【ノーベル賞への】韓国ミステリ等【どこでもドア】

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644スピノザ ◆ehSfEQPchg
 今日は、比較的過ごしやすい陽気ですが、悪妻によりますと、明日から
二週間ほどまた暑くなる予報だそうでして。
 いささかうんざりします。
 やはり、今こそ必要なのは政権交代ではないか〜〜〜。(苦笑)
 とうとう病膏肓にいり、「クロガネ」のコミックもそろえ、たまった
ジャンプとともに、読み耽りました。
 こらっ、五十九歳、何をやっておる!
 ですね。(苦笑)
 では、今日の分のうpに入ります。

 あらすじ5

 チョンノ美術館の女性キュレーター、カン・ユニは、キム刑事と待ち合わせた。
 カンは三十代半ばで、美人で繊細でやさしい雰囲気を持っていた。(!)
 だが、しっかりした意志の強さも感じられる。
「ここは大丈夫なんですか?」
 キム刑事が、メトロギャラリーを見回しながら言った。
「ええ、オープンは十時からです」
「絵は良く分かりませんが、へえきらびやかですね」
「デイヴィッド・ホックニーの作品です。みんな何十億ウォンもする作品なのです」
「はあ、ところで私に会いたいとおっしゃったのはなぜでしょう?」
「ナ主任の話です」
「え?」
「ナ主任が海外でロビー活動をしたという情報がキム刑事に入ったという話を
聞きました」
「どうしてそれをカンさんが?」
「ここはとても狭い世界ですから」
645スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/09/01(土) 15:04:56.66 ID:K/bchZs7
「しかし、ナ主任に関する噂は事実ではないとビョン室長が言っていますが」
「いいえ、それはすべて事実です。チ画伯とユン画伯の海外公募展での大賞は
美術館側のロビー活動が決め手となりました」
 キム刑事は、注意深く訊いた。
「それにパク館長は関わっていますか?」
「いいえ。実質的に主導したのは……ビョン室長です」
「パク館長が関わっていないというのは不思議です」
「パク館長は三年前に長男を亡くしてから鬱病になり、実質的な仕事から手を
引いていたのです」
「しかし、金が必要な問題は、パク館長の許可が必要だったんじゃありませんか」
「海外有名公募展などで受賞すれば作品の値段が跳ね上がります。そうすると、
ビョン室長とナ主任に一定の手数料が入るのです」
 キム刑事は頷いた。
「そして、後になってからパク館長がそれを知ってしまったのです」
「では、カンさんは館長の自殺はそのせいだと思うのですか?」
 カンがゆっくりと頷いた。
「だったら、その前の事件は? チ画伯とユン画伯の件はどうでしょう?」
「韓作連ってお聞きになったことありますよね?」
「ええ」
646スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/09/01(土) 15:05:32.33 ID:K/bchZs7
「韓作連とチョンノ美術館は犬猿の仲です。その韓作連にばれてしまったのです」
「尻尾をつかまれてしまったんですね」
「チ先生とユン先生は確かに素晴らしい芸術家です。しかし、作品の値段が
今のように数十億ウォンになったのはビョン室長とナ主任の手柄なのです」
「なにかありましたか?」
「恐喝や脅迫は言うまでもなく、チ先生の場合暴行事件にも遭っています」
「そのお二人はなぜ亡くなったと思っていますか」
「自殺ではないかと」
「自殺? 二人とも?」
「ええ、すべてが暴露されれば、芸術家のプライドが傷つきますから」
 キム刑事はしばらく頭の中を整理した。
「すべてがこの数年間、美術市場に突然お金が集まってきたからです。(原文ママ)
韓国の美術界そして芸術家たちは、これまでお金がなくとも幸せでした。苦しくても
辛くても、こんな事件はなかったのです」
「よく分かりました」
「ジュンギさんが『美術館の鼠』の原稿をなくさなかったら。パク館長が最後に
残した重要な情報や資料が入っていたと思います。しかし、パソコンがまるごと
なくなってしまって=v
 時間が止まったような静寂があった。
 キム刑事はもはやカンの話を上の空で聞いていた。(!)
647スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/09/01(土) 15:24:23.29 ID:K/bchZs7
 病室のドアを開けるとヤン・ヌリが音楽を聴いていた。
「来てくれたの?」
 ヌリがジュンギの姿に驚きながらヘッドフォンを外した。
 (ヌリの顔は)真っ青で目の奥が色褪せた写真のように濁っていた。
 当然のことだった。
 父親のように慕っていたパク館長の死体を目撃したのだから。
「今日、退院すれば明日からまた美術館か?」
「そう。私だけこうしているわけにはいかないわ」
「館長の自殺はまるで殺人事件のようになってしまった。だれが館長を死に
追いやったか、になっている」
「ジュンギはどう思う?」
「僕? 分からないよ」
 ジュンギはカバンの中から小さな箱を取りだした。
「きみの好きなお菓子(!)を買ってきた」
「あら、ちょうどこれが食べたかったのよ」
 ヌリがやっと明るい笑顔を見せながら箱を開けた。
「今年の初めから館長の様子がおかしかったの」
「どんなところが?」
「鬱病に対人恐怖症。特に対人恐怖症が酷かったわ。小さいことにいらいらして、
それがビョン室長とナ主任に向けられていたわ」
 ヌリがオレンジジュース(!)を飲みながら言った。
「忙しくなるわ。パク館長の所蔵品だったシンディ・シャーマンの写真の
オークションもしなくちゃならないし。それが終わると、イム先生の回顧展の
記念が秀を渡して回らなくちゃならないし」
648スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/09/01(土) 15:24:56.60 ID:K/bchZs7
「画集?」
「パク館長が、作品の選定から写真撮影(!)まで、全部一人でやったのよ」
 ジュンギは、そのイムの画集を取り出した。
「イム先生の絵が難しいと言ったら、作品の秘密は作品の中にあるから、あまり
難しく考えないようにって」
「他には」
「〈テンペスタ〉の話もしてた。館長の最も好きな絵だとおっしゃってた」
「今、ジュンギは凄く変な話ばかりしてる。館長が〈テンペスタ〉の絵を見たのは、
今回が初めてよ。長い間、現代美術にだけ関心をもっていらっしゃったので、古典
には詳しくないの」
「そうだったんだ」
 ジュンギは、席を立った。
 アトリエに戻ったジュンギはイム・ヨンスクの画集を開いた。
「Women,the World」というタイトルだった。
 何かが落ちた。
 パク館長が挟んでおいた、ヴェネチア派絵画展のチケットだった。
 最後のページに驚くべきものがあった。
〈テンペスタ〉のカラーコピーが貼ってあったのだ。
 パク館長が貼ったものだろう。
 なぜ、好評だったヴェネチア派絵画展を打ち切ってまで、自分の個展を開こうと
したのか。
 ジュンギは、〈テンペスタ〉に描かれた裸の女性を食い入るように見つめていた。