魔法の鏡が王子の好きな曲を流した。「ビューティー、ビューティー、ビューティーペア〜♪」
前に『森の王子株式上場記念パーティ』で舞台に上がっていた、ウザくて胡散臭い若者たちにつけたGPSに動きがあったことを知らせるソフトの音だ。
しばらく動きが無かったが、街の噴水の広場にちゃくちゃくと集まっている。
街のホームページを開くと、噴水の広場でお祭をやってることがわかった。
なになに『チャリティースーパーアニメフェスティバル・アニソン、ゲーム、DVD、グッズ、同人、声優握手会と声優手作りフード販売なんでもありのパラダイス』
収益金は戦場の兵士に……!?
協賛、森の王子。
王子こんなのやって戦争に媚売ってらっしゃるのっ!?
……ステキ♪♪♪
さっそくそのあたりのニュータイプに「やってくれる?」と鏡メール一本、号令を出した。
王子に迷惑がかからないように、会場の外で待ち構えて引っ捕えろ!!
ニュータイプたちは、お祭の中で自分も遊びたいのを泣いて我慢したらしい。
でも見張りを絶やしてはいけないので飲まず、食わず、寝ず、トイレも行かず、ナンパされても付いていかず我慢していたと報告が入った。
されたの?ナンパwww
ニュータイプの見張りに違うニュータイプも行かせたからねww
みんな口々に励まし合ってたってさぁw
「ぼくら期待されてる?」
「姫はぼくらに期待してるのさ!」
「姫はぼくを頼ってる!」
「ああっ、血糖値が…」「がんばれ!姫はぼくらが悪者を捕まえないと困るんだ!」
「目を閉じるな!姫が困っているのを助けるのはオレラなんだ!」「ああっ、天国が見える…」
「精神力でなんとかしろ!」
「ぼくらは姫の役にたつんだ!」
「オイラたちは姫の片腕片脚なんだから!」
「こんなアタシが姫に必要とされるなんて!」
「今までの苦しみはこの喜びを味わうためだったんだ!」
「姫はぼくが役に立つのを待っている!」
「ヤバいww不幸に生きてきた中でミラクルうれしい!」
は〜いみ〜んなちゃんとやれよゴルァ!ww
わたしは『妄想スコープ』に戻る。
どうせ寝たきりのコヒも動いてるコヒも、全員妄想してる。わたし出演させながら。
この妄想力がほしいのよ。どうせやめられないんでしょ。
特に妄想をネガティブにいじった時に、ビリビリエネルギーが出てるのよね。
傷つきたくない自己防衛の欲望なんて持ってるからよ。
街の人の気持とかお金の動きとか流行りとかわかんないくせに、じぶんだけ傷つきたくないですなんてゆっても、街の人やニュータイプが傷つけるのをやめるわけないじゃない。
街の人にも奴らの都合があるし、ニュータイプはニュータイプだから!
だのに弱いコヒもその弱いとこだけいっちょ前。
だから弱いから攻めたいの!!
攻めるほうにも、やめる理由がない。
街の人たちも怒るのをやめないけれど、コヒたちだって都合のいい妄想をやめないでしょ。
一日中頭にオートリピート再生をセットしてるみたいでしょ。
だからどうせやめられないんでしょ。浅ましいんだから。
弱いコヒが妄想をやめる方法だってない。
攻める、妄想する、攻める、妄想する、攻める妄想する攻める妄想する攻める妄想する攻める妄想する…
だから使える。
わたしも想像するw
コヒ用カプセルが地平線まで果てしなく並んだコヒ牧場。
カプセルの中には目覚めなくなる香水とか煙の香りをいつも充満させる。
あら、王子と出会う時に魔法使いからもらったリンゴのリンゴ箱があるわ。
リンゴの香りが残ってるからここから抽出して培養しましょう。あれすごい寝ちゃうからw
コヒはこのカプセルの中で眠ったり鬱ったりしてひたすら夢を見る&妄想する。
カプセルからはエネルギーを吸い取る送電コードを引く。
わたしや訓練したニュータイプたちが一日中妄想をいじり続ける。
一日経てばリセット。
わたしは妄想の中でも現実でも、女神としてコヒに慕われるw
毎日じぶんに都合のいいナルシスな妄想に浸っては、『スコープ』で壊され続ける。
エネルギーを吸い取る。
それを溜めて、セレブをパーティにお呼びする。
「わたしが開発したこのエネルギーでコヒたちの生活を豊かにして、QOLに貢献し、新しい可能性を探っています!
世界に先駆けて、ベーシックインカムの方法論にわたくしがインスパイアされて構想した未来的ライフスタイルを、コヒの特徴に合った形に改良して森に取り入れました!
実際にコヒと日常生活で成果をわかちあい、さらに高めあうことを理想としてかかげ日々前進しています!」
とかって舞台で発表する!
キャ〜らっすぃらっすぃ♪
わたしカッコつけたらっすぃことゆう!
王子に誉められる!
セレブの人に知ってもらえる。セレブの人に仲よしになってもらえる。
溜めたエネルギーはわたしと王子が二人占め♪
わぁ王子さまぁ〜わたしを誉めて〜誉めて〜♪
わたしの妄想、すっごいステキ♪
何人に誉められても誉められ足りないくらいステキ♪ハイになっちゃう。
毎日こうでなくっちゃ。
そうと決まればさっそくエネルギー吸い取り牧場の設計に取り掛かりますか。
何年も長く使う設備だから、魔法でちゃっちゃっつうわけにはいかない。
魔法はなんかの拍子にとけることがあるからほとんどはリアル作業で建てる。
でも森の木を切り倒してしまうと街の人たちが気づいて調べられてめんどくさいから、一番高い木が群生している場所の真ん中に入口を作って地下施設にしようか。
木の根っこは適当にちょん切りながらにして、地平線は見えないけど果てが見えない位長〜くて大きな牧場。
端まで行くのに動く歩道をつけなきゃ。
木が腐ったら?木が悪い。わたしは悪くない。
地面の中は地上よりも温度が変わりづらいから、寒さで目が覚めることもなくて好都合。
エネルギータンクはわたしの小屋まで引っ張ろうかしら。
入口のそばに作ろうかしら。
いや、いちいち取り出しに行くのがめんどうだからやっぱりわたしの小屋まで引っ張ろうかしら。
いやいや取り出したくなったらニュータイプにパシらせればいいだけか!
さて楽しく構想だけはできたから、設計には器用なコヒを呼び出し!
わたしは食べて寝て文句ゆって言いがかり付けて圧力かけて待っていようっと。
それから街に残ってるコヒがもっと追い出されて森へ来るように仕掛けも考えなければ。
考えたらニュータイプたちをこき使いまくらなくちゃ。
さあ面白くなるわ。ハイになる!
楽しい構想と想像していたら一日たってしまった。
魔法の鏡からメール着信音のオルゴールが。「あなーたとー♪こえーたいー♪あまぎいぃぃぃぃーごおえぇぇぇぇー♪」
きゃあ♪王子からだ!
このあいだのパーティにいた若者たちが行方不明みたいだけど、なんか知ってる?だって。
わたし期待されてる?
王子はわたしに期待してるの!
王子はわたしを頼ってる!
そのときだ。「ホッホーイホホホーイ」「ただ飯ただ飯イェイ!」
「イエス!」「YO!」「イエス!」「YO!」「パラッパパ♪」
暗くなった外からニュータイプたちのハイになった声が聞こえる。なになに?
「姫!ひーめ!」結界の向こうから声がする。けど私は立たない。