【ノーベル賞への】韓国ミステリ等【どこでもドア】

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349スピノザ ◆ehSfEQPchg
 おはようございます。今日の分のネタ投下いたします。

 あらすじ8(疑惑)

 禹刑事は、立て続けに煙草を吹かしていた。
 マスコミが、こぞって警察の無能を非難していた。
「来年までに逮捕しろ! 辞表を出して捜査に臨め」
 最高幹部の檄が飛んだ。
 太五のために、全捜査員が駆り出された。
「娼婦を連れているんだから、目につきやすいはずだが」
「女連れとなれば、金もすぐ底をつくだろう」
 若い刑事たちが言う。
「おかしなやつですね。いつ死ぬかも知れないのに、女だなんて」
「わしにはわかるな」
 禹刑事が言った。
「女に溺れることで不安な気持ちを忘れようとするんだろう。不安から
逃れる方法とすりゃ女の体が最高だ」
350スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/18(土) 10:41:54.05 ID:ACuDB2mP
 白い波濤が高くうねっている。
「わ、すてきね!」
 少女じみた娼婦が、しっかりと太五に腕を絡ませている。
 お互いのことを、深く知り合ったふたりは、一層隔たりが縮まっていた。
「一緒に死のうよ」
「おれはごめんだね。生きていたいんだ」
 女の目に涙が浮かぶ。
 ふたりは、小さな木の船に腰掛け、荒れすさぶ海を何も言わずに見つめる。
 いくら見廻したとて、辺りには誰もいなかった。
「行きたけりゃ、いつだって好きにしろや」
「いやよ! 行かない!」
 健気に言う和子(ファジャ)
 太五が脱獄してから一週間経つ。
 禹刑事は、気を揉んでいた。
 街角や旅館では、二人連れがとんだ災難に遭っていた。
 そんなところに、差出人不明の手紙が送られてきた。
 太五の無実を主張する手紙だった。
 真犯人は、その差出人だと名乗り、警察を挑発する内容だった。
 混乱する捜査陣。
 禹刑事は言う。
「この手紙は、太五の妻の死についてだけ触れている。他の殺人については
触れていない。本物の可能性も否定できん」
351スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/18(土) 10:42:25.78 ID:ACuDB2mP
 新年の明け方。
 ふたりは、日の出を待っていた。
 日が昇ると、二人は新年の挨拶を口にする。
――火の塊が水平線の上にぬっと出てきた。巨大な火の塊が揺れている。――
 船から下りて、二人は海辺を歩く。
 太五は、白い貝殻を拾い和子に握らせる。
「おれが怖くないのか?」
「こわくなんかない。ちっとも」
「同情なんかして欲しくない」
「一緒にいたいからじゃないの! そんなこと言わせないで!」
 彼らは、浜辺に建つ、とあるあばら屋で一間を借りていた。
 若い未亡人と、幼い息子だけで住んでいたのである。
(未亡人は)見知らぬ男女が現れて、礼金ははずむというので、
下宿人として受け入れたのである。
 太五と和子が家に戻ってくると、小さな子が飛び出してきて言う。
「おばちゃん、ごはんだよ」
 二人の親しげな姿を、若い未亡人が無表情に眺めていた。