言って日本刀を夜中に振り回して取り押さえられるまでに二人に怪我を負わせた。そんな教主がいる宗教が大きく成長する方がおかしい。彼の代で貪理教は大きく衰退した。
貪理とよく勘違いされる天理教と、これは大きな違いだ。
 朴が選ばれたのも、一つには(情けない話だが)その精神面の安定性が評価されたからなのだ。それに、彼は自分自身がおかしくなってくると言う危険性も考慮に入れざるを得なかった。全く情けない話だが、
なにせ、彼に分かっているのは戦後の彼以外の教祖は全員発狂したと言う事実だけなのだから
仕方がない。特に目の前であの前代の狂いっぷりを見せつけられては……
彼は最高幹部からなる評議委員会を創設し、これが教主の一挙手一投足を監視すると言うシステムを作り出した。
 もちろん、自分自身を監視するシステムなど、作りたくはないのが本音だが、同時に朴は一般の信者らが自分自身がどのような挙動を取るのかをじっと見ている事を理解していた。
 彼は名前の通り北朝鮮系朝鮮人だった。むろん朴は入信と同時に本国との縁は切った。日本人にならないのは朝鮮人の意地のようなものがまだ残っているからだが、北朝鮮に忠誠心をささげるような気持ちはどうしても持てなかった。
つまり、将軍様にマスゲームで忠誠心を表明するような国にはついてはいけないものを感じていた。
 だから、朴は本当はパレードやら記念式典やら、やらせの交流など必要ないと思っていた。お祭りはそうした物がなくても成立する。記念式典の代わりに短いスピーチでもすればいいだろう。
977政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/05(水) 15:03:05.21 ID:1NxvOGV2
 警備担当の白が来た。彼は韓国慶尚北道の出身だが信頼のおける男だ。年はもう六十になろうかとしているが五十二の朴より健康そうだ。
 彼もまた狂った教主によって島流しにされた期間が長かった。八丈島に八年、佐渡島に七年、島つながりだったのか何なのか島根に十年流された。帰って来た白はすっかり子だくさんになっていた。
それは島暮らしではやることがセックスぐらいしかないと言う事を雄弁に物語るものであった。
 しかし、今の彼にはやることは他にたくさんある。
 「例の件、あれからどうなった?」
 朴はスーパーの老婆について聞いた。
 「世間では一週間前のあの日を『悪夢の日曜日』と呼んでるらしいですよ。それはともかく、捜査は打ち切られるらしいです」
 「単独犯行という線でか?」
 「そうです」
 「裏で糸を引いているのは生華学会なのは丸わかりなのにか?」
 「証拠が全くありません。使われた拳銃はやはり密造された銃で、どこかのマニアがドイツ軍の設計図を基に製造したもののようです。だからどこをどう流通したのか探りようもなくてお手上げです。
学会……生華学会がひそかに非常に大量の武器弾薬を陸揚げしたとの情報も入っていますし、
それを末端に配布しているとの情報も入ってきてはいますが証拠は一切つかめていません。変につつくと何を仕掛けてくるかわからない」
 「ほう」
 「こちらは祭りが控えているんですから……」
978政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/05(水) 19:24:08.26 ID:1NxvOGV2
 「祭りを襲撃してくるとか言う事はないかな?」
 「それはないでしょう。この間の一件は学会にとっても寝耳に水の突発事項だったようです。スーパーでハラルと言うんですか? イスラムの食事を売っていたのが熱心な学会員のばあさんの気に入らなかったと言うのが事の発端のようですし……」
 「そんな事が理由か?」
 「当日の足取りはつかめているようです。少なくとも第一発を発射する寸前の十秒間は、器用にも一番最初に狙われた男が逃げおおせた様でしてそいつがすべてを話して回ったそうです。
 こんなケースは珍しいです。防犯カメラの映像や本人の気が狂っているとしか言いようのないメモやらを総合するとスーパーに入り、いきなり発砲を始めた模様です。なぜその器用な男を狙ったのかは不明です」
 「怖いなあ……」
