連続ドラマ小説「ニホンちゃん」 4クール目

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<一番強いのは?>

その1

「男たるもの、誰しも一度は目指す『最強の男』」

ニホンちゃんのクラスの男の子たちの何人かは、自分の精神と身体を鍛えるために
格闘技のジムに通っています。
今日は教室の隅に集まって、各々が習っている格闘技についておしゃべりしています。

アメリー君が、まず一番に口を開きました。
「僕は、もう小さい頃からだけど『ボクシング』を習っているんだ。ボクシングはね、
手しか攻撃に使っちゃいけないんだけど、その分パンチのスピードはどんな格闘技のものよりも速いんだ。
強い人のパンチだと速すぎて目に見えないくらいなんだよ。」
アメリー君、皆が「ヘぇ〜、すごいや」と言う顔で話を聞いているので、得意気です。
調子に乗って、シャドーボクシングを披露しています。
拳が空を切る音が聞こえてきそうな速さのパンチにみんな感心しています。
「でも、ボクシングだと手しか使えないだろ?それでもう一つ、『カラテ』も習ってみようと思ってるんだ。
今度の休みにリューの家にある別荘に行くから、その時にリューの知り合いのミヤギって人に
教えてもらいに行くつもりだよ。」

「ふ〜ん、『空手』アルか・・・」
アメリー君の『カラテ』という言葉に反応してチューゴ君が話に割り込んできました。
「今、私が習っている『拳法』は、空手の元々の起源アル。まぁ、空手も独自の発展をしているアルけどね。
拳法にはいろいろな流派があって、私は今まさにそのいくつかを習っているところね。」
蟷螂拳、蛇拳、太極拳、小林拳・・・チューゴ君は、それらの簡単な型と演武を皆の前でやってみせます。
皆、その舞うような優雅で滑らかな動きに見惚れています。
「ただ、今習ってるのはちょっと古いもの。だから、私も今度タイワンのところのドラゴン・リー師父に
新しい拳法、『ジークンドー』を教えてもらってくるよ。」
239ななし28:2001/08/02(木) 06:58 ID:ewbU8BM.
その2

チューゴ君、そう言いながらもまだ演武を続けてます。今度は何かふらふらとした動きです。
「それから、これが『酔拳』アル。でも父さんが『子供はまだ習っちゃ駄目だ』って言うね。
お酒が飲めるようにならないと習っちゃいけないらしいアル・・・」
ちょっと残念そうにチューゴ君がそう言うと、突然誰かがチューゴ君の背後からガシッと
肩を抱くように掴みました。
ビックリしてチューゴ君が振り返ると、その主はロシアノビッチ君です。
相変わらず、顔は真っ赤で酒臭いです。
「よォ、チューゴ。その『すいけん』ってェの、なかなかおもしろそぉだなぁ。今度教えろよぉ」
ロシアノビッチ君、軽そうな口調ですが目は据わってます。かなり酔ってます。
「あぁ・・・そうアルね。また今度にでもジャッキー師父に頼んでおいておくよ。」
あぁもぉ、この酔っぱらいが・・・ロシアノビッチ君に隠れて、見えないようにそんな顔をしながらチューゴ君、
とりあえずロシアノビッチ君を刺激しないよう、当り障りの無い様に言っておきます。

「おぉ、そうそう。俺も今『サンボ』っての習ってるんだよ。打撃系はちょっと苦手だけど、
投げたりとか絞めたりとか、一度相手を掴めばこっちのもの。俺に勝てる奴はそういないね。
どうだ、チューゴ?試しに。」
しっかりとロシアノビッチ君に肩を掴まれているチューゴ君。実験台にされるのは目に見えています。
顔からサッと血の気が引くと
「い、いいや、遠慮しておくアル」
とぶんぶんと首を横に振って拒絶の意思を表します。
「ガハハハ・・・まぁまぁ、遠慮するなよ」
・・・この世で一番嫌なもの、話を聞かない酔っ払い・・・
言うが早いか、ロシアノビッチ君の太い腕がチューゴ君の首に絡むと、ギリギリと絞め上げていきます。
ほどなくしてオチてしまったチューゴ君。その場に倒れこんでしまいます。
「ん?おいチューゴ。そんな所で寝ると風邪引くぞ」
自分でチューゴ君を絞め落としておいてロシアノビッチ君、のんきにそう言うと、ガハハハ、
と豪快に笑いながら歩いて行ってしまいました・・・
240ななし28:2001/08/02(木) 06:58 ID:ewbU8BM.
その3

