419 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :
あらすじ10(再捜査)
太五は、バスターミナルに行った。
暖炉の側に警官がいたが、太五はわざとその暖炉に向かった。
心臓が早鐘のように打つ。しかし素知らぬふりを続ける。
警官二人は、太五と気付かずに世間話をする。
七時出発のソウル行きの高速バスに乗る。
眠りこけ、夢うつつの中で、自分に関するニュースを聞く太五。
ソウルに着いた。小便(また!)がしたくてトイレに入る太五。
すると、隣の老人が古ぼけた帽子をかぶっていた。
変装のために、その帽子を譲り受ける。
その変装のお陰か、太五は検問に引っかかることもなく(!)街に入る。
街路のあちこちに、銃を担いだ機動隊員が立っている。
写真屋で、スピード写真を撮る。
それから旅館に入る。
海辺のあばら屋から盗んできた、未亡人の夫の住民登録証に貼られていた
写真を、今撮ってきたばかりの写真と貼り替える。
街に出て、ビニールコーティングをしてくれる店に入り、ナイフで脅して
コーティングさせる。
そして、店の主人を殴り倒して逃走する。
太五は、わざと警官に近づき、職務質問を受け、新しい住民登録証を見せる。
警官は、目の前にいるのが指名手配人だとは気がつかない。
420 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/22(水) 13:15:28.53 ID:lHUFUuj8
禹刑事は、真向かいにいる若い男をにらんだ。
若い男、梁テジョは太五の妻が殺されたSホテルのボーイである。
禹刑事は、もう一度一年前の事件を再現してみようと思ったのだ。
「あの日、崔太五がこの部屋から出るのを最初に目撃したのはおたくでしたな」
「そ、その通りですが」
「崔太五が、あの女を殺すところは見たのかね?」
「殺して、出てくるところを見たんです」
さらにテジョは続ける。
「最初はこそ泥だと思っていました。ですから泥棒って叫んだんです。
で、部屋に入ってみたら、女が死んでいたんです」
「どんな風に死んでたのかね?」
「ベッドの上で血まみれになって斃れていたんです。シーツ自体が赤く
染まって血の臭いがしてました」
「あの日、十五階には、四十室のうち三十四室に客が入っていた。おたくが
一人であの階を担当していたんだよな」
「ええ」
「太五は、偽名でこの部屋のすぐ隣、十九号室に泊まった」
「ええ、その通りです」
「一人で?」
「ええ、一人でした」
禹刑事は、あまり新しい事実が出てこないので、がっかりした。
421 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/22(水) 13:16:01.26 ID:lHUFUuj8
禹刑事は、その部屋を借りて泊まりこんだ。
やつは、今どこでどうしているだろう?
水も漏らさぬ(!)捜査網を逃れて回る秘訣はなんだろう。
ベッドに横たわる。
ふと、自分が太五の妻が殺されたベッドに横になっていることに気付き、
ゾッとして鳥肌が立った。(冷血漢なのに?)
禹刑事は、殺された妻になりきったつもりで横たわる。
(以下、一ページにわたって延々と妄想)。
「あぅっ!」
禹刑事はうめいて起き上がる。
呼吸が荒くなる。
妻を殺した犯人は、入ってきたときと同じように足音も立てずに部屋から
消えていったのだろう。
続いて太五が入ってくる。
しかし、すでに相手は死んでいた。
太五は慌てふためき、部屋を出る。そしてボーイと出くわす。
だとすれば、本当の犯人はどこへ消えちまったのか。
何者なのか。なぜ彼女を殺したのか。(禹刑事は、なぜ他に犯人がいると
思ったのかが書かれていない)。
422 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/22(水) 13:24:19.71 ID:lHUFUuj8
禹刑事は、ベッドを下りソファーに座った。
三十四枚の宿泊カードを子細に調べ始めた。
押収して保管していたものを、廃棄寸前に彼が救い出したものだ。
女の宿泊客が四人。
後はすべて男だった。
女たちが、堂々と名前を明かしながら泊まったのはどうしてだろう。
女が一人でホテルに泊まるのは極めてまれなケースである。
ややあって、禹刑事は羅起龍のところに赴く。
羅起龍が犯人である可能性はない。
完全にアリバイが立証できるのだ。
羅起龍のところには、若くて官能的な(またかよ)美人がいた。
羅起龍の側では、女の子が漫画を読んでいた。
禹刑事は、娘に話しかけた。
「可愛いお嬢ちゃんだね。なんて名前かな」
「羅愛美(ナ・エミ)」
「いくつ」
「七歳」
若い女が、お茶の準備に立つ。
「あの人は誰なんです?」
「私の追っかけなんです。看護に来てくれたようなわけでして」
423 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/22(水) 13:25:23.98 ID:lHUFUuj8
「実は、今例の事件を再捜査していましてね」
「じゃ、崔太五は見逃すってことで?」
羅起龍の顔が恐怖で硬くなる。
「いやそういうことじゃない。ただ真実は明らかにしないと」
禹刑事は、例の、真犯人だと名乗る人物からの手紙を羅起龍に見せる。
手紙を読む羅起龍の顔から、次第に血の気が失せていく。
「そんな馬鹿な……」
「この筆跡に覚えはないですかね」
「け、見当もつきませんが」(ここ、重要です)。
羅起龍が言う。
「いたずらじゃないですか?」
「違うね。そんなものじゃない」(この自信はどこから?)
禹刑事が言う。
「自意識過剰なやつなのさ。警察を馬鹿にしくさっておる」
禹刑事は、本や雑誌が積み上げられた机に向かう。
ノートのファイルがあった。
「これはあなたがお書きになったものですか?」
「そうですよ」
ノートを見たが、例の手紙とは似ても似つかない筆跡だった。