 それが朴の正直な感想であった。
 「その学会に、正面から立ち向かって行かなければなりませんぞ!」
 「そうだな……警備計画の件だが」
 彼らは打ち合わせを始めたのだった。
979政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/06(木) 07:44:12.03 ID:ruMcj0Y0
 朴が計画を検討しているのと同時刻、貪理記念総合ホールの地下ポンプ室。
 作業服姿の三人組がポンプを点検するふりをしていた。そうしながらC4爆薬を十キロ、仕掛けていく。彼らは学会親衛隊の変装爆破隊なのだった。
同じような爆破隊は貪理市のあちこちに広がっているはずだ。
 C4爆薬は現在では標準的なプラスティック爆薬である。なお、ここで言うプラスティックとは形を自由に手で変える事が出来る柔らかさを持っていると言う意味である。
 「おい、この程度の爆薬量でほんとにこの総合ホールは爆破できるんだろうな?」
 彼らの誰も正規の爆発物訓練など受けた事などはなく、ただ爆薬を運ぶ係りにすぎなかった。爆薬にはいずれも電気信管が装着されておりそれは時計に接続されていた。
アジト出発前に日本標準時に電波時計で合わせてある。そいつは貪理祭りのクライマックス直前、教主が総合ホールに入るのと同時に爆発するようにセットされていた。
 「ここだけじゃない、電気室やパイプスペースにもセットされている。大丈夫だろう」
980政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/06(木) 07:53:09.35 ID:ruMcj0Y0
 なんとも情けない話だが彼ら学会親衛隊の知識はその程度だった。爆発物は彼らの専門外なのだ。それじゃ専門は何かと聞かれれば銃と暴力なのだが、それはこの前、工作隊に山の中で鼻っ柱をへし折られたばかりであった。
 むしろ今回は銃で撃ち合いになる可能性はゼロだと知って安心した者もいたぐらいである。
 「ああ、それにここだけじゃない、貪理教事務センターや貪理教喜びの広場のほうも爆破することになっているんだ。貪理教事務センターは事実上貪理教の総本部だし、貪理教喜びの広場は実際は広場ではなくれっきとした八階建てのビルで祭りの実行本部、
お飾りの最高幹部ではない本物の幹部たちは当日はここに集まっているだろう。それが全員爆死してしまえば貪理教は終わりだ」
 「そう言えば聞いたか? 『終りの人』たちの話を?」
 学会では病気は仏罰、祈れば病気は治るとの教義からガンやエイズなどの治療が見込めない人々は暗に『終りの人』と呼ばれ信心が足りないからそうなるのだと切り捨てられる存在だった。
 実は、真砂子もそうした人の一人とみなされていた。銃支給もその線から行われた。まさかあれほど生活保護で細々と暮らしている老婆が暴れまわるとは誰も思ってもいなかった。弾薬も弾倉も彼女は独断で持ち出して
(要は盗んで)いたし、スーパーでやれと命令した者もいなかった。
 しかし、その捨てられた存在が某県で見せた戦いはすさまじかった。スーパーの店員が建てた作戦がなければもっと犠牲が出たに違いない。警官隊は力戦したし田中警部補が放った恨みの一発が老婆をあの世に送ったが田中警部補はある意味では作戦に乗ったに過ぎなかった。
 「ああ、聞いている……富士の樹海でエイズやガンで、でもまだ体は動くと言う『終りの人』を集めて猛特訓しているらしいな? 銃も爆薬も相当量が回されているようだし、偽パトカーや偽救急車を作っているらしいぞ」
 「いよいよ、なのか?」
 「し、しかし、俺たちの出番は? ただ爆薬を運んだだけでした、か? それじゃ犬田先生がくれると言うご褒美など貰うにももらえんぞ」
981政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/06(木) 19:04:52.78 ID:ruMcj0Y0
 実は彼ら学会親衛隊は犬田に、もうちょっと正確には犬田の側近らに
 「成功のあかつきには犬田先生から庭付きの家やベンツが与えられる」
 「学会の女子部が抱き放題、酒も銀座でもどこでも飲み放題」
などと煽られていたのである。
