【ノーベル賞への】韓国ミステリ等【どこでもドア】

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567スピノザ ◆ehSfEQPchg
 北の国は、ようやく少し過ごしやすくなって参りましたが、西の方は、
まだまだ厳しい暑さが続いているやに聞き及んでおります。
 みなさま、お元気でしょうか?
 今日の分のネタを投下させて頂きます。

 あらすじ3

 パク館長の葬儀は、質素だった。
「ジュンギさん」
 呼びかけたのは、ナ主任だった。
「イム先生の個展と、ジュンギさんの個展は、成功させなければなりません」
「ジュンギ」
 アート・フィールド誌のオ・ジンファン記者だった。
「原稿の件、すみませんでした」
「『美術館の鼠』という原稿か? 今原稿どころじゃないんだ」
「何かあるんですか?」
「明日の夜、時間があるか? 一杯やろう」
 オ記者は、足早に葬儀場の中に入っていった。
568スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/30(木) 14:06:49.79 ID:vTkOZL1U
 閉館後の美術館のカフェはわびしいものだった。
 ビョン室長は、室内の明かりをすべて点けた。
 キム刑事は、美術館は幻想を売る空間だと思っていた。(売る!)
 美術館の中には常に美しさと崇高なものが存在しなければならないと思っていた。
 ビョン室長は、椅子に座るとタバコを取り出した。
 彼は、キム刑事にもタバコを勧めた。
 四十歳のビョンは小太りの中年男だった。優しくて気さくな印象だが、
隙のない目つきとカリスマを備えていた。
 ビョンが言った。
「明日、正式に事件の捜査を依頼することにします」
「ビョン室長、単刀直入に聞きます。パク館長はなぜ自殺したと思いますか?」
「マスコミを通して、パク館長は韓国の現代美術を導いた偉大な人物として
知られていますが、美術界での評判は必ずしもそうではありません。優れた
人物には敵が多いものですから」
「分かります」
「ここ二、三年前から美術界にたくさんのお金が流れてきました」
 キム刑事は、何も言わずに、話の続きを待った」
569スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/30(木) 14:11:41.12 ID:vTkOZL1U
「韓作連、つまり韓国作家連盟はご存知ですか」
「聞いたことはあります」
「五年前まで、韓国の美術品の大半は、韓作連に所属する作家のものでした。
作家から受け取る仲介手数料が三〇から四〇パーセントにもなるので、韓作連
は毎年、莫大な収益を得ていました」
「そうですか」
「まあ、それくらいの営利活動は当然のことです。しかし、暴力団を使って
オーダーを取らせたり、収益ばかりに気を取られて作品のレベルは落ちたり、
作家の名前を盗用したり贋作を作ったり、と困ったものだったのです」
「そうでしたか」
「それで、美術界全体のイメージが悪くなりました。そこで、パク館長が
作品の取引を透明にしたりして、法律の制定にも関わりました。その結果、
チョンノ美術館の評判が上がり、専属作家たちの活動も盛んになったんです」
「意図は道であれ、それが韓作連の人たちを刺激したんですね」
「おっしゃる通りです。脅迫もありました。中でも、チ画伯(交通事故にあった)
の件があるので、私は韓作連を疑うのです。チ画伯は、四年前まで韓作連に所属
していました。その天才を惜しんだパク館長が引き抜いたのです。その後チ画伯は
世界的な画家にまで登り詰め、作品の値段も国内最高額になりました。その後、
チ画伯は脅迫に悩まされ、二回ほど暴行にも遭っています」
「まさに伏魔殿ですね」
「ええ、ここは……芸能界と同じようなところです」
「韓作連を当たってみましょう」
570スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/30(木) 14:26:14.18 ID:vTkOZL1U
「以前、検察で何度か韓作連を捜査したことがあります。その際の資料を
ご覧になるのも役に立つかも知れません」
「調べてみましょう」
「もう一カ所、ユジン・オークションという疑わしいところがあります。
東洋画を専門に扱う競売市場です。美大の先生を買収して値段をつり上げたり、
中国から贋作を持ち込んだり。それで、ユン画伯が呼びかけてユジン・
オークションを利用しないようにしたのです」
「(失踪した)ユン画伯がですか?」
「ええ。ところが、ユジン・オークションの代表が韓作連の総務の実兄なのです」
「では、ビョン室長は、パク館長の自殺が韓作連などと関係があると見て
いるんですか?」
 ビョンは、ゆっくり頷いた。
「今年に入って、パク館長の様子が変わりました。美術館の業務からほとんど
手を引いてしまったのです。チ画伯の死とユン画伯の失踪、それにご長男の死
による鬱病……、心身ともにぼろぼろになっていたようです」
 キム刑事は、イムが話していたロビー活動について聞いてみた。
「相当誇張された話ですね」
「ロビーではないと言うんですか?」
「はい。ところで、『美術館の鼠』という原稿の話、ご存知でしょうね?」
「ええ」
「その内容の入ったパソコンがすり替えられたようです」
 しまった。パソコンの内容を確認しなかったのは、大きなミスだ。(!)
「ポイントは『美術館の鼠』という原稿ですね」
「そうですね。単純なコラムではないことを、誰かが知っていたんでしょう」(?)