連続ドラマ小説「ニホンちゃん」 4クール目

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65夏の思い出 1
ニホンちゃんのママの会社は今、夏休みです。
いつもはキャリアウーマンなママ。家の中の仕事だっててきぱき片付けます。
庭木に水をやって、洗濯物を干して、納戸の中も整理整頓。
と、ふと、その手が本棚の前で止まりました。
本棚の下のほう、ひっそりと隠すように置かれている本。
その背表紙には、小さな菊の紋が押されています。
「お父さんの本・・・まだあったのね・・・・」
ママはその本を手に取り、パラパラと懐かしそうに眺めました。
その本はママのお父さん、ヒロヒトさんのものでした。


その昔、日之本家の長男、ヒロヒトさんは植物学者でした。
おっとりとした学者の兄、ヒロヒトさんと
やんちゃな体育会系の弟、ニッテイさんと言う関係はどこか、
今のニホンちゃんとウヨ君に似ているかもしれません。

あの頃まだ子供だったママは、ヒロヒトさんが好きではありませんでした。
弟のニッテイさんが日之本家のために走り回っているのに
当主のヒロヒトさんは家でのんびり草花の観察などをしており、
それを見たママが「あんなやる気の無い大人にはなるまい」と思ったほどでした。
66夏の思い出 2:2001/07/31(火) 18:29 ID:bauvAsNk

でも、今は違います。
あのアメリー家との喧嘩の時、日之本家は窮地に立たされました。
キチクベイエイに対抗するには花火しか無い
あいつらは雑草と同じだ。気にする事は無いと言うニッテイさんに
ヒロヒトさんは悲しそうに微笑みながら言いました。
「雑草などと言う草は無い。
 わたしも、おまえも別々の名前があって
  別々の心が、考えがある。それと同じだ」

「喧嘩に使う道具というものは、人が人に使うものだ。
 そんな山も川も草も木も焼いてしまうものを作って
     おまえは、一体、何をどうしたいというのか」と。

そう。ヒロヒトさんは誰にも、何にも、とても優しい人だったのです。

もちろん、優しいだけで世の中を渡っていくことは出来ません。
奇しくも、その開発を中断された花火によって日之本家は負けました。
ですが、焼け野原から奇跡的な復興を遂げた日之本家も、
あの花火だけは絶対に持とうとしません。
優しいだけでは生きていけません。
でも、強いだけというのも悲しいことだから。


ページを繰る手が止まり、ママは本を棚に戻しました。
ヒロヒトさんの優しさは、ニホンちゃんにも受け継がれています。
それは、もう、傍目には臆病に見えるくらいに、です。
あの子には、負けない強さも身に付けて欲しいわ。
ママは少し悲しそうに微笑みながら思いました。

そういえば、チューゴ君ちの横槍で実現が危ぶまれていますが、
シシローおじさんがお墓参りに行きたがっているのを思い出しました。
ママ自身、最近お墓参りには行っていません。
たまには、ご先祖様に会いに行くのもいいかもしれない。
ニホンママはそう思いました。



fin