 成功とは何なのか、具体的には彼らは知らないし知る必要はなかった。
 ただ、親衛隊は今は犬田直轄から権田と言う大幹部直轄に切り替わっていた。それに伴いご褒美の話は全く出なくなった。

 二時間後、学会のインターナショナル機関SIO。愛称シオの『翻訳支援センター』
 「時間設定に間違いはないな」
 「はい、権田様」
 うやうやしく親衛隊の幹部らが頭を下げる。権田と呼ばれた男は頷いた。
 「うむ、ごくろう。新幹線で部下らが戻ってきたらゆっくりするように伝えよ」
 「ははっ」
982政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/06(木) 19:06:59.85 ID:ruMcj0Y0
 権田…権田隆一こと権克日は韓国全羅南道出身の五十五歳だ。「克日」は反日感情が強かった親がいつかは日本と日本人を懲らしめるような人間になれと言う願いを込めてつけた韓国といえども珍しい名前だった。
実際には彼はこの名前で得をしたことなど今まで一度もない。当然だ。
 それはそれとして権力者としてはまだ若い方の部類の権は親衛隊の全権を掌握しつつ武器の末端への配布を進めつつあった。
 ところが、飯田純一郎と言う『日蓮宗教義派』出身の大幹部が貪理市大爆破作戦を彼ら、権田と親衛隊には無断でたてた。時期的には『悪夢の日曜日』の前にだ。
 当然、『悪夢の日曜日』の結果、計画にはひびが入った。犬田は計画の延期を指示、さらに親衛隊を計画に加えるようにとも言った。犬田の命令は飯田にとっても絶対だった。
 こうして、親衛隊による爆薬運搬が始まった。それとは別の爆破班も投入された。『日蓮宗教義派』の実行班だ。『日蓮宗教義派』と言うとインテリっぽいが要は対立宗派の日蓮宗鎌倉辻説法派から
鞍替えしてきた僧侶であり、今は袈裟を背広に変えているだけでスキンヘッドはそのままで、実に目立った。かつらをつけることも検討されたものの、それは無理があるとして却下された。
一人や二人ならどうにかなるが全員かつらの集団は全員スキンヘッドの集団よりも目立ってしまう。それなら真逆でまた袈裟をつけた方がましである。
ここは奈良なのだから…場所が奈良県の中でも貪理教の宗教都市貪理市でさえなければ。
983政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/07(金) 07:51:42.30 ID:kDauunOT
 そこで彼らは、ヘルメットに作業服に姿を変えた。これだとヘルメットを脱がなければスキンヘッドはばれずにすむ。
 それで、親衛隊も作業服にヘルメットに変装した。彼らには幸いな事に貪理教のセキュリティはザルもいいところであった。一応ガードマンはいたが拾って来た雑種のイヌでも
彼らガードマンよりいい仕事はした。それもそのはず、彼らガードマンは「日の寄進」と言う独特の強制労働でこき使われているだけの素人で、何も考えておらず事実上仕事を放棄していた。爆薬搬入自体は赤子の手をひねるように簡単であった。
いや、むしろ赤子は泣くから赤子の手をひねる方が困難であった。
 それで、爆破目標も、親衛隊と『日蓮宗教義派』でダブったり逆に抜けてしまったりしないよう慎重に調整された。貪理教と貪理市をできうるかぎり長く再起不能にすることがその目標だったからだ。
 さいわい、親衛隊にはどう言う訳だか都市工学で博士号を持っている男、馬淵がおり彼の研究では貪理市に奈良市側から通じている貪理川の鉄橋を爆破すると交通が長期的に遮断可能だとの予測が建てられた。高圧送電鉄塔も数か所爆破することにした。
こいつは復旧には相当な時間と予算がかかる。次に水道だった。これは爆破ではなく毒を投入することにした。毒には学会関係の医薬品会社から調達したヒ素を使用し、加圧する前の浄水に混入する作戦だった。
ちなみにこの浄水場が供給しているのは貪理市だけではないがそれは彼らの知った事ではなかった。もちろん、どんなに毒を投入しようと最長でも3〜4時間の間毒水を流せる程度だろう。
984政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/07(金) 19:38:11.01 ID:kDauunOT
