【ノーベル賞への】韓国ミステリ等【どこでもドア】

このエントリーをはてなブックマークに追加
394スピノザ ◆ehSfEQPchg
 お暑うございます。
 少し遅くなりましたが、今日の分のネタを投下いたします。

 あらすじ9(逃避行)

 その女(あばら屋の主)は二十六歳だった。
 二十歳に結婚した。息子が一人生まれた。
 しかし、不意に夫を失い、一人で息子を育ててきた。
 太五と和子に部屋を貸してから、二人が真っ昼間から乳繰りあっているのを見て、
嫉妬の炎を燃やすようになった。
 彼女は、息子を連れて行商に出た。魚を売るのである。
 しかし、売れ行きが良くなかったので、魚を全部捨て値で売り、バス停に来た。
「かあちゃん、あれ見ちゃって。おっちゃんじゃ」
 待合室に、手配写真が貼られていたのだ。
 一千万ウォンの懸賞金である。
 近くの交番へ向かった。
 せかせかと歩いた。ゆっくり歩くと、体が震え小便≠漏らすのでは、
と思ったからである。
 しかし、いよいよ交番にくると、その前を行ったり来たりし始める。
 そして、足はむしろ交番から遠ざかる方に
395スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/21(火) 16:00:08.41 ID:kKA3fTyY
「あいつら、どがーにしちゃるか?」
 かまどの前にしゃがみ込む。
 太五は(急な視点の変換)和子の、穏やかで邪気のない寝顔に見入る。
 太五が、外に出ると、家主の女は縁側に座っていた。(急な移動!)
 家主の女が、強烈な視線で太五を見た。
「お二人は、夫婦なんかいね?」
「ち、ちがうんです」
「恋人同士なんよね?」
「ま、どう思われてもかまいませんが」
 子供がやってくる。
「おっちゃんの写真、見たんじゃ」
「ど、どこで見たんだい?」
「かあちゃんと一緒に」
「かあさんも確かに見たってことかな?」
「うん。かあちゃんはながーこと見ちょった」
 太五は、ぐるりを見廻した。
 警察に通報されているのなら、もうこの辺りは包囲されているだろう。
 女と太五の視線がぶつかり合う。どちらの顔にも、怯えの色が見える。
396スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/21(火) 16:00:53.53 ID:kKA3fTyY
 太五は、逃げる潮時が来たと思ったものの、なぜだかそうしたくはなかった。
「おかみさんも見たってことなのかな?」
「…………」
「警察がやって来るんだろうね?」
「…………」
「もう死ぬ覚悟はできてるさ。別に怖くはないがね」
 と、女が叫ぶように言った。
「なんもゆーちょらんよ!」
「おれが怖くないのか?」
「写真を見たときは怖かったんよ。けど、今はそうじゃねいけえね」
 太五が、廃船のある方向に向かうと、女もついていった。
 夜になった。
 不安な夜だった。
 万一、警察が現れたら、どうせ死ぬのだ。射殺された方がいい。
 しかし、なぜ彼女は通報しなかったのか。
 太五は、ゆっくりと女の部屋に足を進めた。
 女は待っていた。
 そういうことなのか! 戦慄が走る。
 部屋に入ると、飢えた女の独特の匂いが漂ってくる。
 布団を剥ぐと、女はシミーズ風の下着で俯せになっていた。
397スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/21(火) 16:10:24.87 ID:kKA3fTyY
 成熟した女体の色っぽい雰囲気に釣り込まれてしまう。
 愛撫すると、女は狂ったように身悶えした。
 女は、喜びのあまり泣き続けていた。
 若い未亡人の恨のこもった涙だった。
 終わった後、女の身の上話に耳を傾ける。
 裕福な家の末娘として生まれたが、母親が死に、継母にいじめられた。
 そして、家を飛び出し、四十前の漁師に出遭い結婚する。
 しかし、夫は海で亡くなってしまう。
 それ以来、太五は、二人の女の欲求を、毎日満たさざるを得なくなる。
 太五は、日に日に疲れていった。
 未亡人も、和子も、際限のない欲望を持っていた。
 手を出すべきではなかったと思ったときは覆水盆に返らず=B
 やがて、和子が事の次第に気付く。
 未亡人が、夫に仕えるように太五に仕えていると言うのだった。
 太五は、馬鹿なことを考えるなとしかる。
 女は、様々な変則的な体位を要求するようになる。
 と、和子が部屋に入ってきた。
 二人の女が、つかみ合いの喧嘩をする。
 しかし、その後は、太五は自然に二人の女の間を行き来するようになる。
 そうは言っても、身が持たない。
 ついに太五は置き手紙をし、そのあばら屋を抜け出した。