大河ドラマ「ニホンちゃん」

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583打ち上げ花火(その1)
 ある時、いつものようにみんなが学校でワイワイやっていると、「花火」の話題になりました。
 ご町内の揉め事の元になってるアレ?
 いいえ違います。あれはひゅーんと飛んでって当たるととっても熱くて痛い(当てるなよ)、ロケット花火。
 話題になったのは、お空に向けて高く高く、衛星軌道に、お月様に、火星に、外惑星に、さらには太陽系の外まで届けーっ! とドカンと打ち上げる、打ち上げ花火です。

 まあどっちも花火には違いないんで、必要な技術はほとんど同じなんですけどね。
 だから昔は……
「アメリー君ちとロシアノビッチ君ちって、昔すごい競争してたんだってねぇ」
 いつものようにのほほんと、ニホンちゃんが言いました。
「ジョン叔父さんが頑張っててね」
 えっへん、と胸を張ってアメリー君が語り始めました。
「NASA工房に若くて優秀な職人をいっぱい集めてさ。最初はロシアノビッチ君ちのニキータ叔父さんに、衛星軌道一番乗りとか生物打ち上げ一番乗りとか有人打ち上げ一番乗りとか女性打ち上げ一番乗りとか押されまくってたんだけど、その後一気に盛り返してお月さまに一番乗りさ」
(そのNASA工房のフォン・ブラウン親方はもともと僕んちの人じゃないか)
 と、ゲルマンスキー君が小声で突っ込みますが、アメリー君は気にしません。
 ちなみにそのフォン・ブラウン親方、ゲルマンスキー君ちでは史上初のロケット花火“ぶいつー”を作ってました。うーん、生きる功罪両面、大宇宙と冷戦のアンビバレンツ(古館調)とはこの事ですね。
「すごいねぇ。でもロシアノビッチ君ちもすごいよねぇ」
「…………」
 おや? いつもクダ巻いてるロシアノビッチ君どうしたんでしょう? 悪酔いでしょうか?
 無理もないかも知れません。生物打ち上げ一番乗りなんて、かわいいワンちゃんを乗せて打ち上げて餓死するまでほったらかしという動物実験そのものでしたし、最近お家が没落して倉庫をあさってみたら出るわ出るわ、膨大かつド派手な失敗の記録の数々。
 はっきり言って、ものすごいムチャしてたのです。この話題を持ち出されたら、そりゃお酒も不味くなるでしょう。
584打ち上げ花火(その2):2001/07/20(金) 06:39 ID:XMmcEFtU
「そ、それで、今アメリー君は“すぺーすしゃとる”っていう花火やってるんだってね」
 ニホンちゃん、慌ててアメリー君に話を戻します。
「うん、これはすごいよ。今まで花火は一回打ち上げたらそれっきりだったけど、“すぺーすしゃとる”は何回でも打ち上げられるんだ」
「ほえぇ、すごいねぇ。それってその分お金かからないんだよねぇ」
「の、はずだったんだけど……」
「?」
 あらら、アメリー君、急に萎んじゃいました。
「続けてみたら、これはこれで結構お金がかかってさ。そりゃ研究には便利だけど、ただ打ち上げて楽しむだけだったら、普通の使い捨て花火の方が安くついちゃうんだよ」
 そうなのです。最近NASA工房に威勢がないのはこのため。どんなにきれいですばらしい花火でも、大赤字じゃ家族会議で槍玉に上がる一方。世知辛い世の中です。
585打ち上げ花火(その3):2001/07/20(金) 06:40 ID:XMmcEFtU
「おーっほっほ! それでしたら我が家の“ありあん”の独壇場ですわね!」
 と、フランソワーズちゃんが割り込んできました。フランソワーズちゃんちの“ありあん”は普通の使い捨て花火ですが、大量生産でお買い得。とにかく手っ取り早くどかーんと花火を打ち上げたいご町内の皆さんに引っ張りだこなのです。
「確かニホンちゃんもお得意様でしたわね〜。そちらは何やらてこずっている様ですし、もっと注文を入れていただいてもよろしくてよ? いくらでも協力して差し上げましてよ〜」
「う、うん……」