 だが、目の前の水が毒だと分かったその瞬間からもう貪理市の人々は蛇口から出てくる水を信用できなくなるだろう。この心理的効果は長い間続くだろうし、完全になくなると言う事はないだろう。
 カンダタの糸ではないが貪理市の弱点は貪理教事務センターや貪理教喜びの広場よりもこうしたライフラインの切断だった。少なくとも「死神博士」と言う異名を頂戴した親衛隊の都市工学博士、
馬淵は言った。彼は親衛隊の作戦参謀だった。
 だが馬淵が夢に描いていた戦いとはこんな形ではなかったことも事実で、戸惑ってもいた。
 ちなみに親衛隊には作戦の指揮官として近藤春菜と言う女性がいたが彼女はこの作戦には全く関わっていなかった。
985大阪:2014/03/07(金) 21:35:58.07 ID:xO7PdOhT
この作戦にはリサーチした作戦案が実はあったが削除してありえない大量の爆薬を使うと言うものにしました。
誰が見ているか分からないからです。
986政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/08(土) 07:33:48.21 ID:vwLs/L4K
 実際には、馬淵は貪理市の弱点、本当の弱点を知っていた。
 中華料理屋でそれを考えながら馬淵は、春菜を見た。
 春菜と言う指揮官は彼よりも年下で序列も下であった。指揮官が参謀よりも下という奇妙な関係だが彼女に馬淵は教えた。
 「実は、貪理の弱点は別にある」
 「それは何です? どうしてそれを爆破しないんですか?」
 馬淵は、酸っぱい顔で言った。
 「ラーメンが伸びるぞ」
 「あひ……ふは……」
 「本当は、市内の保育園幼稚園小学校中学校、全てを大々的に爆破したらいい、もちろん、授業のある平日にね」
 そう言って、彼はチャーハンマーボー掛けを一口食べた。
987政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/08(土) 07:35:15.41 ID:vwLs/L4K
 「でも、それは子供の大虐殺にはなっても、貪理の撃滅と言う意味では今一つではないでしょうか? 貪理教の子供が多いだろうと言う事は分かります。それは圧倒的に多いだろうと思いますが、今活動している大人はどうするんですか」
 「それは別に放置でいい、それはいいんだ。
 貪理市は大パニックになる。
 あそこは代々貪理の重職と言う家が多い。そうした家は全て後継ぎを失ってしまう。そうでない家も昔からの貪理だ。そうした家もまた後継ぎを失う。街じゅうが悲しみと絶望のどん底に陥るだろう。
 しばらくすると、貪理は自然消滅的に下火になって行く自分たちに気がつくだろう。次世代を担う子供がごっそり殺されるという事でな。
 もちろん、全国にはまだまだ貪理教は、爆破の当日にはいる。全国に信者がいるんだから当然だ。
 しかし、かれらはやがて子供が殺される貪理に居続ける事はないと考えるようになって行く。子供を殺すと言うのはそう言う狙いがあるんだ。もちろん、そう思わせるためには嘘でもこれからも殺し続けるぞと言う脅しも必要になってくる。
そこらは考える必要があるが。自分が殺される、ではなく、自分の子供が殺されるかも、と思わせるのがポイントだ」
 「なるほど」
 「もちろん、貪理もあらゆる対策を打ってくるだろうが、しかし、貪理市で大量に子供を殺しておけばどういう対策を打とうが子供が生き返る訳はないから、子供大虐殺の記憶がよみがえってくるばかりで逆効果だ」
 「それは……」
988政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/08(土) 19:54:05.61 ID:vwLs/L4K
 「一方、貪理市ではどこの家庭でも号泣、学校は廃墟、これは立て直そうにも立て直しようがない。校舎は直せるがここでも子供が生き返る訳はないと言う事になってくる。
そうこうしているうちに、あの貪理で貪理立ち退き運動すら起こるかもしれん」
 「まさか」
 「それは、貪理教以外の遺族は絶対そう言う心境になるだろう。悪いのは生華学会なのに貪理教が悪いかのような錯覚を抱く。彼らは貪理がいたから学校が爆破されたのだと考え、貪理に恨みを抱くようになる」

