連続ドラマ小説「ニホンちゃん」 5クール目

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254初投稿
「愛国戦隊」 1/2

日之本家の長男ウヨ君こと、日之本タケシは有事に備え日夜体を鍛えていた。
また彼は読書することも忘れない。

今日もランニングの途中で立ち寄った書店で新刊をチェックするウヨ君である。
そしてなにげなく手に取った一冊のページをめくり、驚愕する。
『こ、これは! 外見はふつうの本だが中身は赤じゃないか!
 これも、こっちの本も! それにこれは中学校の教科書! みんな赤じゃないか!』
次々と書店の棚をチェックするウヨ君に、襲いかかる店員。
『はっ? 狼藉者!』
ウヨ君は見事な体術で襲ってきた店員を投げ飛ばした。
『アイヤーッ!』
『やはりレッドドラゴンか!』
倒れた店員の姿が、黒ずくめの戦闘員姿に変わるのを見て、ウヨ君は叫んだ。

 * * *

暗闇の中、不気味に浮かぶチューゴ君の顔が低い声で話し始める。
『サヨック、洗脳5ヶ年計画はどうなっておる?』
『は、都内の本屋のすべての本を入れ替えるまで、あとわずか』
サヨックおじさんに続けて、なぜか女幹部風のきわどいビキニコスチュームを身につけた
アサヒちゃんが報告する。
『もう少しで子供たちの教科書も、我らが改訂版に』
二人の報告に満足そうなチューゴ君。
『つまり、あと5年もたてば……』
『今の子供たちが大人になる頃には、我々の思想が主流になっております』と、サヨック。
『行けぇぇっ! すべての本を真っ赤にするのだぁっ!』
闇の中にチューゴ君の声が響き渡った。
『は!』
アサヒちゃんもマントを翻しながらふりむき、背後に控えたエラの張った怪人に命令した。
『カンコ!』
『はっ、お任せくださいニダ!』

 つづく
255初投稿:2001/08/18(土) 14:06 ID:Dq9xeUxI
「愛国戦隊」 2/2

『作業は順調のようだな?』
『もちろんニダ。ウリナラは世界最高民族ニダ』
女幹部アサヒちゃんと怪人カンコ君は、書店へ運ぶ自虐教科書の輸送を監督していた。
しかしカンコ君配下の戦闘員たちは、カンコ君の自信とは裏腹にミスばかりが目立ち、
なかなか作業ははかどっていない。
見かねたカンコ君がミスをした戦闘員に罰を与えようとした、そのときである。
カンコ君たちを見下ろす高台に、何人かの新たな人影が現われたのだ。
その中心にすっくと立っているのは、我らがウヨ君だ。
ウヨ君はポーズを取りながら、声を張り上げて叫んだ。
『レッドドラゴン、貴様らのたくらみはお見通しだ!』
仲間たちも続けて叫ぶ。
『子供たちに赤の本は読ませないぞ!』
『そうよ! 子供たちを○○○から守るのよ!』

……と、ここまで同人誌用のマンガ原稿を描いたところで、ウヨ君もしだいに興奮してき
たようです。
こんな時にも、原稿描きの手伝いをしているニホンちゃんやタイワンちゃんがいくら文句
を言ってもいっこうに直らない、あのウヨ君の癖がでてきてしまいます。
そう、大声で妙な歌を歌うアレです。
「もし〜も、ニホンがっ、弱ければ〜〜、
 ロシ○がっ、たちまちっ、攻めてくる〜〜〜」
「あうあうあう、そ、その歌は、だめぇぇぇ!」と慌てるニホンちゃん。
「でも、これからアクションシーンになって盛り上がるんじゃないか。この歌をBGMに
したらきっとピッタリはまると思うんだ。そう思わない、姉さん?」
歌うのをいったんやめたウヨ君は振り返って、ていねいにトーン張りをしているニホンち
ゃんに反論しています。
「でもでも、やっぱり……」
ニホンちゃんの困ったような表情と、創作に命を懸けんばかりのウヨ君の情熱に満ちた顔
とを見比べながら、タイワンちゃんは思いました。
(たかが替え歌じゃない。誰も本気になんかしないわよ)
改めてべた塗りの作業に戻ったタイワンちゃんは、手元の原稿を見て大きなため息をつき
ました。
(あ、こいつらがいたっけ)
そこには、ビキニの女幹部アサヒちゃんと怪人カンコ君の姿が描いてあるのでした。

 おわり