 本当は、ニホンちゃんちもこつこつと花火を作りつづけてはいるのです。で、“えいちつー”というすごい花火で“ありあん”に勝負をかけようと思っているのですが、らしくなくこの所失敗続き。仕方なく“ありあん”のお世話になっているという訳です。ここを突かれると、さすがのニホンちゃんも肩身が狭くて小さな胸がちくちく痛むのです。技術一家のプライドという奴でしょうか。
「ま、最近はロシアノビッチ君の追い上げがありますから、そううかうかしてもいられませんけど?」
 とは言いつつもフランソワーズちゃん、ロシアノビッチ君をちらりと見やった目は余裕しゃくしゃくです。
「…………」
 相変わらず無言のロシアノビッチ君。ええ、確かに没落前の資産をやりくりして作っている量産型花火は激安価格で健闘しています。貴重な財源です。でも相変わらず打ち上げ失敗が多くて「安かろう悪かろう」としか見られていないのが実情なのです。相変わらず酒は不味いのです。
 おっと、安かろう悪かろうと言えば……
「ニダニダニダニダ! 今アリランの話をしてたニダね〜!」
「きゃあ!」
「わあ!」
 お待たせしました。呼ばれてもいないのにカンコ君登場です。
「ああアリランアリラン、ウリナラマンセー! セガカラにもX2000にもアリランが入ってないニダ! ウリナラに対する侮辱ニダ! 反省しる! 謝(略)」
 とアリランを歌い始めます。
586打ち上げ花火(その4):2001/07/20(金) 06:43 ID:XMmcEFtU
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 みんなから一発ずつボコられて(ニホンちゃんは後ろでオロオロ見てただけですけど)やっと静かになったカンコ君、花火の話題と聞いてまたまた元気百倍。すったーん、と机の上に仁王立ちです。
「花火ならウリナラが最高ニダ! ウリナラでは“ウリナラ花火軍”を創設するニダ! ウリナラマンセー! ウリナラ半万年の文化と技術で夜空の未来はウリナラが築くニダ! マンセー! マンセー!」
『…………』
 みんな、顔がハァ?です。
「ニ、ニダ?」
「……それってさあ」
 アメリー君が思いっきり胡散臭げにつぶやきました。
「ちょっと前、ロンおじさんがア○ツ○イ○ーになる前にぶち上げた“SDI50万発計画”ってのがあってさあ。ロケット花火対策で町じゅうの夜空をうちの花火で支配しようって奴。ロケット花火でヘロヘロになってるのにそんな金あるかって家族会議で即刻却下されたんだけど、君んちにそんな金あるの?」
「ニ、ニダ……」
「それ以前に、大体ですわ」
 フランソワーズちゃんがアメリー君をじろりと一瞥してから言いました。
「夜空は町内みんなのものですわ。それを軍だなんて、きれいな夜空まで家庭間の覇権争いに巻き込むつもりですの!?」
「パ、パイティン……」
「…………(シラネーヨ)」
 と、ロシアノビッチ君。
「…………(馬鹿め)」
 と、ゲルマンスキー君。
 最後の望みを託して、ニホンちゃんに救いの目を向けます。
 無言です。
 しかし、その哀れむような目が確かにこう言っています。
(あのねカンコ君、ニホン、それっていけない事だと思うのっ)
「ア…ア……アイゴオオオオオオオォォォォォォォォォ……」
 夕日にダッシュするカンコ君でありました。

 すっかり白けてしまったその場は解散。みんな三々五々散っていき、一人残ったニホンちゃんは思いました。
(この間ニダニダ言うから貸してあげた「王立花火軍 オネアミスの翼」のLDがいけなかったのかしら……)
587打ち上げ花火(余談):2001/07/20(金) 06:43 ID:XMmcEFtU
 余談。
 それはそうと、ニホンちゃんはいくら失敗しようと“えいちつー”花火を完成させなければならない理由があるのです。
「そろそろうちも自前の“ご町内見張り花火”打ち上げないと……アメリー君の花火に頼りきりなのも何だし、この打ち上げばっかりはフランソワーズちゃんにやってもらう訳には行かないし……ハァ」
 ふくらみかけの胸がちくちく痛みます。
 まったく、世知辛い世の中です。