 会計は馬淵のおごりだった。この「神遊園」は彼らの行きつけの中華で、今日は馬淵がおごりの番なのだった。
 二人は並んで生華学会の街、品野町のメインストリートを流れて行った。風は寒いが陽光は暖かい。
 町では「すべてのクリスマスツリーを切りはらえ」の旗がはためいていた。なるほど生華学会は仏教だからクリスマスはNGに違いなかった。
 品野町は宗教の街だが、それは仏教系でありサンタは敵なのだった。
989政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/08(土) 19:59:38.26 ID:vwLs/L4K
 「近藤、サンタさんのクリスマスプレゼントはどこから来るか知っているか?」
 「北極にある秘密のおもちゃ工場からです」春菜は答えた。
 「しかしその原料はなんだと思う」
 「さあ?」
 「それは未来から届けられる、大人になった時に、
ああ、失ってしまったなあと思った物は過去のおもちゃ工場に転送されてクリスマスプレゼントに加工されるんだ」
 「哲学ですか」
 「そうかも……」
 ふと見ると街角焚書コーナーがあった。聖書や経典が燃やされていた。コーランも燃やされていた。
すべての異教はみな生華学会にとっては仏敵、人は殺しつくし本は焼き尽くさなければならないものなのだ。
 馬淵はそれを見ながらやや考えて言った。
 「俺は子供こそが未来を開くカギであると考えている。それは多分正しいだろう。
 だから人間は子供を作るのだろうし、サンタクロースと言う子供にプレゼントを与える架空の存在があたかも実在するかのようにふるまう。
 だから子供を奪ってしまえば現在はあっても未来はないと言う事になる」
 「ではなぜそれを作戦に盛り込まなかったんですか」
 「一つは、貪理祭りは日曜日であった。学校や幼稚園、保育園は休みで、爆破しても無意味だった」
 「ふむふむ」
990政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/09(日) 10:14:00.49 ID:CW66BTd/
風が舞う。踏み絵を呼び掛けるスピーカーの声。今は何時代なのか分からないが、ここ品野町では当たり前の光景だ。
 「それと、もう一つは、これが最大の理由だが、俺は子供が好きで、殺すような作戦はどうしても乗り気になれなかった。
 飯田と言う大幹部は馬鹿で、大きな建物さえ爆破すればいいと思っている」
 もう一度街を見渡すと、今度は「全てのクリスマスツリーを焼き払え、クリスマスは絶滅せよ」と言う看板が見えた。
 彼ら生華学会は仏教こそが正しい宗教だと言う考えに凝り固まってしまい国の宗教は仏教と教えていた。
 貪理は、彼らを邪魔する存在だった。関西における最大の敵だ。
 「成功しますかね」
 「多分ね、思わぬ邪魔が入ったりしない限りは成功するだろう。壊滅的打撃を受けて貪理は当面立ち直れないだろうし、当面とは五年程度と想定している。貪理川の橋と送電鉄塔の復旧はその程度の工期はかかる。
JRの復旧は数カ月だし、水道は一日もかからず元に戻る。死者は多分数千だろう」
 あっさりと馬淵は言った。
991政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/09(日) 10:56:41.10 ID:CW66BTd/
 貪理市壊滅作戦決行2日前(金曜日)。午前九時。
 権田こと権は生華学会記念音楽ホールの第三リハーサル室にいた。無論音楽のリハーサルのためではなく
貪理市壊滅計画の総仕上げのためだ。適当な広さがありある程度の期間押さえられて出入りが目立たない場所がここしかなかったのである。
 室内には大型の地図が広げられて爆破の手筈が確認された。
 「爆破は日曜午後二時きっかりです。ハイ!」
 『死神博士』は右手を高く掲げ「ハイル・ヒトラー式敬礼」をした。これは正確にはローマ式敬礼と言いナチスの忌まわしい記憶と
同一視されている敬礼だったが学会内では「先生」に対してだけ内々に使われる最高の敬礼であった。
