連続ドラマ小説「ニホンちゃん」 5クール目

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137345話作者
「思ひ出の味 その3」

語り終えると、ニホンママは、少し涙ぐんでいました。テイコクさんがボースさんをとても尊敬していたこと。町
内大喧嘩の時にインパール通りで日ノ本家とイン堂家がともにイン堂家の家業独立のためにデモをやったこと。そ
の後日ノ本家は没落し、ボースさんはイン堂家の家業を独立させるため今度はロシアノビッチ家に働きかけようと
していたその刹那思い半ばで亡くなってしまったこと。後をおうようにテイコクさんも涅槃してしまったこと・・・。
ママの胸の中には、さまざまな思い出がよみがえってきたのでした。
「ただいまー。いやー、今日もつかれたよ。」
パパの声です。
ニホンママは、涙をぬぐうと、「さあ、ごはんにしますよ。あなたたちも手伝ってね。」
と言って、いったん鍋の火をとめると、居間に行き、ちゃぶ台を出しました。ニホンちゃんはご飯を盛り、ウヨ君は
お茶を入れます。「ごはんよ〜」の声に居間にやってきた、他の子供達も思い思いに手伝います。ニホンママは、ニ
ホンちゃんが盛ったごはんの上からカレーをかけると、ラッキョウや福神漬けの次に日ノ本家でカレーのお供として
出る、朝鮮漬けを添えました。これはコチュジャンをつかわないタイプのキムチで、辛さは鷹の爪だけでつけていま
す。カンコ君一家が、まだ日ノ本家とともに暮らしていた時代にカンコ君のお婆さんから習ったキムチを参考にニホ
ンちゃんのお婆ちゃんが作ったものでした。日ノ本家、カンコ家、そしてイン堂家が共に歩んだ時代の名残と、そし
て、わだかまりを越えて、再びみんなが共に歩める時代が来て欲しいというニホンママの思いが、この一杯のカレー
ライスの中に込められているのでした。

終わり
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中村屋とインド独立の父ラス・ビハリ・ボースの話。それに、インド国民軍創設者チャンドラ・ボースと東条英機の
話などを参考にしてつくりました。ちなみに最後の朝鮮漬けの話は、俺の祖父母が日本統治時代の朝鮮で苦労した時の
名残として、ウチで代々つたわっている漬物です。ソ連が攻めてきた時には助けてくれる朝鮮人もいたし、ダマして
着ぐるみはがしたヤツもいたとか、いろいろ話してくれたことを思い出しながら書きました。