「ハングクちゃん 熱演! ナヌムおばさんの巻」
泣き女の伝統を今日につたえる号泣が蒼い空に吸いこまれていきました。
「性奴隷にされたニダ〜、ソフトクリームがたべられないニダ〜、殺してくれニダ〜!」
ナヌムおばさんの毎朝の健康法です。
こうして一日一回はニホン家の前で叫ばなければ、ご飯をおいしくたべられないのです。ハングクちゃんにおぶわれて通うのが日課です。
「ウギャ〜〜〜ン!!」
クライマックスです。
死にかけたゴキブリのようにひっくり返り、手足をバタバタさせます。ああ、それにしても、なんと胸を打つパフォーマンスなのでしょうか。
すべては同情を乞うことに捧げられています。人たるものすべては、この哀れな被害者を前に落涙すべきでありましょう。ハングクちゃんもおもわず涙ぐみました。
「ゴメンナシャ〜イ!」
正しい歴史観に目覚めたニホンくんが飛び出してきました。道路に何度も額を打ちつけます。
「ボクの祖父は鬼畜デス、糾弾するデス! ニホン家なんかに生まれたことを恥ずかしく思うデ〜ス! ウワーーン!」
ニホンくんも号泣しました。嗚咽しながら、
「謝罪と賠償を……」
と言いかけたその時、
「待って!」
澄んだ声がしました。
「ウヨ……」
ニホンくんがつぶやくと、日本刀を背負った黒髪の少女が出てきました。
「従軍慰安婦へのニホン家の関与については、まだ証明されていないわ。そもそも
両家の賠償関係はとっくに解決済みよ。糾弾するならハングク家を……むぐぐっ!」
背後に回ったニホンくんが口を塞ぎます。素早く抱えあげて物置に放り込むと、外から突っかい棒をかけてしまいました。
「いやあ〜〜ん、お兄ちゃん出してっ! 暗いよ狭いよ怖いよ〜〜〜!!」
ウヨちゃんは閉所・暗所恐怖症なのです(子供だから)。
「ゴメンナシャ〜イ! 妹は極右なのデス! 代わってお詫びするデス!」
ニホンくんは目にも止まらぬ速度で土下座を繰り返しました。額が割れて顔面は血
みどろです。
「ああ、なんという事。この国際化の時代に……このような時代錯誤の極右が存在するなんて……」
あまりの悲しみにハングクちゃんは失神しました。
「ハングク様!」
間一髪、ニホンくんが抱きとめます。
「起きてくださいデス! 妹は反省が足りないのデス! じっくり言いきかせて改心させるデス!」
ハングクちゃん、目を覚ましません。豊かな黒髪が垂れています。
「もちろん今回の謝罪と賠償もするデス!」
「――本当に?」
薄目が開きました。
「本当デス! 百億兆万円払うデ〜ス!」
「ありがとう。あなたは本当に、良心的ニホン人だわ。お礼といってはなんだけど……」
CYU!
桜貝のような唇がニホンくんの頬におしつけられました。
「……………………!」
「じゃあね!」
軽やかに身を翻して、ハングクちゃんは去っていきました。
「………………」
ニホンくんはひとり立ちつくしました。頬に手をあてると、ハングクちゃんに触れられた部分が熱をもっているような気がします。
「……ハングク様……」
陶然と呟くと、ほのかに漂うキムチと無窮花の残り香を愛おしそうに吸い込みました。
あたりはニホンくんの流血で血の海です。
またもキムチ色に染まりながら、至福の瞬間を反芻するニホンくんなのでした。
「死ぬまでやってろ」
一部始終を聞いていたウヨちゃんは苦虫をダース単位で噛み潰していました。
fin