「う〜ん・・・ヒドい目に遭ったアル・・・」
しばらくして、チューゴ君が意識を取り戻しました。
呆然としていた他の子達も、チューゴ君のとりあえず無事な姿を確認するとようやく気を取り直して
おしゃべりを再開します。

「ボクの習ってる『ムエタイ』はね。あんまり掴んだり投げたりはしないけど、手も足も使える上に、
普通は危ないからって使わないヒジとかヒザも使えるんだ。『立ち技最強』って言われるくらいにすごいんだよ」
再開第一番目はタイランド君です。
普段あんまり目立たないタイランド君、でも、こと格闘技の話に関しては他の人に負けません。
その場でピョンピョンと鋭い真空跳び膝蹴りをして見せます。
「なんだい、おいらの『カポエラ』だって足技に関しちゃ凄いんだぞ。」
その膝蹴りに触発されて、これまたあまり目立たないブラジー君、まるで軽業師かあん馬の体操選手か、
というように器用に足を操って見せます。
皆、どれもすごいなぁ、とそれぞれお互いに感心してます。

そこに・・・ニダニダとカンコ君。ついに登場です。
「ウリの習ってる『テコンドー』は、そんなものに比べ物にならない位すごいニダ!
遥か2000年の歴史を持っていて、その蹴りはこの世で最も華麗で美しいニダ!ウリナラマンセー!」
そう言うと、カンコ君はカッコ良く・・・実際はそうでもないのですが、大袈裟にポーズをとると、
自分の背後に向けて後ろ回し蹴りをしてみせました・・・
241ななし28:2001/08/02(木) 06:59 ID:ewbU8BM.
その4

「きゃあ!!」
ちょうどその時、偶然カンコ君の後ろを通り過ぎようとしたニホンちゃんとタイワンちゃん。
いきなりカンコ君の爪先がニホンちゃんの鼻先をかすめていったので、ニホンちゃんはびっくりして
その場に座り込んでしまいました。
「ア・・・アイゴ・・・い、いや、今のはニホンが悪いニダ!急にウリの後ろを許可無く通るからそうなるニダ!
謝罪と補償を・・・」
あたふたと言い訳をするカンコ君。しかし、その声を遮って鋭い声が飛びました。
「なにすんのよ!バカンコ!!」
タイワンちゃんはそう言うや否や、ダンッ!と床をも踏み抜くような勢いで踏み込むと、
ダンッ!ダンッ!ダンッ!!と女の子の力とは思えないような力強さでカンコ君に激しい三連撃を
叩き込みました。
あまりの激しさにいつものお決まりの言葉も言えず、カンコ君は壁まで吹き飛ばされてのびてしまいました。
「ふんっ。」
タイワンちゃん、のびているカンコ君に冷たい視線を投げかけるとパンパン、と手をはらって、
「ニホンちゃん大丈夫?」
と、座り込んでいるニホンちゃんに手を貸して引き起こしてあげました。
「うん・・・でもカンコ君が・・・」
あんな事をされてもカンコ君を心配するニホンちゃん。
「ほっときゃいいのよ、あんなの。さ、いこいこ。」
と、タイワンちゃん、ニホンちゃんの手を引っ張っていってしまいました。

あとに残された男の子達は、タイワンちゃんの後ろ姿を呆然として見送っていました。
「なぁ、チューゴ、タイワンちゃんって・・・」
アメリー君がやっと口を開きました。
「うん・・・タイワンちゃん・・・ああ見えても『八極拳』の有段者・・・アル」
男の子達は、タイワンちゃんだけは怒らせないようにしようと心にちかいましたとさ。

お・わ・り