992政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/09(日) 19:56:08.41 ID:CW66BTd/
 「つまり、その瞬間には奴らは消えていなくなる訳だな?」権は言った。
 やつらとは誰の事なのか、『死神博士』にはとっさに分りかねた。
 彼の本名は馬淵孝太郎と言い三十二歳でバリバリの学会員であり、作戦参謀である。全ての学会の敵と戦う覚悟はできていた。彼の知識の限り全力も上げていた。
 まあ、やつらとは多分貪理教の教主と大幹部たちの事であろう、馬淵はそう見当をつけた。そうなると厄介だった。
 「はっ! そ、そのう……」
 「なんだ?」
 「建物は吹っ飛びます、それは確かです」
 「爆発物が発見され処理されることはあるまいな」少し違う方へ権は話を持って行く。

 「発見は、どうか分りません。ただ、今まで発見されていないものが日曜までに急に見つかると言う事はないと思います。
それに実は爆発物処理班は奈良県警全体に一つしかありません。奈良は広いですから大きな警察署に爆発物処理の講習を受けた警察官が配置されているところはあると思いますが、
爆発物を処理する大きな、液体窒素の装置などは一セットしかないのが実情なんです。隣の大阪府警には複数の爆発物処理班が存在しており関空など重要施設の警備にあたっていますが、奈良は手薄なんです。
従ってどんなに頑張ってもこれだけの爆発物を日曜に処理することは無理です。しかし、教主らが来なければ話は別です」
 「なんだと?」
993政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/09(日) 19:58:01.78 ID:CW66BTd/
 「貪理は予知能力があると豪語しています。真実は違うと思いますが、阪神淡路大震災の時も予知したと言ううわさを流しました。
今回も何らかの形で事前に察知されるとこれまでの努力が水の泡です」
 「ばかな、貪理のあれははったりだ。我が学会の方が本当の「福運」を受けているぞ。阪神大震災の時も誰も学会員は死ななかったし、311の時も学会員は全員会館に
避難していて無事だったのに地域の非学会員は全滅した所が続出、これこそ仏罰、すべては日蓮さまのみ心によるものなのだ」
 それも大うそであったが一々それをクールに指摘しても始まらないのであった。馬淵はうなづくしかなかった。
 「それに、そういう場合はハゲどもが何とかしてくれるそうだ」と権田は言った。
 「は?」
 ハゲと言うのは僧侶を揶揄する言葉でこの場合は『日蓮宗教義派』を指す。
 「分業制だ。現場ではハゲが働くことに決まった」
 「と、言いますと?」と馬淵。目をぱちくりしている。
 「特攻コマンドが現地に潜入済みだ。」
 「し、しかし、スキンヘッドではえらく目立つのでは? 」
 「いやいや、やつらハゲもそこまで向こう見ずではない。訓練した『終りの人』が特攻コマンドだ。もちろん彼らは戻ってこない。文字通りの特攻コマンドだ」
 「え?」
 「何か質問でも?」
994政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/10(月) 07:04:44.02 ID:sAvMasmg
貪理市壊滅作戦決行2日前(金曜日)。午後3時。
 場所は大村パンの総務のシマだった。角来美雪は言った。
 「今度の日曜日、貪理祭りがあるの」
 「ええっ」
 涙田は驚愕の表情を見せた。
 「なんだそのええっは? 」
 美雪はやや怒って言う。
 「貪理祭りと言うとあの、時代錯誤の塊のような祭り? 」
 貪理祭りの本祭の時代錯誤振りは大阪人を筆頭とする関西人のいい物笑いの種であった。
ただ、ここではそれを一々書いていたのではこの小説がいつまでも終わらないので省略する。
995政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/10(月) 17:27:39.91 ID:sAvMasmg
 「う、そ、それは去年までの話で…」
 「毎年のように刃傷沙汰があると言う、喧嘩祭り? 普通は喧嘩祭りって言うと、神輿をぶつけあうとかだけどこの場合体と体が刃物ごとぶつかりあうのが祭りのクライマックスみたいなところがあって、リアルファイト祭りと呼ばれているあの? 」
 それは事実だった。毎年けが人が出た。死人が出る事も多かった。
 関西では有名で、だから同じけが人が出るお祭りでも岸和田のだんじりと貪理祭りでは行く層が全然違った。酒が入るのがいけないのか、貪理教と言うものはストレスがたまるものなのか、この祭りでは喧嘩は刃物でするものなのであった。
 もちろん、刃物が道に落ちているはずもなく、家から用意して行くわけであるから確信犯で、その意味でも非常に特色があった。
 「あーそれは…で、でも、露店はすごいのよ、もう、こなもんから色々」
 涙田は、こなもんと聞くとちょっと心が動いた。もちろん小麦粉を使うという意味合いにおいては、彼も今やパン会社に勤務している訳だが、たこ焼きやお好み焼き、焼きそばなど……大阪人のソウルフードはこなものなのだ。
小麦粉禁止令が出たら力が出なくなって大阪市内は絶滅のカウントダウンに直面するに違いない。
大阪市民革命が起こり大阪独立宣言が出るかも知れなかった。
996政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/10(月) 17:28:41.56 ID:sAvMasmg
 「それはちょっと魅力あるかも……」
 「じゃ明日十時に地下鉄の駅よ」
 「え、ええ?」
 「今日は前夜祭よ 会社前の居酒屋「酔夢」で」
 「し、しかし、明日はどこに泊まるんだ? 貪理市なんてどこもホテルはいっぱいだと思うけど」
 「ウチの実家に泊まるのよ」
 「は?」
 「大丈夫、飲む酒には不自由しないから」
 「いや、そういう問題じゃなくて……」
 「部屋はちょうど東京に出てきている弟の部屋が空いているから大丈夫よ」
 「いやいや」
 「いざとなったら私の部屋へいらっしゃい」
 「おいおい」
997政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/10(月) 17:59:48.83 ID:sAvMasmg
 自分の席に戻ると、綾子が
 「どうしたの? 」と聞いてきた。
 「いや……かくかくしかじかで」
 「それは北朝鮮に拉致された級の災難ね」
 「ええ」
 「でもよかったじゃない、キスさえ通り越して親前デビューなんてすごい高速交際じゃない、光速エスパーもびっくりよ」
 「そんな、交際なんて」
 「照れる事ないじゃない、みんな注目してるのよ。綺羅に続く交際に発展するかと」
 「はあ……」
 綺羅と言うのはこの前、手フェチの保健局員と寿退職した総務課のお局様だった。
998政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/10(月) 18:01:44.76 ID:sAvMasmg
 「とにかく、今年の忘年会までは持たせてね」
 「は?」
 「毎年あの子、つぶれてしまって大変なんだから……アル中なのよ」
 「え?」
 「酒の匂いしなかった? まだ三時だから大丈夫か……午後も遅くなるとね、美雪は女子トイレに行って一杯、多分ウイスキーを飲むのよ。そうしないと手が震えてパソコンが打てないの。明日の配車を入力する退社直前が一番忙しいんだから仕方がないけどね。
それで会社から帰る前には「酔夢」か角のコンビニで一杯やってるわ」
 「ええ、えー!」
 婆あにルガーで狙われた事と同じぐらい衝撃的な話に涙田は硬直した。周りが疑問符の目で彼を見ていたがそれにも気がつかなかった。

スレ終了 次スレに続く
 
999大阪:2014/03/10(月) 19:35:16.78 ID:el90ibB+
長い旅が終わったようで、実は次スレと言う旅が待っております。
パソコンが終わった為新規に買いました。
1000政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/10(月) 21:50:04.33 ID:sAvMasmg
おしまい
10011001
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